Lucky 7



エミールは悩んでいた。というのも、緑髪の少女の件だ。自分の卑劣さを悔やみ、殴ってくれと懇願した次の日から、どうも距離があるような気がしてならない。以前なら飛び掛かってきてぶら下がる、なんてことが日常茶飯事だったのに。先程もすれ違った時にとても曖昧な笑みを浮かべられて逃げてしまった。

「それさ、ドン引きされてるんじゃないの?」
「ドン引き?」

珍しく頭を抱えていたエミールに声を掛けたのはコウタだった。女心に疎い、というかマイペースを擬人化したような男にとって、人付き合いとは難しいのではないかなどと考えていた時期もコウタにはあった。しかし、予想を裏切る形で彼は見事に周囲に溶けていた。話を聞かないことは別として。
そんなエミールが困っている。これは隊長として隊員を助けるべきだと話を聞いたのだが、想像を斜め上にすっ飛んでいた内容に、今度はコウタが頭を抱える羽目になる。まさかブラッドの副隊長にそんな無茶振りをしていただなんて、誰が想像出来るだろうか。今度彼女の好きそうな茶菓子でもお詫びに渡そう、など余計な発想が頭をもたげて慌てて話を戻す。

「いや、ミッション終わりに急に殴ってくれだなんて俺だったら引くわ……」
「だが僕はッ!自分の醜い拘りを排除せねば先に進めないとッ!」
「あー……はいはい……」

本当にマイペース野郎である。だから殴れは、そりゃない。コウタは溜息を吐いて頭を掻いた。もうこの時点で押し問答、これ以上は長くなる上に言ってしまえば面倒くさい。取り敢えずオリエに謝ろうと、コウタは先程より大きな溜息を吐き出した。

* * *

「……ってわけで、ほんと俺の部下がごめんな?」

オリエを探しにいくと、存外あっさりと見つかった。流石に菓子折りを買う暇はなかったので手ぶらだが、彼女は特に気にした様子もない。

「んー、構わないんだけどねー。あたしも余計に殴っちゃったし。」

コップに投げられたストローをくわえて、オリエはイチゴオレを一気に飲み干した。ずぞぞっ、からん、とラウンジに鳴る涼しげな音。ミッションで人が出払っている分、その音はいつもより余計に響いていた。
コウタはオリエの向かい側に座り、来る前に買ったお茶を開ける。そう言えば、彼女と対面で話す機会は滅多になかった。

「あのさ、エミールに悪気がある訳じゃないからな?ほら、あいつ結構誤解されやすいけどいい奴だから……」
「だいじょーぶ、分かってるよー。」

気の抜けた声。だがそれが適当に言っているわけではないと、コウタには分かった。彼女は幼い。子供と言っても可笑しくない、そんな子があの特殊部隊で戦っているのだから驚きだ。
暫しの沈黙。話す話題がなくて、声が出ない。コウタが何を言おうか考えあぐねていると、あのさ、と少しばかり強ばった声が思考を遮った。

「ルミールに謝っといてもらって、いい?」
「へ?」

ルミールとは、彼女がエミールを呼ぶ時の渾名だ。尤も、初めてエミールがフライアを訪れた際にオリエが覚え間違い、現在進行形で使われているだけなのだが。それはいいとして。殴った本人が謝っておいてほしいと。コウタははてと首を傾げた。

「いや、でも殴ってくれって言い始めたのはエミールだろ?」
「そうじゃくてー……あのね、ルミール殴ったあとなんか気まずくて……避けちゃってたんだよ。」

既に空になったコップを握りしめ、オリエは呟く。成る程、彼女が避けていた理由はどうやらコウタの想像していたそれとは真逆だったようだ。ならさ、とコウタはお茶を流し込みながらオリエに向き直った。

「自分で言った方が、互いにすっきりするんじゃないか?」
「……だよねー。」

歯切れが悪いオリエの言葉を聞いたのは初めてかもしれない。年頃の女の子とは本当に難しいものだ。コウタは今日何回目か分からなくなった溜息を吐いてラウンジの天井を見上げるのだった。





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