Lucky 7 *各方面お子様借りております。 【リゼットさん×ネモフィラ】 バレンタインである。勿論彼女の腕の見せどころな勝負の日で、単純に料理が好きな彼女の息抜きの日でもある。製菓は細かな作業が多く、分量を間違うだけでも味が変わってしまうところが難しい。だがそれだから、非常に燃えるのだ。 「さあ、リー!たんとお食べよ!」 机にずらりと並ぶのは今日の成果である。チョコレートケーキは勿論のこと、ガナッシュやトリュフ、ザッハトルテ、ブラウニーにガトーショコラと勢揃いだ。 椅子に座らされたリゼットは目の前のチョコレート菓子たちに目を丸める。出てきても一種類だと思っていたのだろう。この短時間でよくやったものだと思わず苦笑いが漏れる。 「マジか……ネモめっちゃ頑張ったなこれ」 「いやぁ、リーに!って思ったら手が止まらなくなっちゃってさ。日保ちしないのから食べてね?」 どうやら持ち帰らせる気満々のようだ。ここから数日は甘いものに困らないなと、リゼットは内心で呟くのだった。 * * * 【雨藍さん×ゼラニウム】 渡せるわけがない。自分は可愛らしい女の子ではないのだ。しかしまあ、準備をしてしまうのは自分の性格と言うやつだろう。昨今では同性がチョコを渡すこともあると聞いたことがある。それだ、それに間違いない。よし、なら渡せる。 「おや、ゼラくん。何を持っているのかな?」 「どわぁぁぁぁっ!?」 予想だにしない問い掛けを背後から受け、同時にするりと尻を撫でられる感覚。反射的に手が出るものの予想通りだったのか、雨藍は笑いながら優雅に拳を避ける。宙を舞ったチョコレートの箱は綺麗に弧を描き、とさりと雨藍の手の中へと落ちた。 同時にゼラニウムの顔は髪と同じくらい真っ赤に染まり、雨藍はおやおやと小さな声で呟いた。 「……きょ、今日バレンタインだろ。やるよ」 観念したゼラニウムの喉から絞り出した言葉は負け惜しみなのか、照れ隠しなのか。もう聞き出すのは難しそうだ。 * * * 【メテオールくん×オランジュ】 遂にこの日が来てしまった。オランジュは深い溜め息を吐く。バレンタイン、愛を物に乗せて伝える日。既製品の菓子を用意しても、夫は彼女が口にするようなものが苦手だと知っている。ならば手作りを。そう思って従者に師事を仰いだが上達する気配など微塵もなく。 「はぁ……わたくし、メテオールさんを喜ばせたいだけなのに……」 悩んでいても仕方ないのはわかる。だが菓子では上手くいかない。ほとほと困り果てると、目の前に生けられた一輪の薔薇が目に留まる。これだ、と脳裏に電流が走った。花壇には自分も水をやっていた薔薇園がある。これを、彼に。 薔薇の花束を持って、彼のもとへ。メテオールは胸に薔薇の花束を抱いたオランジュの姿を目に留めると驚いた表情をした。 「えっ、オランジュ……その花束誰から、」 「メテオールさん、わたくしお料理は出来ません……けれど、お世話をしていたお花は渡せます」 そう言ってすっと花束を差し出す。メテオールは花束とオランジュの顔を交互に見つめ、やがてことを理解したのか温かな笑顔を浮かべてくれた。 * * * 【直くん×ローズ】 手提げ鞄に詰め込まれたのは大量のお菓子である。期間限定品や、地域限定。手を繋いでたくさんの店を回り回ってこれだけ買い占め、今はふたりで余韻を味わいながら休憩中なのだ。 世間はバレンタインということもあり、チョコを取り扱う店が多くローズはご満悦の表情を浮かべている。隣の直も珍しい菓子を試食して、感想を語っていた。 「あっ、そうだ。直ちゃん、はいっ、バレンタイン!」 可愛らしいラッピングは回った店のどれでもないようだ。直が不思議そうに目を細めると、ローズは胸を張ってふんすと鼻を鳴らした。 「ふっふーん、あたし特製・ザッハトルテでーす!」 「わぁ、ローズちゃんの手作り?嬉しい!」 直は心の底から喜んでくれたようで、ローズの表情はへにゃりと崩れた。甘いお菓子は幸せを運んでくれる。これだから、やめられない、と。 * * * 【泉さん×ミンク】 いつものように貸本屋の扉を開ける。本特有の匂いがして、無意識にミンクの頬は弛んだ。今日はなんの絵本を借りようかと鼻唄混じりに棚の間を歩き、視線の先にひょろりとした男性を見つける。泉は本に集中しているようで、まだミンクがいることには気付いていないようだ。そっとカウンターに近寄り、とんとん、とカウンターを指で叩いた。 「っ!?…………あ、ああ。ミンクか、いらっしゃい。いつ来たんだ?」 「んーとねぇ、ついさっきだよぉ。泉くん、集中してたからねぇ」 彼の手にある本を覗き込むと、難しそうな言葉が羅列している。うーん、とミンクは唸って首を振る。矢張彼女には難しかったようだ。すると、ほぼ同時に驚いたようにあっと声をあげて持っていた鞄を漁った。取り出したのは押し花をあしらった小さな栞。 「いつもお世話になってるからねぇ、泉くんにバレンタインだよぉ」 ふにゃりと微笑むと、泉の頬に朱色が差したようなそんな気がした。 * * * 【イナさん×クルック】 街がにわかに騒がしい気がして、クルックは露店を覗いた。店に所狭しと並んでいるのはチョコレート菓子。バレンタインにはチョコレートを!と書かれたチラシを見て、やっと合点がいった。バレンタイン。少し前なら無縁なものだと思っていたが。 「……イナに何か買っていってやろう」 旅の連れを思い出し、思わず顔が綻んだ。彼は何が好きだったか。甘いものは食べられただろうか。嫌いでも食べさせてやろう。そんな風に考えながら、クルックは手頃なトリュフチョコレートを2つ、ラッピングしてもらって帰路に着いた。 またふらりと出掛けていたからか、戻った途端にイナは酷く安堵したような表情を浮かべていた。毎回水辺に行くわけではないと何度も言っているのに説得力はないようだ。 「ああ、忘れるところだった。イナ、バレンタインだ。チョコレートを売っていたから……食べないか?」 「俺に?クルックが?マジで?」 お前以外誰にやるんだ、なんて笑ってやればイナは照れたように笑っていた。 * * * 【九浦くん×薫】 彼と正式にお付き合いをするようになって初めてのバレンタイン。心臓はどきどきと早鐘を打ち、頬は自然と熱くなっていくのが分かる。いつもなら学んだことを打ち出せばいいのに、この気持ちについてはどんなに書物を漁っても答えがなくて。薫は饅頭を入れた包みをきゅっと握りしめて目を閉じる。どんな場面に於いても冷静が大事。そうやって呪文のように口の中で言葉を転がすも、いつもの落ち着いた心を取り戻すには遠そうだった。 「くっ、九浦さんっ!あのっ、お口に合えばよいのですが!お饅頭を!作りましたのでよろしければ食べてくださいっ!」 勢いよく差し出した包みを、九浦は笑いながら受け取って封を解く。かさりと音がして、紙袋から甘い香りが漂った。袋に手を入れて饅頭を摘まみ、九浦は饅頭を頬張る。少しの静寂。そして。 「ん、美味しい。薫ちゃんの手作りでしょ?上手だよね」 「……!はい!ありがとうございますっ!」 褒められたことが嬉しくて、笑ってくれたことが嬉しくて。頬の熱は冷めないが、嬉しい気持ちが溢れてそんな些細なことは忘れてしまいそうだった。 |