Lucky 7



*ルフサリャ、ロンセル前提



うすぼんやりとした微睡みから目覚めると、そこは酷く荒廃した世界だった。
此処は何処だろう。記憶が曖昧で、靄が掛かる。確か、眠る前は酷く苦しかったような気がする。けれど、今は不思議と痛みも苦しみも、感じられない。寧ろ、生温い幸福感に支配されているくらいだ。何が、どうなっているのだろう。さらりと、黒い髪が目の前を横切る。それが自分の髪だと気付くのには少し時間が掛かった。何故ならこんな色を、愛していた気がするから。誰か、誰かの似た髪の色。
ふるり、脳の奥が震える。同時に、すべて思い出す。まるで稲妻が自身を貫いたかのように。激しく。痛く。鋭く。一瞬、マークは自分の呼吸が止まってしまったのではないかと錯覚する。肺が押し潰されて戻れない、そんな感覚。

「マーク!」

叫び声が聴こえる。同時に、竜の咆哮も。あれ、この雄叫びは。
ぐるりと目の奥が回転し、ちかちかとした光が明滅した。先程までの生温い幸福感は何処に行ってしまったのだろう。必死に光を退けようとしても、眩しすぎるそれは消えてくれない。

「マーク!!」

先程より強く。然りとて、叱るそれではない。ゆるゆると動き出す世界の風景が、彼女を馬鹿にするかのように姿を見せた。鼻を突く、血と煙の臭い。思わず吐いてしまいそうな悪臭が立ち込める、絶望の世界。そうだ、此処はギムレー様の導きを受けた世界。そして先程から聞こえた声は、きっと、いや、間違いなく。

「ごめんなさい、ジェロームさん。」

笑うことしか出来ないこの体たらくを許してください。そう呟いて斧を構える。飛竜は先に風魔法で事切れてしまった。もう頼れるのは自分だけだ。自分によく似た色の髪を掻き上げた、将来を誓い合った彼を見据えて。

「止めろ、マーク……お前はそちら側の人間じゃないだろう!」
「私が行かなくちゃ、父さんはずっと独りぼっちですから。」
「ギムレーに味方すると言うのか!世界の敵に!我々の仇に!味方すると言うのか!」

悲鳴のようなそれは、痛いほど胸に突き刺さる。でも此処で引き返してしまえば、もう二度と敬愛する父の傍に行けない。邪竜に全てを食らい尽くされてしまった憐れな父。そんな人の傍を、離れるだなんて。ジェロームの仮面の奥に、痛々しい程の光を見る。何て眩いのだろう。邪竜の父と呪術師の母。愛する二人は、闇と一緒に消え去ってしまった。その時に、マークも闇に堕ちてしまえばよかったと、何度考えたのかもう覚えていない。姉はきっと聖王軍に味方しているのだろう。ならば、独りだけでも父を守らねば。喩えそれが、愛した伴侶を貫く結果になってしまったとしても。

「ねえ、ジェロームさん。覚えてますか?」

邪竜を親に持つ女だとしても、愛していると言ってくれた風の強かった日を。嬉しかった。涙が止まらなかった。自分が疎まれると知った絶望を塗り潰してくれた、優しい微笑みが。仮面の奥に、きっと哀しみを隠しているのに、親の仇だというのに。なんてお人好しで、なんて優しいんだろう。だから、こそ。

「愛してますよ。」

あなたの手で、終わらせてください。マークは涙を流しながら笑い、ジェロームへ牙を向けた。




Lucky 7