ロッドが届いて訓練して、乱闘デビューをするなど慌ただしい数日を過ごした後、非番の日にリンクに誘われて湖に行くことになり、部屋で準備をしていると部屋の扉がかなり強く三回叩かれた。放心して扉を見つめて固まっていると、勢いよく扉が開いて王子様が入って来た。途端に病気のように胸が高鳴り出した。
「リンクと湖に行くって本当?」
両肩を掴まれ強く揺らされた。あの日のように問い詰めるように聞かれて怖くなった。
「ほ、本当です……」
「行っては駄目だ」
商業街に行くと言った時のように王子様は必死に見える。
「何でですか?」
「理由は知る必要ない」
勇気を出して聞いたのに王子様が私を外に出したがらない理由を教えてくれそうになかった。以前部屋の前でした私を以前から知ってるかのような質問に、車の中で呟いたあの言葉も気になった。
またあの湖に私は行きたくない気持ちは少しあった。何故かあそこは不穏な感じがした。それでもピクニックと言われたのでその言葉に弱い私はルンルン気分で支度を始めてしまっていた。
王子様の真意を知りたいし、ピクニックにも行きたい。それなら譲らずピクニックに行きたいと言い張って、理由を吐露させたい。
「それではピクニックに行って来ます」
「だから駄目だと言ってるだろ」
「理由を話していただけないと」
「君は知らない方がいい」
意地でも理由を話してくれそうにない。これはもう理由を聞くのを諦めてピクニックに行く許可だけは欲しいな。
「私、ピクニック行きたいんです」
「君がどんなに行きたくても僕はそれを止めるしかない」
「一緒に行くのは駄目なんですか?」
「僕はあそこに行きたくない」
「でも私本当にピクニック行きたいんです」
「君の意思は関係ない。駄目だ」
「もう!」
いくら大好きな相手とはいえ、ここまで言われると腹が立って来た。私は王子様を押しのけて行こうとすると強い力で押し返されベッドに倒された。両腕を押さえつけられ足を暴れさせると王子様の足を乗せられ固定された。王子様が怖い。
「いやぁ!」
「騒ぐな」
命令するかのように言うその物言いは私が夢に見た王子様とは程遠くてショックを受けた。それでも体は王子様のことが好きみたいでずっとドキドキしていてそんな自分に困惑した。
「僕はどんな手を使ってもあそこに君を行かせたくない」
眉を落とし寂しそうに王子様は言った。
「だから君が言うことを聞くまでこのままでいる」
今度は逆八の字眉で言われ、手足の骨が折れてしまうのではないかと思う程押さえつける力が強くなった。
「い、痛いです」
「死にはしないだろ」
王子様は本気なようで、力を緩めてくれる気配もなかった。本当に痛いし怖い。ああ、誰か助けて欲しい。真っ先に脳内に浮かび上がったのはいつでも私に良くしてくれた彼の姿だ。
「リンク! リンク助けて!」
「騒ぐなと言っただろ」
「やだぁ! リンクーっ!」
「おい! なまえ!どうした!」
何故かリンクが部屋の窓からやってきた。王子様の下敷きになっている私を見て一瞬唖然として口を開き、そして次の瞬間には険しい顔で王子様の肩を掴み私から離すとと今度は胸ぐらを掴んで……リンクが思いっきり王子様を殴ってしまった。
「おまえ、なまえに何しようとしたんだ!?」
「君、今僕を殴った?」
「ああ、それがどうした!? なまえ、早く逃げろ!」
「あ、ありがと」
私はベッドから身を起こして部屋の外へ逃げた。部屋から出ると、リンクの叫び声が聞こえた。それはもうどんな地獄絵図になっているんだろうと思わせるほどの叫びだ。リンクを助けなきゃと思って足を止めたけど、戻るのは怖かったし、私一人の力じゃ無理だ。仲間達の助けを呼ぼうと近くの部屋の扉を激しく叩いた。私の隣の部屋は人がいなかったみたいでその隣の部屋を叩いた。この部屋もいない。
「誰か助けて!」
廊下で叫ぶと、ちょうど階段からドタドタと何人かの足音がした。ぱっと見ると濃い青髪の、食堂で王子様と話していた人と赤い髪の人が走ってきた。
「どうした?」
「リンクが死んじゃうの! あそこの部屋!助けて!」
「それは大変だ!」
私が指をさした部屋に二人は走って行き、中に突撃してくれた。開いた部屋からリンクの叫び声が続いていたけれど、ぴたりと止まった。良かった。二人が止めてくれたみたいだ。恐る恐る部屋を覗くと二人で王子様を押さえつけていて、リンクはボロ雑巾のようになって床に倒れ込んでいた。
「リンク!」
リンクに駆け寄って、リンクの顔元に膝をついて彼の容態を見た。酷い。何度も殴られたようで顔が腫れあがってる。彼は意識が朦朧としているみたいで焦点の合わない目で私を見て手を伸ばしてきた。私は彼の手を取り、優しく握ると彼はフッと笑って意識を失ってしまった。
怒りがふつふつと湧いてきた。いくら大好きな人でも、私を助けてくれた人にこんなことをするなんて許せない。
「王子様の馬鹿!」
立ち上がって二人に押さえつけられてる無防備な王子様の前まで行った。私を見下ろす王子様の綺麗な顔を思いっきり手の平で打った。
「嫌い!」
王子様の反応なんて見もせずに直ぐにリンクを医務室に連れて行く為に彼の元に戻り、彼の服を引っ張り部屋から出そうとした。
「僕がやるよ」
赤髪の人が私の手を止めると、要領よくリンクを担いだ。小柄ながらも力はあるみたい。私はリンクが落ちてしまわないように手伝い、彼に付き添うようについて行った。
二人で無言のまま医務室に着くと、彼はベッドにリンクを下ろし、壁に付いている白いボタンのような物を押した。すると直ぐにワドルディ達が6匹やってきて、リンクの服を脱がし始めた。男の人の裸を見るのは凄く恥ずかしいけど、私は彼の傷が気になってそれを見ていた。
「多分全身打撲だと思う」
彼はワドルディ達にそう言うと、ワドルディ達は一斉に頷いて、最後の一枚の下着まで脱がそうとしたので私は慌てて目をそらした。
「何があったの? あ、僕はロイっていうんだけど、君はなまえだよね?」
「うん。ロイね。よろしく。リンクが王子様を殴っちゃったの」
「ああ」
私の一言でロイは納得したようだった。
「それで何でリンクはマルス王子を殴ったのかな?」
「私が王子様に捕まってて……それでリンクが私を助ける為にそうしたんだと思う」
「君を助ける為、か……じゃあ僕はアイクとマルス王子がどうなってるか見に行くよ。君は?」
「リンクのところにいる」
「わかった。あまり君が気にすることはないと思うよ」
ロイは優しく私の肩を叩くと手を振って行ってしまった。彼は年が若く見えたけど、とてもしっかりしていて、気の利く人だ。それに比べ私は子供っぽくて自由に振舞って、リンクを怪我させてしまって、王子様を叩いてしまった。あの時、私は凄く怒っていて王子様に嫌いと言ってしまった。怒りに任せて言ってしまった言葉だから、本当は嫌いなのかも好きなのかも自分でよくわかっていなかった。それでも一つはっきりしているのは、私が王子様のことをどう思おうと、王子様はもう私のことを嫌いになってしまったはずだ。王子様に嫌われるのはとても辛くて胸が痛んだ。苦しい。辛い。でも今、本当に辛いのはリンクだ。私が苦しんでいる場合じゃない。
ワドルディが椅子を用意してくれた。私はそれに座り、下着一枚で全身に白い煙を噴射されている彼を見守った。打撲だから冷やしているのかもしれない。
「何か手伝う?」
近くのワドルディに聞いてみれば、蓋の開いた白の容器を渡された。他のワドルディも持っていて、煙の噴射が終わると痣のできたところに容器の中の軟膏を塗り始めたので私も真似をして軟膏を手に取った。とても冷たい。リンクの腕を持ち上げるととても重かった。筋肉で鍛えあげられていてとても逞しい腕だ。この腕でもあんなに細い王子様に叶わないなんてあの王子様はどこに力を秘めているのだろう。
私が1箇所軟膏を塗るとワドルディが白色の布をぴたりと貼り付けた。それの繰り返しで腕が布だらけになると今度は包帯を巻き始めた。やがてリンクの全身は包帯に包まれた。顔は布をテープで止めるだけに止まり、目元には青の袋を乗せられていて、冷やしているようだ。処置は終わりのようでリンクに布団をかけるとワドルディ達は片付けを始めた。一匹のワドルディが布で私の手を拭き取り、軟膏を取り上げると頭を下げた。
「リンクはどれくらいで直るの?」
ワドルディは手を4、5回振った。4、5日か、それとも倍の10日かな。内出血してるみたいだからもっとかかりそう。
「そう。ありがとう」
ワドルディは頷くとくるっと回って他のワドルディ達と一緒に行ってしまった。
リンクと二人になり、初めてここに来た時のことを思い出した。リンクが今いるベッドで私は目覚めて、そして泣いていた。リンクはそんな私を見て抱きしめて宥めてくれた。リンクはとても優しい。今度は私がリンクを介抱する番だ。今まで良くしてくれた分の恩を返したい。リンクが目覚めるまで私はここにいよう。
包帯の巻かれていないリンクの手を握り私は静かに彼の顔を見つめた。