部屋で大人しく図書室から引っ張り出した本を読んでいると、さっきまでパソコンで動画を見ていたロイが、ガラスキーボードに指を滑らせ始めたので気になって、パソコンをのぞいて見た。パソコンにはロイとピカチュウが裏庭の畑で芋を収穫している写真が載っていた。

「何やってるんだい?」

「ブログを書いているんだ」

「ブログ?」

「日記みたいなものかな。日々の出来事とかを題材に写真と一緒に文章を載せるんだ」

「へぇ。楽しいのかい?」

「まあ楽しいけど、これマスター命令なんだよね」

「え?そうなのか?」

「ルフレはまだ言われてないんだね。僕の時も参戦してしばらくしてから書くように言われたからルフレもそうなのかな。でもカムイ達は始めてるみたいだけど」

「カムイ達も?」

「うん。じゃあ今開いて見せようか?まずはカムイのから……」

そう言ってでて来たページは白と黒のシックなカラーでまとまっていた。カムイの小さな画像が左上部にあり、真ん中のスペースに空白行を何行か挟みながら短い文が書いてある。
内容はこうだ。『今日はなまえと一緒に料理をしてみた なまえが温度を間違えたのに気づけなかったため焼き菓子が炭に』
見慣れた皿に真っ黒な物体が乗っている写真が下部に貼ってあった。僕はこれを見て、とてつもない嫉妬心にかられた。僕が知らないところでなまえさんと料理してたなんて。僕もなまえさんが料理をしているところを見たかった。一緒に楽しく料理をしたかった。

「う〜ん。カムイには注意しないとダメかも」

「どうしてだい?」

「ブログに同種の異性の話や写真を載せるのは禁止なんだ」

「同種の異性……それ本当に言ってる?」

「僕たち男には女性ファンが多いらしくて、なまえとか女性には男性ファンが多いからファンに気を使えって」

「それは理解できなくもないけど」

それを聞くとなおさらなまえさんとの写真を撮ってブログに書きたくなった。なまえさんに男性ファンが多いのは嫌だ。きっとファンならどっかの誰かみたいになまえさんの動画を何回も見たり、静止画画像を舐め回すように見ているはずだ。考えるだけで気分が悪い。

「クラウドのは……趣味全開だね」

クラウドのブログはカムイと同じようにシックなカラーでまとまっており、今日の出来事というページにはワリオのバイクの写真があらゆる角度で載っていた。文章は『借りた』とだけ書いてある。

「かっこいいな」

素直にバイクの写真に感心しているのも束の間のことで、一枚だけ気になる写真があって落ち込んだ。クラウドがゴーグルとヘルメットをつけてバイクにまたがっているが途中で切れている写真だ。クラウドの後ろには誰かが座っているようで膝あたりが少し写っている。これは間違いなくなまえさんの脚だ。カムイに続きクラウドまでもが僕の知らないところでなまえさんと接触していたなんて。それがどうしても許せなくて僕はある策を思いついた。

「僕もブログやりたいんだけど、どうやればいいんだい?」

「今教えるよ」

ロイはにっこり微笑んで、丁寧に説明してくれた。直ぐにパソコンの扱いに慣れたのもあって、思ったより簡単に紹介ページが作れた。あとは今日の内容を書くだけ。僕は写真を撮るようのタブレット端末を借りて、部屋をでた。
部屋を出るとフォックスとファルコがちょうど階段を上がってくるところだった。

「なまえさん見なかったか?」

「だいぶ前に階段のぼっていったけど」

「あいつなら、料理本がどうのこうの騒いでたから図書室にでもいるんじゃねぇか。確かカム……」

「二人ともありがとう!」

「おい、最後まで聞けよ!」

ファルコの怒号を背に階段をのぼって図書室に向かった。図書室の扉を開けると見える範囲には誰もいなかった。三階全てが図書室になっているため、かなり広い。貼り紙を参考に料理系コーナーを探した。料理系コーナーにはなまえさんがカムイと二人で立ったまま本を開いて見ているのが見えた。二人は僕がいるのにも気づかずにお互い顔を見合わせて笑い合い、それからカムイがなまえさんの頭を撫でた。
僕は二人がとてもいい関係、そうあのマルス王子なんかといるよりとても幸せそうで良好な関係に見えてしまい、邪魔をするのが気が引けた。なまえさんを誘ってもなまえさんはカムイと一緒にいたがるかもしれない。僕は諦めて帰ることにした。が、直ぐにバレた。

「ルフレ君?」

「ルフレか?」

「あ、二人とも……」

二人が本を棚に戻して僕に寄ってきた。僕は近くの本棚から本を探していた振りをして二人を見た。

「何探してるの?」

「え、えっと料理本を……」

「そこコスメ関係のところだよ」

よく見ると化粧の仕方やヘアアレンジの仕方等の本が並んでいた。

「ほ、ほんとだ。間違えってしまったみたいだ」

「料理関連はこっちだよ。何探してるの?」

「その……焼き菓子を」

「焼き菓子? クッキーとか作りたいの?」

「意外だな」

二人に驚かれて僕は今すぐ帰りたくなった。

「私も今日、作ってたんだけど失敗しちゃって……でもさっき確認したから大丈夫。私が教えようか?」

こ、これはなんというぎょう倖。

「それは助かる。是非教えてもらいたいな」

「私今日はもう乱闘の予定ないけど、ルフレ君は?」

「僕もないよ」

「じゃあ俺だけだな」

カムイが残念そうに言った。思わずガッツポーズしたいのを抑えて僕も残念そうな表情を作った。

「え。そうだったの?忙しいのに一緒に調べてくれてありがとね。とっても助かったよ」

「気にしなくていい。じゃあそろそろ行ってくる」

「出来上がったらカムイには多めにあげるね」

「ああ。ありがとう」

カムイは本当に残念そうにして手を振ると行ってしまった。これはチャンスかもしれない。

「なまえさん、お願いしたいことがあるんだけど」

「なぁに?」



*



こうしてなまえさんと厨房で焼き菓子作りを楽しんだ。途中変態共に邪魔されたけれど、直ぐに追い払えたし、なまえさんのエプロン姿を近くで独り占めできて幸せだ。
部屋に戻って一人で早速ブログ作りを始めた。ロイに教えて貰った通りにタブレットとパソコンをケーブルで繋ぎ、写真を取り込めるようにした。写真を何枚かピックアップして載せ、文章をさらっと書き込んだ。
載せた写真は全部で三枚だ。一枚目の写真は図書室でなまえさんに料理本を持ってもらった時の写真で、焼き菓子のページだけが載っているように見えて、実はなまえさんの手が入っている。二枚目の写真は材料を用意した写真で、ちゃっかりボウルが鏡になってなまえさんが映っている。三枚目は出来上がった焼き菓子の写真で、なまえさんが僕にだけ使ってくれた星型の焼き菓子だ。ちなみに勿体無くてこれだけ真空パックに入れてさらに緩衝材で包んである。
ブログをあげた後は夕飯まで予定がなくて暇だったので、他のメンバーのブログを読んでみた。なまえさんのブログは最近更新していないらしく、最後の更新は僕がここに来る前の時のみたいだった。なまえさんの過去のブログは直ぐに読み終わってしまったので他のメンバーのブログを見ることにした。ロイは男メンバーとの写真が中心で、リンクは……なまえさんの盗撮写真が中心だった。

「うわぁ……」

思わず声に出して引くほど、それは明らかな盗撮写真で遠目からのなまえさんの後ろ姿や横顔が写っていた。引きつつも僕はリンクの全てのブログを見てしまった。僕の知らないなまえさんがリンクの写真で見れてこれはこれで良かったのかもしれないが、今度リンクが盗撮しているのを見つけたら止めよう。
そういえば、あの王子がブログを書くのは想像できないが、どうなんだろう。マルス王子のブログを覗くと、更新頻度がかなり少なく全部で十件ほどしかない。今日は久しぶりに更新されているので、見てみると絶句した。
『貰った』とだけクラウドみたいに短い文章が書かれていて、その下には一枚の写真があった。その写真には見覚えのないハート型の焼き菓子が一枚写っていた。これはまさかなまえさんが……?なまえさんがハート型のを作っているのをみた覚えがなかった。百枚ほど一気に作ったからわからなかったのだと思う。なまえさんはいつの間に作っていたんだ。星型の焼き菓子を貰って舞い上がっていた僕が馬鹿みたいじゃないか。しかしわざわざ焼き菓子を貰ったことを報告するあの性悪王子に俄然怒りが沸いてきた。
怒りを発散しに訓練に行こうと立ち上がると、扉をノックする音が聞こえた。出るとなまえさんがいた。

「なまえさん……」

「ルフレ君に渡すの忘れてて、これ」

なまえさんは透明な袋にラッピングされた焼き菓子をくれた。受け取ってよく見るとそれは特徴的な形でこの世界ではただ一つの剣の形だった。

「僕のサンダーソードだね」

「うん。ルフレ君の剣かっこいいから」

あまりの嬉しさに僕は抑えきれずなまえさんを抱きしめてしまった。

「ル、ルフレ君?」

「ありがとう。すごく嬉しいよ」

ずっと抱きしめているわけにもいかず、僕はなまえさんを離した。

「喜んでもらえてよかった」

「食べずにとっておいていい?」

「え。食べてよ」

「勿体無くて」

なまえさんはくすくす笑った。それがとても可愛くて、愛おしくて、もう一度抱きしめたくなった。

「じゃあ、私ボードゲームしに下に下りるから」

「あ、僕も後からいっていいかい?」

「勿論。直ぐにやるわけじゃないから待ってるよ」

「じゃあ本当にありがとう」

なまえさんが見えなくなるまで手を振って僕は扉を閉めた。急いでサンダーソード型の焼き菓子を写真に撮ってブログにあげ、星型焼き菓子と一緒に真空パックに入れて大切に保管した。
こんなことをされてしまったら惚れないわけにはいかない。ちゃっかりなまえさんを抱きしめた腕はまだふわふわした感覚が残っていて、にやにやが止まらなかった。僕はますますなまえさんが好きになってしまったみたいだ。
 
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