ここに来て二日目の夜、急に明日から参戦することを通達され、広間のシフト表で確認すると明日の午前に三戦連続ででることになっていた。たった一日の訓練後ってことも考えるとなかなかの強行スケジュールだ。
夜は皆決まった時間にご飯を食べるらしく、同室のロイと夕食にいき、朝食時とは違う長テーブルの席に着いた。ロイは特に決まった席では食べないらしく、メンバーによっても特等席があったりなかったりするらしい。

「今日は失敗したかも」

「何が?」

ロイがテーブルの端の方に目配せした。ロイが見てたところに目を向ければ、マルスさんと、昨日マルスさんが視線で追っていた女の子が隣同士でご飯を食べていて、女の子の真向かいにはリンクがいた。ここから見ると二人はラブラブに見え、リンクはジト目で二人を見ながらご飯を食べていた。何とも悲しい光景だ。
リンクが好きななまえって人はあの人だったのか。リンクと付き合ってるわけではなさそうだし、裸を見たってどういうことなんだろう。

「う〜ん。謎が深まるばかり」

「何の話?」

「マルスさんとその隣の人って付き合ってるのかい?」

「そういう噂があるけど、皆なまえが一方的なだけじゃないかっていってるし。ここってあんまり他人の恋愛事情に突っ込まないようにしてるから皆本人には直接的には聞かないんだ」

「一方的とは思わないけどな」

マルスさんと初めて会った日、確かにマルスさんはなまえさんのことを目で追っていたはず。両想いな気がするけど。

「まあいっか」

僕には関係ないし。そう独りごちて、食事を始めた。



*



次の日初めての乱闘をした。降ってくる道具にもなかなか慣れなく三戦連続最下位だった。

「軍師として何も講じれなかったのは悔しいな……」

「まだ来たばかりならそういうものよ」

ピーチ姫はそういってくれたが、そのピーチ姫に一戦で三回場外に吹っ飛ばされた。

「経験差で負けることはよくあることだ。ただ努力さえすれば通常より早くそれを埋めることはできる」

「アイクの言う通りだ。訓練できる設備があるから明日にでも案内するよ」

「じゃあ、俺も付き合うよ」

「ああ。宜しく頼む。皆ありがとう」

三戦目で一緒になった、ピーチ姫、アイクさん、ロイ、そしてちょうど別ステージの戦闘帰りのフォックスと食堂に向かった。皆午後戦前のお昼休憩をとるらしい。
闘技場から出てルーフのある通りを、見たことのない花や冬木のある庭を眺めながら歩いた。外は昨日よりも寒く、相変わらず雨が続いていた。
僕と彼らが知っている共通のメンバーについて、色々聞いて見た。まあマルスさん、なまえさん、リンクの三人しかいないけど。なまえさんについては殆ど知らなかったがどうやらドMだとかなんとかピーチ姫がいっていてちょっとなまえさんの見る目が変わってしまった。
そして噂をすればなんとやら、食堂にはなまえさんがいて一人で大量のケーキを食べていた。見た目からは想像できない程の量を食べていて驚いた。
本人曰くストレスみたいなことをいっているが、その割にはゆっくり美味しそうに食べていてちょっと可愛い。アイクさんとロイは食事を準備し始め、僕はフォックスと共にピーチ姫となまえさんの会話を聞いていた。
ピーチ姫がマルス関係かしらと呟くとなまえさんは動揺して言葉に詰まっていた。バレバレだな。

「なんとなく気持ちは察するよ。相手が相手だからな」

フォックスが腕を組みうんうん頷きながら言った。

「なまえさんてマルスさんとそういう関係?」

僕もちゃちゃを入れてみた。

「違うよ! 全然仲良くないし、一緒にいるところ見ないでしょ?」

なまえさんは顔や耳まで赤くさせ、語気を荒げて言う。
結構必死に否定してるけど、どういうことなんだ。

「僕は来たばかりであまりわからないけど、夕飯は隣の席でシフトも殆ど一緒だなぁって思ってた」

「……よく見てるね」

急にしゅんとなり、なまえさんは再びケーキを食べ始めた。
やっぱりちょっと可愛いかもしれない。



*



実は午後からはリンクと訓練の約束をしていたけど、訓練の合間合間になまえさんについて聞かされるのにうんざりしていたので約束は忘れることにした。
彼が話すなまえさんについての言葉といえば、「なまえと俺が出会ったのは運命だった。あの時湖畔に舞い降りた天使に会ったのはメンバーの中で俺が初めてだったんだ」とか「そのうちなまえと闘うことになるとは思うがなまえは顔も可愛くて脚が綺麗で天使のような微笑みが魅力的だからといって、顔とか脚とか胸とかいやらしい目で見るなよ! ネットの乱闘動画公開サービスがあるからって、何度も見たりなまえの静止画とか一覧化されてるからって全部舐め回すように見たりするなよ!」とか「なまえが良い匂いするからって、何度もなまえの周りを行き来するなよ」等と犯罪的なことなので、かなり気が滅入るのだ。
午後はフォックス達は乱闘に戻ってしまうらしいので、シフトの入っていないなまえさんと一緒にお茶会をすることにした。
紅茶を淹れ、窓から庭の見える席に隣り合って座った。大雨が降って視界が悪いといえど、天井まで届きそうなほど大きな窓からだと近くの庭園はよく見えた。
なまえさんについては噂しか聞かないので、1対1の対面で話すのは初めてだった。少し噂に聞いた話を振ってみて二言三言交わしてから本当に聞きたかったことを聞いてみた。聞かずもがな、答えは分かりきっているけれど。

「マルスさんのこと好きなの?」

「え!」

なまえさんは目を見開いて数秒固まり、その後目線を泳がせた。

「好きといえば好きかもしれないし、そういうわけじゃないかもしれない」

「あはは。嘘もつけないんだね」

「ルフレ君、意地悪」

頬を赤く染め上げ、俯きかげんに言うなまえさんはとても可愛らしく見えた。
リンクのいうことも少しわかる気がした。「なまえは天使で純粋なんだから下ネタなんかいうなよ」とか言ってたけど、純粋そうなのは納得できた。
そういえば、まだなまえさんが笑っているところは見たことがなかった。リンクのいう天使の笑顔というものが急に見たくなってきた。

「なまえさん、好きなものとかある?」

「んー、好きなもの?なんだろ。寝ることと食べることは好きだよ」

「寝ること食べることかー」

朗らかにいう様子もその内容もなんだか可愛らしいな。
手っ取り早く笑わせたいけれど、今言ったもので笑わせられる気がしないのでここはちょっと体をはってみるか。

「ロイとフォックスの真似するから見ててくれる?」

「え! 何急に? い、いいよ!」

う。唐突過ぎたみたいでなまえさんは苦笑いだ。

「イーヤッ!」

「あ〜似てるー!」

「やった!」

「どうしたの?」

予想以上に笑顔で喜んでくれて、思わずガッツポーズをするとキョトンとしてなまえさんは首を傾げた。あざといというかなんというかそれも可愛いな。

「な、なんでもないよ。次はフォックスいくよ!」

その後もなんとか笑いを取れて、僕は満足した。天使の微笑みというか単純になまえさんは何をしても可愛かった。褒めすぎかもしれないけれど、他に表現しようがない。リンクやマルスさんがなまえさんを好きになるのは当然な気がした。
しかし僕が好きになるかはそれはまた別の話だ。可愛いと思う人は前の世界にもいた気がするし、僕にとってそれは好きになるかどうか重要なことではない。そもそも、なまえさんはマルスさんが好きなようなのでその時点で好きにならないようにしている。こんな純粋な人をたぶらかす気分には到底なり得ない。好きな相手がどうであれ、好きな人と一緒にいた方が彼女は幸せになれるのだろうと感じた。
 
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