部屋が使えなくなってしまった私はピーチと同室になり、臨時の簡易ベッドが支給されることになった。それを取り決めたガノンドロフは大量の汗をかき、ピーチにびびりながら話していたけど、意外なことにピーチは文句を言わなかった。早速ピーチの部屋をドキドキしながら訪ねるとなぜかそこには別の人がいた。
「なまえ! 待ってたぜ!」
「なんでリンクがここにいるの?」
今回ばかりは無視をするわけにはいかなかった。今夜宿になるピーチの部屋にリンクがいるのだ。しかも今夜私が使う簡易ベッドに腰掛けていた。
「ピーチから素泊まりの権利買ったぜ!」
「ピーチめっ!」
「どこ行くんだ!?」
「あなたがいないとこ!」
直ぐに部屋をでて、ピーチを探した。
夜に異性の部屋を訪ねることは禁止ルールなので男部屋は避けて女性部屋だけ訪ねたけれどピーチは見つからなかった。訪ねた部屋の先々でついでに宿泊交渉したけれど、部屋が皆1人部屋から2人部屋になったのでいっぱいいっぱいみたいだった。
ピーチを探し出してなんとかしないと、どうにもならない状況だ。リンクが女部屋にいることをガノンに言ってもピーチがやったことなので濁されるに決まっている。
残された選択肢は広間で寝るしかなかった。覚悟を決めて補修準備中の自分の部屋から掛け布団だけを持ち、外へ向かう廊下を歩いていると廊下の曲がり角からマルスが現れた。お風呂上がりみたいで私と同じ浴衣の上にガウンを羽織っている。
「マルス!」
声をかけたけれど、やっぱり無視された。泣きたいのを堪え、通り過ぎるマルスの腕を掴み、無理に引き止めた。
「私がマルスのこと好きなの知ってるでしょ?何で無視するの馬鹿ぁ!!」
「へぇ。奴隷がご主人様にそんな口を聞くんだ」
掴んだ腕に逆に掴み返され、もう片方の腕も空いた手で掴まれた。持っていた掛け布団がハラリと床に落ちてしまった。そのまま壁際に追いやられ、両腕を壁に押し付けられた。やっとマルスが無視を止めてくれたと喜んでいる暇もなく今の状況に只々困惑した。
「マルス……?」
「君はあの約束を忘れてはいないよね?」
あの時みたいにマルスと向き合い数秒沈黙した。マルスのいうあの約束は紛れもなくあの時の約束のことのはず。
「忘れられるわけないよ」
「それなら軽率な行動は謹んでくれ。次何かあったらお仕置きだよ」
耳元で囁かれ腰の砕けるような思いをしたが、直ぐに解放され、マルスはスタスタと歩いて行ってしまった。
お仕置き、されたいかも。なんて思いながら私は落ちた掛け布団を回収して、急いで追いかけた。今ならもしかしたら、とある事を思いついたのだ。
「ちょっと待って!」
「何?」
「私今部屋がなくて、マルスの部屋に泊めてほしいんだけど。確かまだ一人部屋でしょ?」
「駄目に決ま……汚さなければいいよ」
「へ?」
「何アホ面してるの?さっさと来い」
意外な返答に驚いて固まっていると胸ぐらを掴まれ、引っ張られた勢いで足を縺れさせながらマルスの早歩きについて行った。
キスはしたとはいえ、まだ手も繋いでないのにマルスの部屋に泊まるとはドキドキだ。またキスをしてくれたりしないかな、なんて淡い期待を抱いた。
部屋の前まできて、周りに誰かいないか確認してから部屋に入った。
「うわぁ、すっごく綺麗」
マルスの部屋は整頓されていて、物が少ないのもあるけれどかなり綺麗だった。初めて来たけど、予想以上に部屋がピカピカしていて、驚いた。
「掛け布団邪魔だから貸して」
マルスは私から掛け布団を取り上げるときっちり畳んで部屋の隅に置いた。今更だけどマルスはとても綺麗好きだ。
マルスはベッドに腰掛けたけど、私は自分から泊めてと頼んだくせにどうしたらいいかわからなくて部屋の入り口でもじもじしていた。
よく考えてなかったので、ベッドが一つしかないことを忘れていた。床に寝ろって言われたらどうしよう。というか十中八九そうなるはず。
部屋が間接照明になり、薄暗くなった。
「おいで」
マルスの顔もよく見れないまま、マルスに近づくと、腕を引っ張られマルスに抱きしめられた。驚きと緊張でドキドキしながらもおずおずとマルスの背中に腕を回した。
お風呂のいい匂いがする。初めて嗅ぐ異性の匂いだ。なんだか変な気分だった。
顔をあげれば近距離で目が合い、恥ずかしくて目を逸らすと後頭部に手を回され頭を固定された。次の瞬間にはキスされた。
長い長いキスだった。何度も角度を変えたり、舌を入れられたり、とにかく変な気分になった。マルスの様子が変。いつものマルスじゃない。
「マルス……?」
「よだれなんか垂らしてどうしたの?」
キスで漏れ出た唾液を舐め上げられた。変。変変変。
マルスがすっごくえっちだ。いつもはこんなことしないのに。抱きしめてくれさえしないのに。付き合ってるかさえわからないのに。
それでも口には出せずにマルスにされるがままだった。
よくドラマとかで見るような大人なことをするのかなと不安と期待が入り混じった気持ちになる。
脚を膝から掬い上げられベッドに組み伏せられた。マルスが上にいる。いつもマルスは私の上にいる。私の息が上がる。マルスの息も上がる。何だか変だ。変な感じ。少し怖い。
でも──、
「なまえ、力を抜いて」
この優しいマルスなら全てを委ねられる気がした。