Lucky 7



小さな手を、小さな体を、気にしたことはあまりないような気がした。発育が遅くて周りの子は皆大きくなるのに自分だけ。まあたまに、そんな風に拗ねたこともあったけど。逆に小さい方が便利だ。戦闘中は身軽に動けるし、アドバンテージは大きい。元々運動神経は悪くなく、幼い頃から野山を走り回っていた。アラガミがいるから危ないと両親に怒られても、毎日のように悪さをしていたのはいい思い出だ。

「オリエ君は悩み事などないのかい?」
「ほぇ?」

エミールに誘われて午後のひとときを共にしていた時間。不意に訊ねられて、スコーンに伸ばしていた手を引っ込めた。随分と唐突な質問だ。オリエはうーんと小さく唸り、首を傾げる。悩み事らしい悩み事は思い付かない。強いて言うなら。

「……苦いものも、食べれるようになりたいってのかなー。」

こればかりは好みの問題だ、誰がどうこうして改善出来るものでもないだろう。とてもちっぽけな悩み事だ。答えを口に出したあと、改めてスコーンに手を伸ばしてぱくりと頬張った。

「ふむ、ではその悩み事を解決するには苦手になった理由があるかもしれない。オリエ君、思い当たる節などは?」
「えー……別になさそうだけどなー。」

ただ単に苦くて苦手。それ以上でも以下でもない。たぶん。理由なんてあってないようなものだ。だが存外にエミールはやる気に満ち溢れていて、別にどうでもいいと言うのも憚られてしまう。だから仕方なく、オリエは付き合うことにした。そう、仕方なく。エミールがやると言っているから。ただ、それだけ。

「んー……あ、昔コーヒー飲んでるお父さんが羨ましくて、飲ませてー!って駄々こねたことある!」
「それだッ!」
「えっ、関係ないでしょ?」
「いや、記憶というものは意外と重要だ……例えば、初めて味わったものを嫌いと思えば、無意識にそれを遠ざけてしまうものなのだよ……」

優雅にティーカップを口許へ運び、紅茶を飲みながらエミールは説明を始めた。と、同時にオリエはやってしまったという表情に変わる。話が長いのだ、彼は。以前神機の名前の理由を語られた時、気付けば太陽が見えなくなる程だった。
これは夕飯前まで確定だと諦めて、スコーンの隣にあったクッキーを小さな手で摘まむ。エミールの紅茶を、ストレートで飲んでみたいから苦いものを克服したかっただなんて、今さら言える雰囲気でも、なかった。





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