夜になってうとうとしていると、リンクの手がぴくりと動いたので、眠気が吹っ飛んだ。リンクの顔を確認すると、目が開いている。
「なまえか?」
「リンク、大丈夫? あ、まだ起きないで」
目元の氷嚢をとって起きようとするリンクを止めて私が氷嚢をリンクの顔から落ちないように支えた。
「俺は一体……」
「気絶してたの」
「ああ、そうか……なまえは無事だったか?」
「リンクが助けてくれたから大丈夫だったよ」
「それは良かった。あー全身が痛い」
「安静にしてたら治るから大丈夫だよ。鎮痛剤もあと2時間空けたら飲めるから」
「もしかしてずっと看病してくれてたのか?」
「うん」
「なまえ……ありがとう」
「お礼を言うのはこっちだよ。助けてくれてありがとう」
「……お、おう」
「ご飯食べる?」
「え?ご、ご飯か?あー今日はもう大丈夫だ。なまえは食べてこいよ」
「心配だから朝までずっと一緒にいるよ」
「ありがとう。俺は大丈夫だから、行ってきてくれ」
「リンクがそういうなら。電気は消す?」
「いや、いい」
「じゃあ、安静にして早く良くなってね。お休み」
「ああ。お休み」
部屋を出るとあの王子様が壁に寄りかかり腕を組んでいた。まさか誰かいるとは思っていなくて驚きつつも、昼間のことがあったからどう反応していいのかわからず、無視して食堂に行こうとすると王子様もついてきた。
「なまえ」
しばらく歩いてから王子様に声をかけらて思わず立ち止まってしまった。今、初めて名前を呼ばれた気がした。
「何ですか?」
振り返ると王子様は冷たい眼差しで私を見下ろしていた。
「この前も言ったが敬語は止めてくれ」
「何でですか?」
「二度も言わせるな」
王子様はとても高圧的で怖い。言う通り敬語は止めるけど、いつも理由を教えてくれないのは何でだろう。
「分かったけど、何で王子様はいつも……」
「マルスと呼べ」
「マルス……」
確認するように彼の名前を言うと違和感を感じた。私が王子様の名前を呼び捨てするなんてなんか嫌だ。それでも彼が命令するならそうしないと。
「マルスは何でいつも理由を教えてくれないの?」
「敬語についてはもう言っただろう?」
確か私には似合わないから止めろと言われた気がする。でもそもそも話したことないのにそんなことを言うのはおかしい。けれど、彼に聞いてももう答えてくれそうにない。私は諦めて、ずっと気になっていたことを言うことにした。
「リンクがさっき目覚めたよ」
「聞こえていた」
「謝らないの? だからあそこにいたんじゃないの?」
「僕があそこにいたのは君と二人で話す必要があったからだ。謝る必要はない。君を外に出すなと僕はあいつに話していた。それを守らないあいつが悪いし、あいつの種族は……」
「何それ」
あんなにリンクを痛めつけといて謝らないなんて信じられない。人として何か欠陥がある。絶対おかしい。
「最後まで聞け。彼ならすぐ回復する。君は明日日が昇る前に僕と湖に行く。ピクニックなんかじゃない。湖を見るだけだ。それさえ終わればもう僕は君にこうやってつきまとわない。君は自由だ」
「私につきまとわない……」
つきまとわない、という言葉に何故だか少しショックを受けた。彼を叩いたり、人格に問題があると思ったりしつつも、こうやって私に会いに来ていること自体は好意的に思えていた。自分も頭がおかしくなったのかもしれない。
「君は僕を嫌いなんだろう?」
「あ、言ったけど、それは本心じゃなくて……」
「君にどう思われようと僕はどうでもいい」
冷たい眼差し、冷たい言葉。それは私の心に深く突き刺さった。どうでもいい、ということは私なんかに興味がないということ。それでもこうして私に近づくのは、彼は私に関係する何かに執着していて、その何かは湖に行けば解決し、あとは私全てに用はなくなるということだ。
「明日、日の出前、僕は君を迎えに行く。準備をしておけ」
放心する私を残して彼は廊下の曲がり角に消えていった。