ホームに帰るとリンクが母屋の玄関の街灯の光の下で腕組みをして待っていた。車から降りると、リンクが駆け寄ってきて両腕を掴まれた。
「なまえ、大丈夫か?こいつと納涼祭に行ってた、って本当か?」
リンクは心配そうに聞いてきて答えに困っている横をマルスが私の頭をぽんと叩いて通り過ぎた。彼の後ろ姿を目で追いつつ「本当だよ」と言えばリンクは眉を落とした。
「そ、そうなのか……服が汚れているけど大丈夫か?」
「うん。ちょっと転んじゃって」
「膝見てやろうか?」
「大丈夫だよ。私着替えるから」
早くシャワーを浴びて綺麗な服に着替えた状態でマルスに会いたい。
リンクに手を振り、自室に戻った。
時間をかけて身なりを整え、マルスの部屋の前まで行き緊張しながら扉を叩いた。間を空けてマルスが出てきた。
「なんだい?」
「えーと一緒におしゃべりしたくて……」
「それなら後にしてくれ」
マルスは何か急いでいるように早口に言った。さっきは優しかったのに冷たい感じがする。うう。傷つく。
「大丈夫。僕がでていくよ」
マルスの背後からロイの声がした。マルスの横を通り抜けロイが出てきた。
「なまえ、ごめんね」
申し訳なさそうにロイは言うと、自分の部屋へ戻ってしまった。通り過ぎる時、何か焼けたような匂いがした。今日の夕飯は炭火焼定食だったのかな。
「外で話そう」
肩を抱かれるままマルスに連れられて外に出た。夏の生ぬるい風が身体を掠めた。忘れていたけれど、今はもうとっくに夜で広い闇夜の空にまんまるの月と沢山の星が煌めいている。
彼は街灯の並べられた遊歩道を歩き私はそれについて行くように少し後ろを歩いた。
「君を初めて見たのは僕が六歳の頃だった」
「え? どういうこと?」
突然話し始めたマルスの言葉に衝撃を受けた。マルスは私の問いを無視して話を続けた。
「夢の中で君が……いや、今の君によく似た女性が青リンドウ畑に佇んで誰かに微笑んでいるのを見た。少し薄暗かったけれど日が昇っていくところだった気がする」
青リンドウ畑。私には覚えがあった。誰かに連れられて行った気がした。それは朝ではなく夕方頃だったけれど、彼の見た夢は前の世界にいた私のことなんだと確信した。
「それ以来何度か同じような夢を見た。そして僕が九歳の頃、君が湖で……」
マルスはそこで黙ってしまい、暫くしてからこちらを振り向いた。
「僕は君が夢の中の女性と同じ人物だと思っている。馬鹿げた話かもしれないが……」
「ううん。馬鹿げてなんかない。私もあなたのことを前の世界で見たの。夢の中でだけど、あなたによく似ていたの」
「本当か? 話を合わせてるだけだろう?」
「……マルスってアリティアっていう国の王子様なんだよね?」
「ああ」
「アリティアの国旗って白と緑の上下二色に中心に大きな盾が描いてあるやつ?」
「何故君がそれを知っているんだ?」
「夢の中でお城にその模様のタペストリーが掛かっていたのを見たの」
「なまえ……」
マルスは口元を緩ませ私を見つめた。初めて見る彼の表情にどきりとした。
お互いに同じことを思っている気がした。私とマルスはきっと……。
「ああー!」
突然母屋の方から奇声が上がったと思うと、リンクがこちらめがけて走ってきた。母屋からはメンバーが続々と出て来ている。何事だろう。
「面倒なことになりそうだから僕はこのまま訓練所に行くよ」
「ええ! こんな時間に?」
ふぅ、と短く息を吐くとマルスはすたすたと闘技場の方へ行ってしまった。私も付いて行こうか迷っているとリンクはもうすぐ近くのところまで来てしまった。
「なまえ!」
「リンク、どうしたの?」
手にはバケツが握られその中には色んな色にラッピングされた小枝程の大きさの棒状のものが何本も束になってはみ出していた。
「あいつと何話してたんだ?」
「前の世界の話かな。ね、そのバケツの中の何?」
「これは皆と花火やろうと思ってな」
「花火やるって?」
バケツの中の棒状のものと花火が一致しなかった。
「ああ、花火はなまえが思っているのと違うぞ。手に持ってやるのもあるんだ。納涼祭で見たやつは打ち上げ花火っていうんだ」
「花火見る前に帰って来ちゃったから見てないの」
「その割には遅かったな。まさかどこか寄り道していたんじゃないか?」
「し、してない」
リンクの疑ぐるような目つきに内心びくびくしながら否定した。やましいことではないけれど、マルスには絶対今日のことは言うなと言われていた。
「なまえが寄り道してないっていうならそうなんだろうな。じゃあ開けたところに行って一緒にやろうな」
「うん」
庭の中でも芝の生えていない地面で皆で花火というものを楽しんだ。私が選んだ青にラッピングされた棒からは真っ赤な火花が飛び散った。他のメンバーの花火を見る限り火花には色んな種類があるらしく、虹色の火花を出すものもあった。どの花火もとても綺麗。だけどするならマルスとしたかった。
「なまえは花火しているところも可愛いな。写真撮ってもいいか?」
リンクが手に何も持たずにじっとずっとこっちを見ていてついに話しかけてきた。
「うん。ブログにでも載せようかな。後でデータ頂戴」
よく人の写真をこっそり撮って堂々とブログにアップしているリンクに最大の皮肉を言ってみれば、リンクは喜色満面に笑ってどこからともなくカメラを取り出した。
「なまえ、笑ってくれ」
勝手にリンクのブログにアップされないかなという心配とマルスとしたかったという残念さが顔に出てしまっている気がした。笑顔が引きつっている気がしながらも花火を持ったまま片手で写真用のポーズをとってみせた。
「いいぞ、なまえ! 凄く可愛いぞ!」
「あんまりそういうこと言わないで」
色んな角度で写真を撮りながら可愛いなんて褒められたら恥ずかしくて仕方ない。丁度火花もでなくなったので、リンクから逃げるようにその場を立ち去り、遠くにあった水の張ったバケツに花火を入れて、その隣の空のバケツに入っている中から新しい花火を選ぶことにした。沢山ある花火のうち、どれを選ぼうかしゃがみこんで迷っているとピーチがやってきて、私の隣にしゃがみこんだ。
「ねぇ、納涼祭はどうだったのよ」
「あーうん。えーと、私、嘘付きたくないから聞かないで」
ピーチの質問はマルスとの進展を聞いているのだと思うけど、あんなに恥ずかしいことをピーチに言う勇気はまだない。でもリンクに続けてピーチにまで何もなかったと嘘はつきたくない。
「何よそれ。こっちはなまえとマルスだけがホームにいないってリンクが大騒ぎしてて大変だったのよ」
未だに毎日告白してくるリンクが、今日迫ってきたストーカーみたいな人を思い出させた。
「何でリンクはそんなに私のこと好きなのかな」
「あらモテる自慢は聞きたくないわ」
冗談っぽく笑うピーチに私は決心して、「ちょっと来て」とピーチを人気のないところに引っ張った。
「何よ?」
「私マルスとキスしたの」
ピーチははっと両手で口を覆い、破顔して私の両肩を叩き始めた。
「もう! 早く言いなさいよそれ!」
「恥ずかしいから誰にも言わないでね」
「うふふ」
謎の笑顔のまま肩を揺すられ、その背後で誰かとぶつかった。誰もいないと思ってたのに遊歩道を誰か歩いていたみたいだ。振り返るとロイが倒れていた。
「あらごめんなさい」
「ロイ、ごめんね」
「いや、いいんだ。僕がぼうっとしていたから悪いんだ」
力なくふらふらとロイは起き上がり、メンバー達が花火をしている様子を眺めた。
「君たちは花火やらないの?」
「花火なんかやらないわよ」
「私はさっきまでやってたんだけど。ロイも一緒にやらない?」
「いや、僕はもう寝たいから部屋に戻るよ」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
ロイはそのまま遊歩道を歩いて母屋に向かっていこうとし、途中で振り向いた。
「なまえ」
「なぁに?」
「ごめんね」
「いや、ぶつかった私が悪かったの。こっちがごめんなさい」
ロイは首を左右に振ると何も言わずに行ってしまった。
「なーんかおかしいわね」
「うん。何かあったのかな」
「またカマトトぶっちゃって。ロイはさっきの話聞いててショックを受けたのよ」
「何で?」
「はぁ。あなたもおかしいわね」
何か馬鹿にされたような気がしてならなかったけれど、それよりロイの様子が気になった。絶対おかしい。
私は花火組に戻り(何人かは飽きて母屋に戻ってしまった)、ロイのことと、マルスが闘技場からいつ戻ってくるかを考えながら花火をしていた。たまにリンクが切るシャッター音やメンバー達が騒ぐ声、花火の静かな音がどこか遠くのもののように聞こえる。全てが別の世界のことのようだ。もしかしたら、今日あったことは夢だったんじゃないかって思えるようになった。
「なまえが可愛すぎて、俺はもう死ぬかもしれない」
シャッター音と共に聞こえるこの声は確かに現実のものだと一気に何かが冷めた気がした。
「なまえ、大丈夫か?こいつと納涼祭に行ってた、って本当か?」
リンクは心配そうに聞いてきて答えに困っている横をマルスが私の頭をぽんと叩いて通り過ぎた。彼の後ろ姿を目で追いつつ「本当だよ」と言えばリンクは眉を落とした。
「そ、そうなのか……服が汚れているけど大丈夫か?」
「うん。ちょっと転んじゃって」
「膝見てやろうか?」
「大丈夫だよ。私着替えるから」
早くシャワーを浴びて綺麗な服に着替えた状態でマルスに会いたい。
リンクに手を振り、自室に戻った。
時間をかけて身なりを整え、マルスの部屋の前まで行き緊張しながら扉を叩いた。間を空けてマルスが出てきた。
「なんだい?」
「えーと一緒におしゃべりしたくて……」
「それなら後にしてくれ」
マルスは何か急いでいるように早口に言った。さっきは優しかったのに冷たい感じがする。うう。傷つく。
「大丈夫。僕がでていくよ」
マルスの背後からロイの声がした。マルスの横を通り抜けロイが出てきた。
「なまえ、ごめんね」
申し訳なさそうにロイは言うと、自分の部屋へ戻ってしまった。通り過ぎる時、何か焼けたような匂いがした。今日の夕飯は炭火焼定食だったのかな。
「外で話そう」
肩を抱かれるままマルスに連れられて外に出た。夏の生ぬるい風が身体を掠めた。忘れていたけれど、今はもうとっくに夜で広い闇夜の空にまんまるの月と沢山の星が煌めいている。
彼は街灯の並べられた遊歩道を歩き私はそれについて行くように少し後ろを歩いた。
「君を初めて見たのは僕が六歳の頃だった」
「え? どういうこと?」
突然話し始めたマルスの言葉に衝撃を受けた。マルスは私の問いを無視して話を続けた。
「夢の中で君が……いや、今の君によく似た女性が青リンドウ畑に佇んで誰かに微笑んでいるのを見た。少し薄暗かったけれど日が昇っていくところだった気がする」
青リンドウ畑。私には覚えがあった。誰かに連れられて行った気がした。それは朝ではなく夕方頃だったけれど、彼の見た夢は前の世界にいた私のことなんだと確信した。
「それ以来何度か同じような夢を見た。そして僕が九歳の頃、君が湖で……」
マルスはそこで黙ってしまい、暫くしてからこちらを振り向いた。
「僕は君が夢の中の女性と同じ人物だと思っている。馬鹿げた話かもしれないが……」
「ううん。馬鹿げてなんかない。私もあなたのことを前の世界で見たの。夢の中でだけど、あなたによく似ていたの」
「本当か? 話を合わせてるだけだろう?」
「……マルスってアリティアっていう国の王子様なんだよね?」
「ああ」
「アリティアの国旗って白と緑の上下二色に中心に大きな盾が描いてあるやつ?」
「何故君がそれを知っているんだ?」
「夢の中でお城にその模様のタペストリーが掛かっていたのを見たの」
「なまえ……」
マルスは口元を緩ませ私を見つめた。初めて見る彼の表情にどきりとした。
お互いに同じことを思っている気がした。私とマルスはきっと……。
「ああー!」
突然母屋の方から奇声が上がったと思うと、リンクがこちらめがけて走ってきた。母屋からはメンバーが続々と出て来ている。何事だろう。
「面倒なことになりそうだから僕はこのまま訓練所に行くよ」
「ええ! こんな時間に?」
ふぅ、と短く息を吐くとマルスはすたすたと闘技場の方へ行ってしまった。私も付いて行こうか迷っているとリンクはもうすぐ近くのところまで来てしまった。
「なまえ!」
「リンク、どうしたの?」
手にはバケツが握られその中には色んな色にラッピングされた小枝程の大きさの棒状のものが何本も束になってはみ出していた。
「あいつと何話してたんだ?」
「前の世界の話かな。ね、そのバケツの中の何?」
「これは皆と花火やろうと思ってな」
「花火やるって?」
バケツの中の棒状のものと花火が一致しなかった。
「ああ、花火はなまえが思っているのと違うぞ。手に持ってやるのもあるんだ。納涼祭で見たやつは打ち上げ花火っていうんだ」
「花火見る前に帰って来ちゃったから見てないの」
「その割には遅かったな。まさかどこか寄り道していたんじゃないか?」
「し、してない」
リンクの疑ぐるような目つきに内心びくびくしながら否定した。やましいことではないけれど、マルスには絶対今日のことは言うなと言われていた。
「なまえが寄り道してないっていうならそうなんだろうな。じゃあ開けたところに行って一緒にやろうな」
「うん」
庭の中でも芝の生えていない地面で皆で花火というものを楽しんだ。私が選んだ青にラッピングされた棒からは真っ赤な火花が飛び散った。他のメンバーの花火を見る限り火花には色んな種類があるらしく、虹色の火花を出すものもあった。どの花火もとても綺麗。だけどするならマルスとしたかった。
「なまえは花火しているところも可愛いな。写真撮ってもいいか?」
リンクが手に何も持たずにじっとずっとこっちを見ていてついに話しかけてきた。
「うん。ブログにでも載せようかな。後でデータ頂戴」
よく人の写真をこっそり撮って堂々とブログにアップしているリンクに最大の皮肉を言ってみれば、リンクは喜色満面に笑ってどこからともなくカメラを取り出した。
「なまえ、笑ってくれ」
勝手にリンクのブログにアップされないかなという心配とマルスとしたかったという残念さが顔に出てしまっている気がした。笑顔が引きつっている気がしながらも花火を持ったまま片手で写真用のポーズをとってみせた。
「いいぞ、なまえ! 凄く可愛いぞ!」
「あんまりそういうこと言わないで」
色んな角度で写真を撮りながら可愛いなんて褒められたら恥ずかしくて仕方ない。丁度火花もでなくなったので、リンクから逃げるようにその場を立ち去り、遠くにあった水の張ったバケツに花火を入れて、その隣の空のバケツに入っている中から新しい花火を選ぶことにした。沢山ある花火のうち、どれを選ぼうかしゃがみこんで迷っているとピーチがやってきて、私の隣にしゃがみこんだ。
「ねぇ、納涼祭はどうだったのよ」
「あーうん。えーと、私、嘘付きたくないから聞かないで」
ピーチの質問はマルスとの進展を聞いているのだと思うけど、あんなに恥ずかしいことをピーチに言う勇気はまだない。でもリンクに続けてピーチにまで何もなかったと嘘はつきたくない。
「何よそれ。こっちはなまえとマルスだけがホームにいないってリンクが大騒ぎしてて大変だったのよ」
未だに毎日告白してくるリンクが、今日迫ってきたストーカーみたいな人を思い出させた。
「何でリンクはそんなに私のこと好きなのかな」
「あらモテる自慢は聞きたくないわ」
冗談っぽく笑うピーチに私は決心して、「ちょっと来て」とピーチを人気のないところに引っ張った。
「何よ?」
「私マルスとキスしたの」
ピーチははっと両手で口を覆い、破顔して私の両肩を叩き始めた。
「もう! 早く言いなさいよそれ!」
「恥ずかしいから誰にも言わないでね」
「うふふ」
謎の笑顔のまま肩を揺すられ、その背後で誰かとぶつかった。誰もいないと思ってたのに遊歩道を誰か歩いていたみたいだ。振り返るとロイが倒れていた。
「あらごめんなさい」
「ロイ、ごめんね」
「いや、いいんだ。僕がぼうっとしていたから悪いんだ」
力なくふらふらとロイは起き上がり、メンバー達が花火をしている様子を眺めた。
「君たちは花火やらないの?」
「花火なんかやらないわよ」
「私はさっきまでやってたんだけど。ロイも一緒にやらない?」
「いや、僕はもう寝たいから部屋に戻るよ」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
ロイはそのまま遊歩道を歩いて母屋に向かっていこうとし、途中で振り向いた。
「なまえ」
「なぁに?」
「ごめんね」
「いや、ぶつかった私が悪かったの。こっちがごめんなさい」
ロイは首を左右に振ると何も言わずに行ってしまった。
「なーんかおかしいわね」
「うん。何かあったのかな」
「またカマトトぶっちゃって。ロイはさっきの話聞いててショックを受けたのよ」
「何で?」
「はぁ。あなたもおかしいわね」
何か馬鹿にされたような気がしてならなかったけれど、それよりロイの様子が気になった。絶対おかしい。
私は花火組に戻り(何人かは飽きて母屋に戻ってしまった)、ロイのことと、マルスが闘技場からいつ戻ってくるかを考えながら花火をしていた。たまにリンクが切るシャッター音やメンバー達が騒ぐ声、花火の静かな音がどこか遠くのもののように聞こえる。全てが別の世界のことのようだ。もしかしたら、今日あったことは夢だったんじゃないかって思えるようになった。
「なまえが可愛すぎて、俺はもう死ぬかもしれない」
シャッター音と共に聞こえるこの声は確かに現実のものだと一気に何かが冷めた気がした。