たまたま見上げた月が綺麗だった。考えるよりもはやく手がスマホに伸び、呼び出し音のするそれを耳にあてる。「もしもしなまえ? どうしたの〜?」と数コールあとで聞こえてきたスバルの声は、冬の空気みたいにくっきりとしていた。
「あのね、お月様が綺麗なの」
まん丸で、きらきら光ってるよ。
するとすぐにカーテンと窓が開かれる音がして、「うわあほんとだ!」というスバルの嬉しそうな声が耳に届く。距離は離れていてもこうして電話を通じてスバルと同じ月を見上げていることが嬉しかった。
「あ、今日は満月だって」
「じゃあお団子食べないとだね」
「いいねいいね! でも今日はもう遅いから、明日一緒に食べようよ」
ほかのみんなにも声をかけてさ、と続けるスバルに自然と顔がほころぶ。じゃあ明日はジュースやお団子、お菓子なんかもたくさん持っていこう。もうこんなにも食べきれないよ〜! なんて言うぐらい。楽しみだね、と返した先でスバルが嬉しそうに笑ったのが電話越しでもわかった。
そこからライブや仕事、今日あったことなどの話に花を咲かせていると、「あ」と一言発したスバルがいったん話に区切りをつける。12月もすぐ目の前に控えた夜の空気はとても冷たく、どうしたの? とたずねた声はどこか心もとないものとなる。
「風の音が聞こえてくるけど……なまえも窓からみてるの? それとも外とか?」
「窓からみてるよ、スバルと一緒」
「じゃあ早めにお布団に戻らないと身体が冷えちゃうね」
一瞬、月が遠のいた。きっと心配からそう言ってくれたのであろうスバルに、寂しさを滲ませないようにと「そうだね」の一言を絞り出す。お布団に戻ってももう少しだけ話したい。そう口に出してしまえばやさしいスバルはきっと、わたしが眠りにつくまで繋いだままでいてくれるのだろうか。
「ねえスバル、また今日みたいにお月様見ようね」
綺麗な月を見つけたとき、真っ先に共有したいと思った相手はスバルだった。それはこれから何年経っても変わらなくて、たぶんわたしはその度にスマホを手に取る。
いつかスバルに最愛の彼女ができてわたしの知らない誰かと夜空を見上げることがあったとしても、あの日こんなにも澄んだ綺麗な月があったこと、そこにわたしがいたことをどうか忘れないでいてほしいと思う。
沈む月をみていた
20201130