高鳴る鼓動を抑えて外へ出ると、初夏の穏やかな風が吹き頬の熱を僅かながら冷やした。
食堂から八メートル程先の花壇まで歩いて行き、先月咲いたばかりのマリーゴールドの前にしゃがみ込んだ。三日前にもこうしてここに来て雑草を抜いたというのにこの世界では雑草は三日で復活するようだ。三センチばかりかの雑草がもうあちこちに生えていた。私はそれをぶちぶちと引っこ抜き、平常心を保とうとした。
「ただ誘われただけ!他意はないの!」
そう自分に言い聞かせるも頭がぼうっとしてしまい難しい。私がこんなことになってしまったのはほんの数分前の出来事の所為だった。
***
食堂にて、皆でお茶をしているとマルスが黄色のチラシみたいなものを持って現れた。
あれ以来、マルスとは普通に話すようになった。すれ違えば挨拶をするし、食事も一緒に食べることがある。
「マルス、それ何?」
私はドキドキしながら聞いた。
「納涼祭のチラシ」
「今年ももうそんな季節なのね」
ピーチは「季節が巡るのは早いわぁ」なんて、遠い目をしながら優雅に紅茶の入ったカップを口元に運んだ。
「納涼祭って何?」
「毎年夏にやってるお祭だよ。いつも買い物にいってる町が主催しているんだ」
「毎年屋台、音楽パフォーマンス、花火でどーんと派手にやってるよ」
ロイとフォックスが説明してくれた。私はこの世界で初めて夏を経験するのでその納涼祭とやらがすごく気になった。
「行きたい……かも」
「一緒に行く?」
「えっ」
思わず一瞬立ち上がってしまい、直ぐに座り直した。
「僕とお祭行かないの?」
「い、行く!行きたいです……!」
「あらあら」
「なまえよかったな」
「僕も一緒に行きたかった……」
***
そんなわけで私の頭はもうマルスのことでいっぱいで、心臓がはちきれそうな程脈を打っていた。
目に見える分の雑草は大方抜き終わってしまっても、まだドキドキしている。
ちらりとマリーゴールドの両サイドに植えられた紫のチューリップとインパチェンスを見ると根元の方に少しだけ雑草があった。
「リンクの分も抜いてあげよっと!」
立ち上がって伸びをしてから、リンクの育てているインパチェンスの前に再びしゃがみ込んだ。