乱闘デビューに備えて訓練を受けることになったけれど、生憎丸腰でこの世界に来てしまった。武器になりそうなものといえば、腰巾着に入っていた大きな魔法石だ。皆に見せてみると興味津々で、そのようなものを見たことがない人が大半だった。
「わぁ」
「すごい綺麗な石だねー」
「ピッカー!」
広間のテーブルに置かれた魔法石を主にリュカ、ネス、ピカチュウが夢中になって見ている。
広間の入口には王子様が腕を組みながら壁に寄っかかって遠目からこっちを見ていて凄く緊張する。今朝からずっと王子様は私を監視するようについて来たのでとても嬉しい反面、とても気疲れする。
リンクは王子様から私を守るようにどこでも付いてきて御手洗いの中まで来ようとしたのでピーチにビンタして貰った。やり過ぎたみたいでまだリンクの頬は赤く腫れあがっている。本人は無自覚でお手洗いまで入ってきたので、それも相まって見る度に申し訳なくなる。
「武器は持っていたのか?」
「ロッドを持ってたけど、丸腰で来ちゃったみたい。この石は予備の石で、使っている石が壊れたりロッドがなくなった時用のものなの」
「じゃあ、その石持って鍛冶屋に行くか。見た感じ素手で乱闘なんて無理そうだしな」
「鍛冶屋あるの?」
「ああ。鍛冶屋が何件か商業街にあるし、花屋もあるしな。今から行くぞ」
「商業街もあるんだ」
「そらあるだろ」
湖とここの施設しか知らない私は狭い世界にいる錯覚に陥っていて、商業街があるイメージが全くなかった。驚く私をリンクが腫れあがった頬を持ち上げて笑った。
「町へ行っては駄目だ」
「え?」
王子様は怒ったように語気を荒げていて、こっちへ歩み寄って来た。
「何でだ?別に今日は非番だからいいだろ」
「そういうことじゃない。君はここから出ては駄目だ」
「どうして……?」
思い返せば今朝もそうだったけど、王子様は私のことを何か知っている風だ。一体どういうことなのかな。どうして彼は私なんかに注意を払ってくれるのかな。
「理由なんてない。とにかく駄目だ」
「今朝からおかしいぞおまえ! なまえは気にすんな。商業街自体は危険なところじゃないし、俺といれば安全だ」
「う、うん」
「どうしても行くというなら僕もついて行く」
「え!」
王子様と商業街に行くなんて心臓がもたない。遠くから見られてるだけで緊張するのに、一緒に出かけるなんて心臓が破裂してしまう。
「君は構わないだろ?」
「は、はい」
ここで駄目といってもこの王子様はついてくるだろう。彼はいつも夢で見た感じとは違って笑いもしなければ、穏やかにもみえなかった。本当に夢の中の王子様と一緒の人なのか自信がなくなってきてしまった。
*
商業街へ出発する前、着替えが必要だと言われて、母屋の入口付近にあるウォークインクローゼットでピーチに見立てて貰った服に着替えた。一緒に行くというゼルダ(ピーチは王子と出かけたくないと言っていた)とクローゼットから出るとリンクと王子様が既に頭からつま先まで着替えていた。二人共帽子を被りサングラスをかけていてちょっと怖い。ちなみに着替えの前に医務室でリンクの頬に鎮静薬の布を貼ってあげたので、頬の白い布が目立つリンクの方はさらに怪しく見える。
「結構似合ってるな」
「あ、ありがとう」
リンクに褒められて素直に嬉しかった。自分がこんな機能性の無いただ可愛いだけの服を着るのに違和感があったけど、少し自信が持てた。
「外で車を待たせてある。行こう」
「何が行こうだ」
リンクはぶつくさいいながら外に出て、私はゼルダと一緒にそれに続いた。外には黒い歯車のついた四輪の乗り物があり、ゼルダと一緒に乗った。中は少し狭く、前の操縦席のようなところにワドルディがちょこんと座っていた。
「あなたが私達を送ってくれるの?」
ワドルディが頷いたのと同時くらいに、あの王子様が私の隣に乗り込んできた。てっきりリンクが来ると思っていて油断していた。腕と腕が当たり、顔に熱が上った。心臓が激しく脈打つ。扉が閉まると車内がしんとして、心臓の音が王子様に聞こえてしまわないか心配になった。そんな時ワドルディが何かボタンを押すと音楽が流れ始め、私は隣の王子様を気にしないように音楽に集中することにした。
とても長い距離を走り、ようやくついた商業街は素敵なところだった。古風であったり、先鋭的なデザインの入り混じったお店が真っ直ぐに並んでいる。皆で目的の鍛冶屋に入り、魔法石を渡した。以前使っていたロッドの形状や素材を伝えると快諾してもらえ、皆で外に出た。出来上がるまで待つ必要がなく、後日お抱えの郵送局のワドルディが配達してくれるらしい。
「この世界、便利すぎ……」
「ふふっ。慣れてくると不便に感じることも多くなりますよ」
「本当?」
充電さえすれば休まず走れる車を見た後に言われてもそんなことは想像できなかった。
「あまり長居は禁止されてるからな。花屋にいったら直ぐに帰るぞ」
「禁止って?」
「マスターに町に長居すると、騒ぎになるから早く帰りなさいと言われてます」
「そうなんだ。皆有名なんだね」
私もいつか皆みたいに町中の人に知られてしまうのかと思うと不安になった。こういう素敵なところで色々なお店を巡ってみたいと考えていたところだった。
花屋に行って、事前に調べておいた花の種を買って再び車に戻った。帰りも王子様が私の隣でリンクが何か文句を言っていた。車が揺れる度に腕と腕が擦れ、その度に心臓が飛び上がった。
幾分か時間が経ち、こてん、とゼルダの頭が私の肩に乗った。疲れて寝ちゃったみたいだ。前の席のリンクも上を向いて爆睡している。隣の王子様はサングラスで分からないけど、多分起きている。何だか気まずくて私も寝たふりをして、ゼルダの頭に少し寄りかかるようにした。すると、頭が動かされ反対の王子様の肩に寄りかかるようになってしまった。目が開けられずよく分からないまま寝たふりを続けると手に温かみが伝わってきた。手を握られている。どうして王子様はこんなことをするのか全くわからなかった。ドキドキし過ぎてもう心臓がはち切れてしまいそうだ。
「本当に生きているのか……」
王子様の呟きはさらに私を混乱させた。一体どういうことなのかわからないまま私はそのまま寝たふりを続けた。