Lucky 7 *各方面お子様借りております。 【リゼットさん×ネモフィラ】 ちん、とオーブントースターが軽快な音を立てる。あちち、と天板を引っ張り出して調理台の上に置かれたのは色とりどりのクッキーだ。チョコばかりでは芸がないと思い立ち、色々と本を読み漁った三日前。材料や調理器具を買い揃えた二日前。手順の最終確認と下準備をした昨日。そして、いざ往かんと張り切って調理に取り掛かったのは三時間前だ。 「うわ、いい匂い」 「今年はクッキーに挑戦したんだよ。ほらほら、出来るまで待ってて」 ホカホカと湯気を立てるそれを指差してにっと笑い、カウンターの向こうで破顔する彼に告げる。そう言えば大人しく頷いてそわそわとソファに腰掛けていた。 「……っくく」 何だかんだで言うことを聞いてくれる彼が可愛くて仕方ない。アツアツのクッキーにアイシングを施しながら、ネモフィラは自分の頬が緩むのを感じていた。 * * * 【雨藍さん×ゼラニウム】 ぎゃあぎゃあと喚いても、矢張りこの日に張り切ってしまう自分がいて。手の中に収まっているのは自分には似合わない可愛らしい箱だ。溜め息を吐いて目の前の彼に着き出すと、閉じた瞳が優しく笑う。 「今年は素直にくれるのかな?」 「……意地張っても、結局渡すことには変わらないし」 真っ赤になった頬が、心境を語る。相変わらず素直になれない男だ。雨藍がくすくすと笑うと、むすっとゼラニウムの目が細くなった。笑うなと言いたいのだろう。雨藍が口を開くのと、ゼラニウムが口を覆う布を外すのはほぼ同時だった。 「おれだって、あんたに触れたいって思うんだよ」 これ以上にないくらいに真っ赤になるなら、キスなんてしなければいいのに。でもきっと、そんなことを言うと怒るのは目に見えている。 * * * 【メテオールくん×オランジュ】 きらきらと目を輝かせているのは、間違いなくメテオールの妻だった。彼女の手には不格好なラッピングで包まれた箱らしきもの。先程すれ違った彼女のーー立場的にはメテオールの、でもあるがーー従者が御愁傷様と手を合わせていた理由が、何となくだが分かってしまった。 「……オランジュ、味見したよな?」 「はいっ、ばっちりでした!」 渾身の出来です、なんて輝いた笑顔で言われてしまえばこれは逃げ道なんてない。遠回しに言わなくても、オランジュの料理スキルは褒められたものではないのだ。焦げた気配のない料理を作れたら奇跡に近いレベルだった。 「わたし、メテオールさんの為に練習しましたから」 そう言って微笑むオランジュが奇跡を起こしてくれていると信じて、メテオールは苦笑するのだった。 * * * 【直くん×ローズ】 自分の名前に因んでバラを一輪。手作りのショコラに合わせて彼に渡すと、嬉しそうに目を丸めて大輪の笑顔が咲く。可愛いなあと頬が緩むと、まん丸の目が柔らかな弧を描く。開けても食べてもいいか、なんて聞かれなくても答えはイエスだ。 「今年もね、直ちゃんが幸せになーれっておまじない掛けながら作ったの」 「ローズちゃんの愛情たっぷりだね!」 勿論、と胸を張って笑う。開けられた箱から顔を出したショコラをひとつ摘まみ上げる。口に運ばれたそれを目で追って感想を待つと、彼の口がもぐもぐと動いた。 「どう?幸せになった?」 答えなんて聞かなくても分かってるのに。その言葉が聞きたくて、ついつい前のめりになってしまうのも、悪くない。 * * * 【ミツキくん×リフェール】 ん、と手を差し出す。理解できない様子のミツキにもう一度手を差し出す。その手に右手が乗せられてぶんぶんと首を振った。違う、そうじゃない。リフェールが今日はなんの日?と問い掛けると、逆に手を差し出された。 「リフルがくれるんじゃないの?」 「えーっ、お兄さんチョコレート食べたい!」 ちょうだいよーと左右に揺れれば、ぴしんと額に喰らうデコピン。思わず額を押さえて相手を見つめると、甘えたような年下の眼差し。その破壊力に胸がきゅんと締め付けられて、にへらと笑う。 「ちゃんと準備してるって。ミツキへのチョコ」 自分が食べたいのは本音だけど、プレゼントしたい気持ちが大きくて。ちょっと照れて手渡して、締まりのない顔は更に緩むのだった。 * * * 【泉さん×ミンク】 貸本屋の端で折り紙をする。遠目で見ている泉は溜め息混じりにその様子を眺めていた。本を読まずにいったい何をしているんだとカウンターを指で無意識に叩くと、ミンクはぱっと顔をあげて嬉しそうに泉の方へと向かった。 「泉くん、はい、これあげるねぇ」 「……なんだこれ」 小さく折り畳まれたそれは、正直なんだかは分からない。ひっくり返したり、見る角度を変えてみてもぴんと来るものはなかった。 答えを知ろうと折り紙から顔を上げると、彼女の顔は何故かとても誇らしげで。 「それはねぇ、泉くんのお顔だよぉ」 それがバレンタインのプレゼントだと気付くのは、もう少し先の話だった。 * * * 【イナさん×クルック】 チョコを咥えたまま仁王立ちをすれば、呆れと羞恥に目を白黒させる男がひとり。喋れないので顎を動かし、食べればいいと促した。いやいや違うだろ食べたいけどと聞こえたのは聞き間違いでは無さそうだ。仕方なく咥えていたチョコを飲み込み、口元を拭う。 「食べないのか?悪くない味だ」 「いや、そうじゃなくて!」 普段は肉食系なのに変なところで奥手だとクルックは思う。そしてぴんと閃いた。成る程そういう意味かとイナの肩を掴み、チョコが絡まったままの舌を、唇を、押し当てて捩じ込んだ。 「キスして欲しいなら言えばいい」 どや顔で言ってやれば、もう一度そうじゃなくて!と悲鳴が聞こえた気がした。 * * * 【九浦くん×薫】 洋菓子を。そう思って製菓の本を手当たり次第購入して、気が付けばバレンタイン当日。頭でっかちな知識の上に成り立ったレシピを必死で反芻しながら焼き上げたシフォンケーキは、少し形が悪くなってしまった。切り分けたら多少は誤魔化せるかなと考えて、浮かんだ嬉しそうな顔に、気が付けば頬の熱が酷くなる。 「九浦さん……喜んでくれるでしょうか……」 丁寧にラッピングしながら、不安を呟いてぶんぶんと頭を振る。弱気ではいけない。もっと自信を持たねば。出来上がったプレゼントを持って、大好きな彼の元へ。呼び掛けると振り向いて手を振ってくれる。立ち止まって待ってくれる。ドキドキと鳴る心臓が煩く感じた。 「今年はシフォンケーキを焼いてみたんです……あの、形がいびつですが、愛は込めましたのでっ」 「じゃあ美味しいに決まってるね、嬉しい」 お世辞じゃないその言葉に、今度こそ頬は真っ赤だ。思わず俯いてお口に合えばと口ごもって見えない照れ笑いを浮かべるのだった。 |