嵐ちゃんに貸してもらった雑誌の表紙には大きく、ジューンブライド特集という見出しが書かれていて、ページを捲ると様々なウェディングドレスを身に纏ったモデルの女性が目に飛び込んできた。レースがふんだんにあしらわれたもの、シンプルなもの、お花が散りばめられたもの――そのどれもが素敵で、感嘆する。
「いいなあ……」
ぺらぺらとページを捲りながら、私もいつかはこんな素敵なドレスを着てみたいものだと想像を膨らませる。私の隣に立ってくれる方は誰なんだろう。……もしかして瀬名さん、だったりして。
「へえ、面白そうなの読んでるじゃん」
「ひゃいっ!?」
未来の結婚式を頭に思い浮かべていたところで突然背後から振りかかった声に思わず変な驚き方をしてしまった私を、「なにその声」と呆れたような彼――瀬名泉さん。つい先ほどまで脳内で瀬名さんとの妄想を繰り広げていた私にとっては大変心臓に悪く、むしろ申し訳なくなってくる。頬を緩めてやわらかい表情を浮かべる瀬名さんに一気に顔に熱が集まり、なにも発せれないまま彼を見つめることしかできなかった。
「やっぱりなまえもこういうのに興味あるんだ」
私のすぐ横からのぞき込むようにして雑誌をまじまじと眺める瀬名さんのさっぱりとしていて甘い匂いに頭がくらくらする。瀬名さんの綺麗な指がページの上をなぞり、「なまえはどれが着てみたい?」という質問も右から左へと通り抜けていく。……瀬名さんの指、綺麗だなあ。
「ちょっとぉ、人の話聞いてる?」
「へ、あ、すみませんっ!」
ぼんやりと瀬名さんの指を見ていた私に眉を寄せて口をへの字にした瀬名さんがいきなり目前に現れ、なんとも素っ頓狂な謝罪をしてしまった。宝石のような瀬名さんの瞳と、しかめっ面をしていても端正な顔。こんな方に密かに恋心を抱いているだなんて、墓場まで誰にも打ち明けられないかもしれない。
「まぁいいけど。なまえにならこれが似合うかなあ……ほら、これ。どう?」
そう瀬名さんが指さした先は私が最初に素敵だと感じたドレスで、思いもよらない出来事に心が浮き立つ。いつかこのウェディングドレスを着て瀬名さんの隣に立てたのなら、どんなに幸せだろう。
「とっても素敵だと思います! ……あ、瀬名さんはどんなウェディングドレスを着てもらいたいとかはあるんですか?」
興味本位でそうたずねた私に、んーとしばらく考え込んだ瀬名さんは、ゆっくりと口を開いた。
「カラードレスとか着てもらいんだよねえ。青色の。……でも、あんたの場合は青よりも淡いピンクの方が似合いそうだけど」
そうふんわりと笑う瀬名さんの言葉の裏に、きっと何かが隠されているのだろうと直感が物語る。きっと瀬名さんが選んだドレスを着てもらいたい相手は私ではなく、もっと誰か別の方。なまえの結婚式にはちゃんと呼んでよねえ、と眼を細める瀬名さんに、分かりましたと笑いかけながらそっとページを閉じた。
euthanasia
20200907