長い夢を見た。幸せな夢。マルスが隣にいる。マルスは私を抱きしめてくれた。愛してくれた。

「起きなよ」

「ん……」

ペチペチと頬を叩かれる感じがして、目が覚めた。
薄目でベッドの横に立っているマルスの輪郭を捉え、逃げるように直ぐに布団を被った。昨日のことを思い出して、恥ずかしくて顔を合わせられなかった。

「さっさと起きなよ」

「ああ!ちょっと!」

布団を剥ぎ取られてしまった。
腕を引っ張られ、無理やり立ち上がらされた。

「はい、これ持って部屋戻って。ああ、浴衣はちゃんと着て」

寝相で乱れた浴衣をしっかり直してくれ、昨日の布団を受け取ると部屋から追い出された。昨日の夜とは打って変わりマルスが冷たくなった。寝起きでよくわからないまま、部屋を追い出された。部屋を出て直ぐに何かが転がっているのがみえ、焦点の合わない目をこすってよく見た。なんとシュルク君が床で寝ていた。剣は背負ったままで何故かコップを抱えている。何でこんなところに……。全室暖房がついているとはいえ、風邪を引く可能性もあるので布団を被せてあげた。手ぶらになった私はピーチの部屋に向かった。
歩いていると何メートルか後ろの方から扉が開く音がした。振り向くとカムイとクラウドがリンクの部屋からでてきた。

「なまえ!」

カムイが名前を呼んで早歩きで近づいてきた。クラウドもゆっくりとこちらへ来た。

「おはよー」

「おはよう。ん、首に痣できてるぞ」

首に手を伸ばされ触れられた。カムイはかなりフレンドリーというか馴れ馴れしいというか、とにかく距離が近くて恥ずかしい。
たまにテーブルにぶつかって痣はよくできるけど、首に痣ってなんだろう。

「けっこう酷いなこれ。何日か残るんじゃないか」

「そんなに酷いのこれ?」

カムイの深刻な顔に心配になった。なんかの病気なのか、はたまた寝てる間にマルスに首を絞められでもしたのかな。

「というかそれ、あれだろ」

後ろで私達の会話を聞いていたクラウドが何故か口元を握り拳で覆いながら言った。心なしか顔が赤い気がする。

「あれって何だ?」

「あれって何?」

「いや、そのあれはあれだ。とりあえずなまえはそれを誰にも見せない方がいい」

「え? 何で?」

「とにかく! 誰にやられたかなんて詮索はしないが止めたほうがいい。何か首が隠れるものを着ろ」

「よくわからないけどそうします……」

「じゃあ俺たちは鍛錬に行ってくるから」

「なまえ、お大事にな」

「二人共ありがとー」

手を振って彼らが階下に降りて行くのを見送ってからピーチの部屋に戻った。
リンクは簡易ベッドで寝ていた。時計を確認すると朝ご飯まで後一時間は寝れそうだからピーチの天蓋付きベッドで寝ることにした。リンクと同室は嫌で直ぐにでも追い出したいけれど、ちょっと寝るくらいだから我慢しよう。



*



一時間はあっという間で朝の館内放送で目が覚めた。1分も寝た気がしない。起き上がると、リンクがベッドに腰掛け頭を抱えていた。

「何やってんの?」

「……なまえ」

「どうしたの?」

「俺、おまえになんかしたか……?」

「どういうこと?」

「そ、それ」

リンクは震える手で私の首元を指した。反応がクラウドみたいで、顔を赤くさせ取り乱している。
そういえばクラウドに誰にも見せるなって言われてたんだ。

「これは気にしないで」

布団を顎まで引っ張り上げて隠した。

「いや、でも」

「でもじゃなくて、気にせず朝ご飯食べておいで」

リンクを睨み付けると、何とか頷いて聞いてくれた。そして徐に両頬を両手で打ち付け、何かを振り払うように頭を左右にぶんぶん振った。ちょっと気味が悪いかも。

「一緒に行かないか?」

「今日はいいや」

「駄目だ! なまえはか弱いんだから、ご飯はちゃんと食べないと! 俺が持ってきてやるから待ってろ!」

「ありがとう。でもリンクが食べおわってからでもいいからね」

「わかった! 行ってくるぜ!」

リンクは部屋を飛び出ていった。私はドレッサーの前に行き、首元を確認し、絶句した。首の正面から側面にかけて、歪な形の赤黒い痣が何個かできていた。

「何これ……」

どうしてこんな痣ができたのか全くわからなくて、こうなったらマルスに確認するしかないけれどこの痣のまま部屋の外に出るのは恥ずかしい。とりあえずリンクのご飯を待つことにして、布団の中に潜り込んだ。



*



「なまえさん!」

暫くして扉が勢いよく開き、ルフレ君が食事を乗せたお盆を持って入ってきた。身を起こして、再び顎までお布団を引っ張った。

「ルフレ! だから駄目だっていってんだろ! というかノックくらいしろ!」

「なまえさん、風邪って聞いたけど、大丈夫かい?」

「風邪?いや、風邪なんて……」

否定しようと思ったけれど、風邪引いた振りをした方がいい気がした。布団からでて、皆に酷い痣を見られたくはなかった。
ルフレ君がお盆をベッドの脇のチェストに置き、べッドに座って心配そうにしてくれた。

「ご飯持ってきてくれたんだね。ありがとう」

「気にしないでくれ。なまえさんの為なら何でもするよ」

「なまえ〜用意したのは俺なんだよ〜」

にこにこルフレ君は応える。ルフレ君の顔を見てやっぱり風邪は否定しておこうと思った。

「風邪はどうなんだい?熱はあるの?」

「なまえは熱があるんだから早くルフレはでてけ!」

「熱はないよ。大丈夫。風邪じゃなくて、疲労で調子悪くって」

「疲労?昨日何かあったの?」

「べ、別に何かあったわけとかじゃないよ」

「な、なんもねーよ!」

予期しないルフレ君の返しに動揺して、よく考える間も無くつい否定してしまった。何故かさっきからうるさいリンクも動揺していた。よく見るとリンクのおでこが何かに打ち付けたように真っ赤だ。何かあったのかな。
私の返答にルフレ君は笑顔のまま「そうなんだ」と小さく呟いた。

「なまえさん」

「なに?」

「いや……何でもないよ。ご飯冷めない内に食べたほうがいいよ。お大事にね」

ルフレ君はリンクの胸ぐらあたりを引っ張り部屋から出て行ってしまった。ルフレ君は何か言おうしてたみたいなのが気になったけれど、お言葉に甘えてご飯を食べることにした。
リンクが用意したとかなんとかごちゃごちゃ言ってた気がしたけど、ちゃんと私にちょうどいい量になっていた。

「マルスと一緒に食べたかったな」

頭の中はマルスと痣のことでいっぱいだった。
 
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