今日の夜、初めてなまえさんと一緒に夕食を食べた。いつもなまえさんはマルスさんと一緒に食べているはずだけど、何故かマルスさんに無視されていた。他の皆も気づいたようでなまえさんに声をかけ、僕も隣の席が空いていたので声をかけた。そしたらなんと僕の隣が空いているか聞いて来てくれた。席を立ったマルスさんを見るとこちらを見ていたようで、僕が見ていることに気づくと直ぐに視線を逸らして行ってしまった。
……なまえさんにベタ惚れじゃないかこれ。
なまえさんが隣のシュルクとかいう今朝来たばかりらしい人と挨拶を交わしているのを見守ってから僕も会話に混ざって楽しんだ。
しかし、なまえさんは浮かない顔でお昼の時にみた笑顔とは全く異なる顔をしていた。その顔を見て酷く心配になった。無理やり笑おうとしている姿は見ていられず、早く部屋に戻って寝るように勧めた。
*
それから三十分ほどして食堂で食後のお茶を飲みながら皆と話していると、天井から物凄い物音がして、天井が軋んだ。
「な、なんだ?」
「この真上はなまえの部屋だ! 待ってろなまえ! 今行くぞー!」
リンクが何か気持ち悪いことを叫びながら走っていったので、僕も心配になって走って食堂を出て個人部屋に繋がる階段を駆け上がった。
リンクに続いてなまえさんの部屋に飛び込むと、そこには金髪で大剣を担いでいる人と銀髪で全身を鎧に身を包んだ人がいた。瓦礫が部屋に散乱しており、銀髪の人はベッドに乗り込み、端に縮こまっているなまえさんの肩に手を置き、キスしそうな程至近距離にいた。そのなまえさんの格好は浴衣で、はだけて脚がのぞいていた。
リンクが離れろと騒ぐが、僕はそれどころではなく何だか心臓が痛くなり左胸を抑えた。後から来たシュルクの方をなんとなしに見ると、何故か服の上からでも分かる程股間が盛り上がっていた。いやいやいやいや、何で彼はそうなってるんだ!? リンクみたいな奴だな!
後ろからガノンドロフがドスドスと音を立てながら走ってきて、部屋に来るとなまえさんはそれに気づき「また人が増えちゃったみたい」と肩をすくめていう。直ぐにガノンドロフは「マスターに報告しに行く!」と奇声を上げながらどこかへ行ってしまった。
今のなまえさんは可愛かった。って僕もリンクみたいになってきてしまったな。
「おいそこの生物はなんだ?」
金髪が僕の隣にいるカービィを見て聞いてきた。失礼な奴だな。僕はカービィを抱きかかえ、「そんなこと言うと吸い込まれちゃいますよ?」と言うと怪訝な顔をされ、不自然なシュルクの股間を一べつするとさらに怪訝な顔をしてなまえさんの方へ行ってしまった。
カービィを撫でながら、なまえさんが新人二人に説明するのを見ていたが、やっぱり胸のあたりが痛い気がして僕はそっと部屋を出た。部屋を出るとフォックスやロイがいて、なまえさんについて何かを聞いてきた気がしたが僕は上の空で、カービィが下りたがってるのにも気づかずに階段を下りて食堂には戻らずに外を出た。外を出る前にカービィに顎を蹴られ、ようやくカービィを抱きかかえたままのことに気がついた。カービィは無理やり僕から下りると食堂へ走って行ってしまった。
外の渡り廊下を使わず濡れた地面を歩いた。お昼頃までは雨が降っていたのにいつの間にか止んでいて、雲間から月が覗いたり隠れたりを繰り返していた。外は寒く、露出した顔や首を冷んやりと冷気が刺す。
ふと、いつも食堂から見える透明の幕がかかった花壇が気になっていたのを思い出し、見に行った。雨で濡れている幕の中を覗くと、立て札が3つ程刺さっているのがわかった。真ん中の立て札には『なまえのマリーゴールド』と書かれていて、その両隣には『リンクのインパチェンス』、『リンクのチューリップ』とこの世界の共通文字で書かれていた。
「花育ててたのか」
今は冬。花壇は空っぽだ。多分どこか温かい所にでも移したのだろう。今は誰が管理しているか知らないが、僕が見ていないところにあって今も水をあげてるのかもしれない。
マリーゴールドというものがどんなものかは知らないけれど、なまえさんが花を育てていたという事実が妙に僕の胸をざわつかせた。
考えてみれば僕はなまえさんのこと何も知らない気がした。それがどういうことなのかと聞かれれば別にどうってこともないけれど、僕は単純に彼女の全てを知りたいと思った。
*
「あ、ルフレさん」
うっすら見える花壇の雑草をぼうっと眺めていると、シュルクが外へ出てきた。暗がりだが、街灯の明かりで見る限りどうやら股間は落ち着いているようだ。
「さん、は付けなくていいよ。先に言うと敬語も大丈夫だよ、シュルク」
「じゃあ、タメ口でいくよ。何してるんだ?」
「立て札があってさ、見てたんだ」
「立て札?」
「あー、そんな見る程のものじゃないから」
僕は何故かシュルクに見せたくなくてシュルクが寄ってくる前に花壇から離れて庭園を見ないかと誘って、広い庭園を一緒に歩いた。
ほとんどの木が常緑広葉樹みたいで枯れずに葉がついていた。庭の柵に沿って植えられている木々に何か管のようなものと球体のガラスのようなものが巻きついており、それぞれが色んな色に光っていて、とても綺麗だ。
「綺麗だ。でも男二人で見るのって変だね」
「ははっ。そうだね」
シュルクのいうことに同意だ。こういうのは女性と見るべきだ。例えばなまえさんとか……。
なまえさん以外にも女性は何人かいるのになまえさんしかでてこなかった。リンク現象かこれ?
「なまえってさ」
「な、何?」
シュルクが僕の心を読んだかのようになまえさんの名前をだすので酷く動揺してしまった。
「綺麗だよね」
「まあ、うん。どうだろ。ここにはお姫様が二人もいるみたいだし」
「確かに皆さん綺麗だけど、僕、なまえにしか反応しないんだ。なんでだろう」
それはどういう意味なんだ。怖いから聞かないでおこう。
しかしリンクみたいな匂いがするからここらでけん制しとかないと危ない気がする。これ以上リンクみたいな奴が増えるのはなんとなく気分がよくない。彼を諦めさせる言葉は簡単にでてきた。
「なまえさんってマルスさんのこと好きみたいだよ」
「へー。そうなの?」
「うん。今日は違ったけど夕食はいつも一緒だし、本人も好きみたいなことは言ってたよ」
「そうなんだ」
シュルクは無表情のまま黙ってしまった。思ったより反応が薄く、何か違和感を感じる。
「でもマルスさんはなまえに冷たくみえたけどなぁ」
シュルクは顎に手を当て、首を傾げて独り言のように言った。僕はあえてそれを無視した。