庭はかなり広く全てを見て回れる気がしなかったので、途中で引き上げて個人の部屋に戻ることにした。階段を上っているとマルスさんとなまえさんの声が聞こえてきた。
「穏やかじゃムグッ……!」
よくわからないことを言おうとするシュルクの口を片手で塞いで、静かにするようにジェスチャーするとシュルクが頷いてくれたので一緒に静かに階段を上った。階段の途中で相手からあまり見えないように止まった。
廊下の壁際になまえさんがマルスさんに追い詰められていた。両腕を壁に押し付けられ、至近距離で何かを話していた。
何秒かしてなまえさんは解放され、マルスさんは部屋に戻ろうとしていたが、不意に振り向き、僕達と一瞬目が合ってしまった。彼は僕達を見て少しせせら笑ったようにみえたが、目線をなまえさんに向け、何か言うとなまえさんの胸ぐらを掴んで引きずっていった。ああ、もしかして。嫌だ。駄目だ。止めてくれ。
僕の嫌な予感通り、二人は同じ部屋へと消えていった。
「あれって……」
「多分、そうだよ」
呆然とするシュルクに僕は肯定した。多分、彼らはきっと一線を越えるだろう。いや、もしかしたら僕達をけん制するつもりでなまえさんを連れ込んだだけかもしれない。きっとそうだ。きっと……。
考えれば考えるほど酷く胸が痛くなった。この痛みで今更認めたくない現実を理解した。僕はなまえさんが……。
「何がそうなのかは分かりませんが、とりあえず僕は二人が部屋からでてこないか見張ります!」
ピシッと敬礼のポーズをとり、シュルクは言った。
「いや、風邪引くかもしれないから止めときなよ」
「直ぐ出てくるかもしれないよ!」
彼のポジティブさが羨ましい。僕はなまえさん達がいつでてくるか知りたくないから早くその場を離れることにした。ロイと同室を割り振られた部屋の前まで行き、シュルクを振り返ると彼はどこに持っていたのか、取っ手のない透明のコップを持ち、握り拳に親指を立てて僕ににこりと笑いかけてきた。僕はよく意味のわからないまま、笑い返して部屋に戻った。
部屋にはロイがいたので、以前から気になっていたパソコンとやらの使い方を教わった。明日の午後一でマルスさんと僕、リンクとなまえさんのチーム乱闘、そしてその後にマルスさんを含む四人対戦があり、彼らの対戦動画を見て勉強したかったからだ。
「ここの公式サイトでは、メンバー達の名前から動画が表示されるんだ。ここを選ぶと、ほら一覧になってでてくるんだ」
ロイは試しにリンクの名前を選び、さらに最新順という項目を選ぶと、動画が何千という件数が出て来た。
「ありがとう。これ借りてていいかい?」
「いいよ。一部屋に一つ支給されてる物だし。ああ、でもあまり余計なところは押さないように頼むよ」
「わかった」
僕が頷くと、ロイは突然顔を険しくした。言葉を探しているようで少し黙ってから話しはじめた。
「ルフレってさ、たまにぼーっとしてるよね」
「そうかい?」
「そうだよ。もしかしてさ……いいや、何でもないよ」
言いかけて止められると気になるが、今は動画が早く観たくてそっちに気が散っていた。
「じゃあ僕はちょっと軽い運動してくるよ」
「え?こんな時間に?」
「ああ。フォックスと組手の約束してて」
「そうか。じゃあ気をつけて。あ、廊下に変なやつがいると思うけど、気にしない方がいいかも……」
ロイは少し首を傾げたが、苦笑いをすると封印の剣を担ぎ部屋から出て行った。きっとまともなロイはシュルクの奇行を見てドン引きするだろうな。
この隙に僕はリンクではなく、なまえさんの動画を見ることにした。なまえさんの名前を押すと、一覧がいっぱいでてきた。
何か悪いことをしてる気分で、どきどきしながらなまえさんの最新のものから見ていくことにした。
動画の中でもなまえさんは可愛い。とても一生懸命で勝つとすごく嬉しそうにしていた。スカートのひらひらが気になったが、動画でも中が見えないように何かフィルターがかかっているようで安心した。ちなみに実戦では事前に女性陣のスカートの中は見えないようになっているから安心しろとかなんとかリンクに教えてもらっていた(「野外稽古の時は別だけどな」とか鼻血を出しながら変態的なことも言っていた)。
最新の三件を見てから、古いのが見たくなり、最古順を選んだ。一番上に表示された動画はなまえのデビュー戦みたいだ。デビュー戦の相手にマルスとリンク、ロイがいた。激しい三人の乱闘の中コンボが全く繋がらず隙のできない技を小出しにしてなまえさんは頑張っていた。驚いたことにあのリンクがなまえさんに攻撃していて、この時点ではなまえさんにぞっこんというわけではないようだった。
ふと動画の視聴回数というものを見ると三百回となっていて、百回はリンクが再生したやつとしても残り約二百回を考えると意外にもなまえさんは一般受けしないのかな、なんて考えていた。
しかしよく見ると全体の試聴回数という項目が別にあってその回数はなんと六百万回以上となっていた。
ということは、この三百回てまさか……いやいや、この動画はロイがでてるから彼が見てただけかもしれない。それを裏付ける為に他のメンバーの動画、そして彼が不参戦でなまえさん参戦の動画の試聴回数を調べて愕然とした。
「ロイ、君もか……」
なまえさんがでてる動画の内、ほとんどの動画を五十回以上再生していた。
「なまえさん、ライバル多すぎだよ」
ぐうっと後ろに伸びをして、そして頭垂れた。ロイについては、そんな素ぶりは見たことがなかった。最新の動画は再生数は少し減ってるとはいえ十回以上は再生していて、まだなまえさんのことが気になっているみたいだ。
意外なライバルの存在にショックを受けて、しばらくはリンクの動画を見ていたがどうしてもたまになまえさんがでてきてしまい、それを見ては複雑な気分になった。ちょっと前のリンクvsなまえさん等の動画だとリンクは四人対戦にも関わらず完全になまえさんを守りに行き、動画の評価欄のワルイネ! ボタンが大量に押されていた。ここまでくると彼のなまえさんへの想いは尊敬できるな、と素直に感心した。
リンクの動画を観た後 は、ロイが帰ってくるまでマルス王子の動きを動画で覚え、明日に備えた。仕事をするからには例えマルス王子との協力プレイだろうと相手がなまえさんだろうと本気でいかなければならない。
気づいたら仕事モードで先程のマルス王子によるなまえさん連れ去りの一件は忘れていて僕はベッドの中でイメージトレーニングをしていた。
「王子がこう来たらこう来て、と」
「うーん。ルフレ……うるさいよ」