Lucky 7 *フレベルですがフレデリク喋ってません、またクロマリ前提です。 自分に宛がわれた新しい部屋にどうしても慣れることが出来なかった。 人間が拵えた調度品は今まで暮らしていた自然の生活とは真逆だし、城内で時折感じる奇異の目もそろそろ見飽きてしまった。 タグエルである自分に、こんなにも煌びやかなものは正直、必要がなかったから。 しかしまあ、夫となった相手が城を離れることが出来ないのなら多少の我慢も必要だろう。 人間を愛してしまったが故の弊害だが、まだむず痒いものはある。 「……ふう。」 居室の一番奥、ふたりで寝ても充分過ぎるほどのベッドに腰掛けてベルベットは大きく息を吐く。 人間の生活に慣れる為にと夫を仕事に送り出してから、何から手をつけていいのやらで困ってしまったのである。 確かに今までは何でも自分で行わなければいけなかった。 それは頼る相手がいなかったからである。 「独りって……意外と暇ね。」 今の仲間達と共に戦ってからは独りになる時間はなかなか与えてもらえなかった、というよりも必ず誰かしらが寄ってきて人間の輪の中に投げ込まれてしまったのが現実だが。 だから、独りで生きていた頃を思い出すのが難しくなってしまった。 独りでいた頃はどうやって過ごしていたのか、暇と言う時間はあったのか、日と恋しいと言う時間は、夫の傍にいたいという時間は……それは、まあ、なかっただろう。 キングサイズのベッドで夜を共にするフレデリクは真面目を絵に描いたような堅物で、ベルベットに手を出すと言うことはあまりなかった。 寂しいかと聞かれると、何故、と答えてしまう彼女は性行為だけが夫婦の形ではないと知っているのだ。 だが、今は少しばかり寂しい。 どうしてか心の奥にちらつくのは彼を視界に収めたいという感情。 考えるより行動した方が早いだろう、人間観察にもちょうどいいからとベルベットは立ち上がり、夫婦の部屋を出た。 * * * イーリス城に潜入したのはエメリナを救う時だったか。 そのときは細部に目をやる必要がなかったから何も感じなかったが、今こうして見ると案外広い。 毛の短い絨毯は何処までも続くような錯覚に陥るし、似ている風景が続くからか目的地を見失ってしまいそうになる。 獣化して城の中を走れば早いのだろうが、それで何人かを突き飛ばす事故を起こしてしまって以来、フレデリクの名誉に傷がつくのが嫌で人間の姿で歩くことが増えた。 「フレデリクは何処かしらね、また中庭?」 独り言のように呟き、中庭の見える窓を覗いた。 すると予想通りだったようで新人達の指導に精を出す夫の姿を見つけることが出来た。 今声を掛けるのはどうだろう、仕事中に邪魔をするのは人間は嫌いのではないだろうか。 「あら、ベルベットさんじゃありませんの。」 窓に手を掛けてぼんやりと外を眺めていると、不意に声を掛けられた。 誰だろうかと(イーリス城だから見当はついていたが)振り向くと、そこにはマリアベルの姿があった。 一緒に旅をしていた頃と変わらぬ口調、変わったのは腹が膨れていることくらいか。 「マリアベル、どうしたのかしら。」 「ええ、ベルベットさんがぼんやりとしていらしたのでお声を掛けさせて頂きましたの。」 「そう。」 強気な声は相変わらずだ。 まああの旅が終わってからは彼女はイーリス王女として、自分は王代理の右腕の妻としてこの城に迎え入れられたのですっかり顔馴染みとなってしまったのだが。 膨れた下腹部を愛しそうに撫でるマリアベルを見て、ああ、とベルベットの口から声が漏れる。 「もうすぐだったかしら、出産。」 「そうですの、予定日は来週ですわ。」 「そう、おめでとう。」 人間が子を授かるという場面は見たことがなかった。 そして、ベルベット自身もいずれは彼女と同じように子供をその身に宿して育てるのだろうと考える。 随分と不思議なものだ、人間は新しい命の誕生に喜びを感じるという。 確かに新しい命は種の繁栄に必要不可欠だが、とベルベットはそう思ったのだ。 「ベルベットさんはフレデリクに会いに来ましたの?」 「そのつもりだったけれど、忙しそうだからやめたわ。」 「あらまあ、あなたもでしたの。」 「クロムは忙しいの?」 「ええ、クロムさんは執務室でルフレさんにこっ酷く叱られていましたわ。仕事を放ってフレデリクと一緒に新人教育の方へ行ってしまったとかで。」 彼の夫らしい行動だ、確かに行動派のクロムを机に齧りつかせても30分と持たない場合が多いだろう。 「ベルベットさん、お暇でしたらお茶に付き合ってくださらないかしら?」 「私でいいのかしら?」 「ええ、勿論。タグエルであるあなたが人間と結ばれて嬉しいのはフレデリクだけではありませんのよ?わたくしも嬉しいですし、リズも大喜びでしたわ。」 「私でよければ付き合うわ。人間の生活がどういうものか分からなくて困っていたの、教えてくれると嬉しいわ。」 夫の仕事が終わるまで、ゆっくりと話をするのも悪くない。 人間と言うものがどういうものか、まだ分からないけれどこれから知ればいいのだろう。 まだ高い陽に晒されて精を出すフレデリクを振り返り、部屋へ案内するマリアベルの後ろを歩いた。 |