前に凛月くんに似てると思い買った可愛らしいふかふかとした猫のぬいぐるみを、三角座りをした足と上半身でぎゅっと抱きつぶす。圧迫されてへんてこりんな顔になってしまった猫の鼻に自身の鼻をすり寄せ、紺色の身体をした彼としばらく睨めっこを続けた。私の方を見ようとしない無機質でまん丸なお目々には、一体なにが映っているのだろう。


「ただいま。……って、何してるの」


 広い部屋の片隅でぬいぐるみを抱きかかえたままうずくまる私を、部屋の主は不審そうに見つめた。おかえりなさいと微笑む私に荷物を置いた凛月くんが、「そんなところにいたら冷えちゃうでしょ」と手を伸ばす。お仕事から帰ってきたばかりの凛月くんは、夜の外の匂いをまとっていた。





「その猫、随分お気に入りだねえ。名前とかはつけてあるの?」


 あったかいご飯を食べてぽかぽかのお風呂にも入って、凛月くん特製のホットミルクを飲み終えた頃。ずっと抱きしめているせいで少しだけいびつな形になってしまったぬいぐるみを抱きかかえる私に、隣に座った凛月くんがそう声をかけた。


「なまえ……名前は……リツ、かな」

「え、それ俺と同じ名前じゃん」


 つい先ほど名前の決まったリツと同じ目の色をした彼が驚いたように目を丸くする。そうだねえ、と笑いかければ少し拗ねたような表情をする凛月くんと目が合った。


「……ねえ、ちょっとズルくない?」


 ズルい、という言葉に首を傾げる。一体なにが? そう気になったところで、凛月くんがさらに続けた。


「俺だってなまえに抱きしめられたいし、名前を呼び捨てにされたいのに」


 リツの鼻をつんつんと不満そうにつつく彼に意表を突かれ、あまりの可愛らしさに思わず笑いが零れてしまう。そんなことを思っていたなんてつゆも知らなかった。凛月、と彼の方に手を広げると嬉しそうに私を抱きしめる凛月くんの背中に手を回す。外の匂いがすっかり消えた凛月くんはやわらかなぬくもりに包まれていて、ゆったりとした鼓動が薄い服越しの皮膚を伝う。二人の間に挟まれたぬいぐるみは、やはりへんてこりんな顔をしていた。





あのね、クシェル
20200620




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