天候の悪い冬を抜け出し、陽射しの暖かな春を迎えた頃、新しい仲間がやってきた。最初にやって来たのはアイク、それから1日毎にピットやソニック、スネーク等個性豊かな仲間が増えた。そして区切りとして最後にやって来たのはなまえだった。仲間が増えても既存メンバーは皆いつも通り新メンバーと分け隔てなく接している中、唯一マルスだけは区別していた。なまえに対してあたりが強い上に常に監視するように彼女を見ていた。そしてついにリンク暴行事件が起き、これはもう僕がなんとかしなくてはという使命感にかられた。
明くる日訓練で二人っきりになった時があり、小休憩の為に落ち着いた控え室のソファで聞いてみることにした。

「彼女が来てから変じゃないか?」

「否定はしない」

「じゃあ、やっぱり何かあるの?」

「ああ。君には話しておくよ」

意外なことに彼はすんなりと話してくれるという。
僕とマルスは故郷が似ていることもあって、仲は良い方だ。以前悪夢について相談した時に親身になってくれたおかげで夢見がよくなったなんてこともあった。それでも彼は心の奥底に抱えているものを見せようとはしない人だ。どこまで話してくれるかはわからない。

「僕は彼女がこの世界にくる前から知っている」

彼の言葉に衝撃を受けた。一体どういうことなんだ。

「小さい頃から彼女が夢の中にでてきた。毎日ってわけではないけど、不定期に週に二、三回見たり、数ヶ月見なかったと思ったら二週間連続で見たり。まあ、頻度はともかく、夢の中で彼女はいつも……」

彼はそこで言葉を飲み込み、暫く黙った。僕は彼の横顔を見つめ続きを待った。

「殺されていた」

「そんな!」

「それだけならまだいいと思うようなこともされていた。口に出すのも憚られるくらい……彼女はいつも夢に出てくるときは笑顔で元気だった。けど、最後にはいつも酷い目にあって死んだ」

「誰がそんなこと……」

「僕が見たこともない知らない奴だった。彼女よりはかなり背が高くて一見人の良さそうな男だったことは覚えている。世界もおそらくこっちではなくて彼女の世界で起こったことに見えた」

「それにしても酷いね。君は幼い頃からそんな夢を……」

女性が殺害される夢を見るなんて。それも酷いことをされたというのだから、相当なショックを受けたことだろう。今の彼がどこか他人に対して厳しい気質を持っているのも納得できる。

「ああ。彼女の容姿は僕が成長しても変わらなかった。容姿、笑い方、話し方全部がだ。ここに来た彼女と何一つ変わらない」

「そんな不思議なことって……」

「こんな世界に来た時点で僕にはそれはもう不思議なことじゃない。だから彼女を襲った奴がいつこっちに来てもおかしくはないんだ」

「でももしここに来たのならその人は良い人になりえるんじゃないかな。つまり、マリオと同じ世界にいた……」

「クッパとあいつは違う。ガノンドロフも同じだ。あいつだけは駄目なんだ。君も同じ夢を見ればわかる。あいつは死ぬべき奴だ」

普段感情を表に出すことのない彼が語気を荒げて言った。眉も目もつり上り、怖い顔をしている。

「君がそこまで言うのならそれはそうなのかもしれない」

「……もしあいつが現れたその時は、僕は絶対あいつを殺す」

「そんな君が手を汚すなんて」

「もしそれであいつが現れてなまえが殺されたら、その台詞を僕にもう一度言ってみてくれ」

僕は返す言葉がなく、ただ空を見つめるしかなかった。

「僕は訓練に戻るけど」

マルスはすっと立ち上がり、僕を見下ろして言った。
僕は到底訓練に集中できる気がしなかった。「僕は部屋に戻るよ」と彼に伝えて僕は外に出た。



*



あれからずっと僕は、彼が言ったこととなまえのことが気になり、疑問が止まらなくなった。
何故彼女は彼の夢に出てくるんだ?何故彼女はいつも同じ男に殺されるんだ?
僕は気になって仕方がない。だからつい彼女のことを目で追うようになってしまった。
その所為でリンクに絡まれることが最近多くなった。それ関連で話しかけられたのはなまえが来て一月程経った頃、人気のない廊下でだった。

「ロイ! なまえのこと好きだろ!」

「え? なんでだい?」

「男ならなまえが好きになって当然だろ! それに最近ロイはなまえのこと見過ぎだ!」

「ああ、それは違うよ」

「何が違うんだ!」

否定したものの、気になるから見ていることには変わりはない。何が違うと聞かれれば困る。

「参ったな」

「あー! やっぱりなまえが好きなんだろ!」

「好きというより気になるんだ」

「それは好きってことだぞ!」

「え? そうかな?」

なまえがどういう子なのかを知りたくて見ているだけだ。そして失礼かもしれないけれど、側で見ていても彼女は特別人を惹きつけるような人には見えなかった。僕と同じように至極平凡で、特別目立つ感じではない。

「リンクはなまえのどこに惹かれるの?」

「それは天使みたいなところだろ!」

「どの辺が天使?」

「見た目も中身も全てだ!」

「そうなんだ」

リンクはなまえが来た時は普通だった。リンクがこんなになってしまったのは、何かきっかけがあったのだろう。思い当たる節は、マルスにリンクが殴られた事件しかない。それのちょうど次の日にリンクがなまえに告白したからだ。看病されて惚れたとかかな。いや、もしかしたら殴られた所為で頭をやられてしまったのかもしれない。

「そうなんだって反応薄いな。まさかロイ、なまえが好き過ぎて女神に見えるとかいうんじゃないよな?」

リンクの言っていることに唖然として何も返す言葉がでてこなかった。
その時の僕はリンクみたいになまえを好きになることはないと思っていた。だけど、ある時を境に僕は人のことをとやかく言えるようにはなくなってしまった。そのきっかけは誰にも言えない。とにかく僕はなまえが気になり始め、そしてそれを押し殺して生活することになった。
 
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