「CMの仕事?」
「うむ。ここのテレビで見たことあるだろう 。あれをおまえらがやるんだ」
「ガノンは悪役ででるのかい?」
「誰が悪役だ!わしは出ぬし、ただの飲料メーカーのCMだ!」
ガノンドロフが端っこの席でどんとテーブルを叩いた。テーブルはかなり頑丈のものとはいえ、流石に彼の力には耐えられずに左右に揺れた。ちょっと冗談で言ってみただけなんだけどな。それに実際悪者だったみたいだし、否定することもないのに。真向かいに座るなまえさんが僕を見て目が合うと、ガノンドロフの方を横目で一度見てから僕に笑いかけてくれた。これは照れる。僕は顔のニヤニヤが止まらなくて、間抜け面でなまえさんを見ているリンクを見て心を落ち着けた。
夜に大広間に呼び出されてみれば、同じく呼び出された面々にCMの依頼が来ていると説明を受けた。前にもこの依頼が来たことがあるらしく、僕とシュルク、カムイ、クラウド以外は二度目だそうだ。そもそもスマブラメンバー自体が乱闘で有名で、最近では変装なしで町に下りれないくらい町の人が騒いでしまうらしい。それもあってかCMの仕事やドラマの仕事が来ても断っていたという。今回受けたのはメンバー増員で僕達の人気も押し上げたいとかなんとからしい。
「CMの内容は各自に配った用紙に書いてある!明日所定の時間に集まるように!よく寝ておけ!以上!解散!」
ぞろぞろと皆で広間をでて、配られた用紙を見て、その内容をロイと話しながら食堂の前を通り階段を上った。
部屋に入る前になまえさんを見ると、マルスさんと何かを話していた。マルスさんは僕に気づいたのかにやりと笑うとなまえさんの腕を握って引っ張りなまえさんに何か耳打ちしていた。僕はこれ以上二人が一緒にいるのを見たくなくて部屋に入り、扉を閉めた。
「あの悪魔」
「ど、どうしたの?」
ベッドに乱暴に飛び込んで悪態をつくと、先に部屋に入っていたロイが引き気味に聞いてきた。
「いや、なんでもないよ」
「ならいいけど」
ロイとならマルスさんの悪口で盛り上がれると思ったけれど、よくよく考えてみればロイは人を貶める人ではないし、マルスさんの悪口を言うにはなまえさんの話は少なからずでてしまう。ロイにはっきりなまえさんが好きとは絶対に言えないからこれは僕の中に留めることにしよう。
*
ロケ地とやらに着いて直ぐに、CMを撮ってくれる人達に挨拶をして回ったら、大きなバスに乗せられた。そこで男なのにメイクをさせられて髪をガチガチに固められた。他の新メンバーも微妙そうな顔をしながら、されるがままにしていた。既存のメンバーのマルスさん、リンク、アイクさん、ロイは何故か白系統の爽やかなスーツを着させられ、髪も綺麗に固められていた。
顔と雰囲気を覚えてもらうために新メンバーには衣装はないのかな。
「ロイ、似合ってるじゃないか」
「あんまりからかわないでくれ」
「この白がいいね」
「やめてってば」
「ごめん、ごめん」
ロイが本当に嫌そうにするのでからかうのはやめた。本当のことをいうとスーツは以前から着てみたかったのもあってついイジってしまった。なまえさんが大広間でテレビを見ながら「スーツって8割増しでかっこよく見えるよね」とピーチ姫達と話していたからだ。
「段取り確認しますんで、外でてくださーい」
開いたバスのドアから、スタッフの人に言われた通りにバスを下りると、そこには着いた時とは打って変わって、機材やらなんやらよくわからない道具やスタッフでごちゃごちゃしていた。
「あ、ルフレ君」
「あっ……」
なまえさんの声がしたと思って振り返ると声を失った。なまえさんは髪をアップにして、白のノースリーブで光沢のあるぴっちりしたワンピースに身を包んでいて、恥ずかしそうにしている。短い丈から真っ直ぐな脚がむき出しになっていて、高いヒールがより脚の綺麗さを強調していた。そして何よりも、こんなにしっかり化粧のされた顔は今までにみたことがなく、とても綺麗で、艶っぽい。
「なまえ、綺麗だね。とっても似合ってるよ」
「ありがとう、ロイ。でも恥ずかしいからあんまり見ないで。よく見たら痣とかいっぱいあるし」
僕は何も気の利いたことも言えずに、ただなまえさんを見つめていて、なまえさんが不思議そうに僕を見たので慌てて目をそらした。やっと出てきた言葉はありふれたものだった。
「撮影頑張って」
「ありがとう。ルフレ君達もね」
なまえさんは辺りをキョロキョロ見るとあっ、といってお尻の辺りを押さえながらいってしまった。その押さえ方もいやらしく見えてしまった。というかあんなにぴっちりしてるのに、何か下に履いているような跡が見えないってまさか……。
「ロイってノーパンで撮影したことある?」
「ないよね!急にどうしたのルフレ!?」
*
その後、スタッフから説明があったけど、なまえさんのことがどうしても気になってしまい何度か聞きもらしてしまった。
「では一回カメラなしでやってみましょう。ドリンクにはまだ口つけないで」
頷いて、指定の大きな噴水前に移動したはいいものの、あんまり覚えていなかった。確か僕は知らないモデルが飲んでいたドリンクを受け取って歩きながら飲んで笑う。確かそれだけだったはず。僕が横目で、来た時に挨拶をしたモデルを見て軽く会釈をすると僕に小さく手を振ってくれた。
「では、三、二、一、ハイ!」
モデルが美味しそうに空のビンをごくごく飲む素振りをして、僕ににっこりと笑ってビンを渡してくれた。僕も笑って受け取った瞬間、女の子が崩れ落ちるように倒れた。
「え?」
「大丈夫か!」
辺りが騒然となった。スタッフが何人か駆け寄って女の子をどこかに連れていってしまった。監督っぽい人がスタッフと会話をすると僕のところへ来た。
「ルフレさん、申し訳ないです。替えのモデル呼ぶまで待ってていただけないでしょうか?」
「別に構いませんけど」
「ありがとうございます」
初めての撮影だというのにいきなりアクシデントがあってげんなりしたけど、撮影内容の確認が出来る時間が増えたからよかった。次はシュルクみたいで、シュルクがゲスト用の椅子から立つと周りが騒ついた。完全にやってしまっている。股間がおかしい。シュルクは「なまえさんの所為でおさまらないよ」なんて言いながら再び下げられ、ごつい男性スタッフと向かい合って何か話していた。今回ばかりはシュルクの気はわからないでもないけど、余計にこの人だけはなまえさんに近づけたくないと思った。
「カムイさんとクラウドさんは一緒に撮るのでお願いします」
呼ばれた二人は移動して、僕がいた噴水から離れたところで止まった。そこから流れを確認して直ぐ撮影になった。皆別撮りで後から繋げるらしい。
二人の撮影が終わるとなんとかおさまったらしいシュルクが撮影に入り、いよいよ僕だけが残された。
「じゃあ、最後ルフレさん!モデルのかわりの子用意したんで」
女性スタッフがそう言って連れて来たのはなまえさんで、さっきとは頭からつま先まで全く違う格好だった。
「なまえさん、その髪……」
「あ、これウィッグっていうの被せられてね。私がこっちのドリンク宣伝するのダメみたいだから映すのは鼻先から下だけみたいなの」
「そ、そう」
さっきの露出の激しい衣装から、膝丈のスカートになっていたので安心した。それでもいつもと違うなまえさんにはドキドキする。
スタッフがドリンクを持ってきて、なまえさんに渡した。
「はい、じゃあこれはまだフタ開けてないやつだから。まずは確認だけだから飲む振りだけお願いね」
「はい」
「あ、ルフレさん。本番は彼女が口つけたやつ飲むことになるから少し口紅ついちゃうと思うけど、我慢してね。グロスはつけてないし、落ちないようのコートつけてるからそんなにつかないとは思うけど」
「は、はい……え!」
僕はここで重大なことに気がついてしまった。異性でも本当に好きな人の時しか意識しないやつ、間接キスだ。
途端、僕は完全に上がってしまった。
「ルフレ君、顔赤いよ」
「あら、本当。少しファンデーション塗らしてね。肌修正はどうせするけど、一応ね」
メイクスタッフにまた肌色のものを塗られた。その間、僕はなまえさんの唇ばかりに目がいってしまった。
「よし、じゃあなまえちゃんは位置について」
「はい」
なまえさんがドリンクを飲む振りをしてにこりと笑って僕に手渡してくれた。僕も笑い返して歩きながらドリンクを飲む振りをして再び笑った。
「はい、おっけーです。じゃあ問題ないので撮影にはいります」
いよいよだ。いよいよ僕はなまえさんと……。ふと、我に返って気がついた。なまえさんは嫌じゃないのかな。僕なんかと。本当はマルスさんがいいんじゃ……。
なまえさんに聞きたかったけれど、聞く余裕もなく撮影がスタートしてしまった。まあ、聞いたら聞いたで全然気にならないよ、と言われるのもショックだから聞かない方がよかったかもしれない。
なまえさんは今度は本当にドリンクを飲み、練習と同じように僕に手渡してくれた。僕はそれを少し躊躇して飲み……そしてむせた。
「ゴホッゴホッ」
「だ、大丈夫?」
ああ、恥ずかしい。なまえさんに背中をさすられ、僕は必死に口元を隠した。スタッフが既にタオルを準備していたみたいでそれを受け取りなんとか拭き取って落ち着けた。
「服は大丈夫ですか?」
「ええ。飲んでからむせたので」
「しばらく休みますか?」
「大丈夫です。落ち着きました」
「じゃあ、始めましょうか」
「はい」
再び撮影が始まり、今度こそなまえさんを意識しないようにした。特にミスはしなかったけれど、一回毎に入るビデオチェックで、カムイ達の動画と繋がるのか確認して、ダメならもう一度と何回か撮り直しした。取り直しする毎に、間接キスに対する免疫がついてきた。
またもビデオチェックが入っている間、噴水の前でなまえさんと会話をした。
「私、さっきの撮影で他の炭酸飲料飲んだからお腹いっぱいになってきちゃった」
「姿見えなかったけど、どこで撮影してたんだい?」
「向こうの方にももうちょっと大きい噴水があって、そこで撮ってたの」
「誰と撮ったの?」
「メンバーでは私1人で、他にエキストラが三人いたかな」
「へぇ」
よかった。あんな格好をリンクとか他のメンバーに見られるなんて耐えられない。エキストラ三人というのも性別が気になったけど、聞くに聞けない。
「おっけーです!撮影お疲れ様でした!」
監督からOKサインがでて、皆で挨拶を交わした。帰りがけに化粧落としのグッズをもらって、行きに乗ってきたバスに戻った。なまえさんは着替えてから戻るらしく、着替えのないメンバーだけがぞろぞろ乗ってきた。
僕はロイが戻ってくるのを待ちながら頭の中から、なまえさんを追い出そうと躍起になっていた。露出の激しい格好をしたなまえさん、いつもと違う化粧のなまえさん、にっこり笑って自分の飲んだドリンクを手渡してくるなまえさん。ダメだ。すごく好きだ。
*
後日、何気なく皆でテレビを見ているとCMが流れ、マルスさんが出てきた。あの白のスーツだ。マルスさんが高級車に寄っかかって、僕の時とは違うドリンクを飲んでいた。その隣には真っ白で丸みのある袖のついたドレスに身包んだピーチ姫も同じドリンクを飲んでいる。そこから場面が変わり、高級感あふれるところで既存メンバー達が同じドリンクを飲んでいた。ロイ達は高級志向のドリンクを担当していたみたいだ。
見ている間、ロイだけが恥ずかしそうにしていて、リンクはドヤ顔でなまえさんを見ていて、そのなまえさんは口元に手を当てながらマルスさんを見つめていて、マルスさんは興味のなさそうにしていた。
そして続いて流れたのはなまえさんのCMで皆がテレビに釘付になった。燦々と照りつける太陽の下、なまえさんはドリンクを握り、飲むのかと思いきや、上下に激しく振り出した。その様子はまるでアレで、突然出てきた男の人が蓋を開けた瞬間、真っ白く泡立った乳白色の炭酸が飛び出し、なまえさんの顔や服にかかった。しかし、なまえさんは笑ってドリンクに口をつけ、出てきた男性三人を背後に美味しそうに全部飲み干した。
「あああ〜!何だこれは!!!なまえ、どんなCMを撮らされたんだ!」
案の定リンクが騒ぎ出し、あのカムイが恥ずかしそうに口元を覆っていて、クラウドは完全に怪訝そうな顔をしていて、シュルクは……言うまでもない。
「うん。ちょっと顔にかかったのは嫌だったな」
当の本人は何をされたかわからないらしい。
「あー許せねー!」
なんてリンクが騒いでいる間に、今度はなまえさんの口元が急にでてきて、あのドリンクを飲み、笑顔で僕に手渡したシーンが流れた。次は僕が右にドリンクを差し出しただけのシーンがシュルクと繋がり、シュルクが左からドリンクを受け取ると僕と同じようにカムイとクラウドに繋がった。
僕はさっきのなまえさんのCMで頭がいっぱいになってしまっていたが、気づけば皆に見られていた。
「あの唇はなまえだ!」
「そういえば撮影の時にルフレ達がドリンク回してたよな」
最悪なことに証言するかのようにカムイが言った。
「ルフレてめぇ!」
リンクが椅子を倒して勢いよく立ち上がり走ってくるので、身の危険を感じて僕は急いで大広間をでた。
「俺なんかまだ一度もなまえとやったことないんだぞ!」
紛らわしい言葉を叫びながら走ってくるリンクは怖くて、僕は本気で走って逃げた。外に出て母屋の裏に回るもリンクはまだついてきた。
「何で僕がこんな目に……」
これもなまえさんと間接キスをした代償なのか。リンクにぶん殴られるくらいなら(かなり嫌だけど)安いものだが、もしCMの流れる順番が違っていたらこうはならなかった気がする。これからなまえさんとの距離を詰めるものなら、どんな代償を払っていくのだろうと考えるだけで気が滅入った。