初めて見る夏の君にドキドキした。薄く短くなった服の下なんて既に知っているのに、初めて生で見る薄着に目が釘付けになった。
「なまえはもっとゆったりしたものを着たらどうだい?」
「それって太ったってこと?」
食堂の窓際で横に座る彼女はアイスレモンティーをコースターに戻すと頬を膨らませたので、怒らせたかなと僕が慌てるとまるで風船が弾けたように笑いだした。
彼女は冗談だよ、と言うけど実際二キロくらい太ったように見える。それでも僕は気にならない。むしろ可愛らしくなっているし触り心地もよくなっているので、それについては何も言うつもりはない。
「他の男に見られたくないんだ」
彼女の手を握り、顔を近づけて話すと彼女は恥ずかしそうにはにかんだ笑顔を見せた。
「じゃあ、そういう服をルフレ君が選んで」
はにかみ笑顔のまま彼女は朗らかに言った。
また君付けだ。付き合い始めて数ヶ月後には僕は彼女を呼び捨てにするようになった。一方、彼女は未だに僕を君付けで呼ぶ。そういう時はいつも僕は心配になった。もしかしたら、まだ僕に心を開いていないんじゃないか。もしかしたら、まだあの人のことが好きなんじゃないか。
あの人が去ってから季節は春を過ぎ、夏になった。付き合い始めの頃、彼女の顔にはあの人のことを忘れられないとはっきり書いてあった。それ程物憂げな顔をしていた。時が過ぎるにつれ、彼女の顔からそれが消えていった。しかし消えていったはずなのに、ふと気づくと彼女は悲しそうな顔をする。
「ルフレ君、私が呼ぶと悲しそうな顔をするね」
「そんなことはないよ。僕は君に呼ばれる度に……」
呼ばれる度に、なんだろう?自分でも何を言おうとしているのかわからなかった。兎に角彼女を少しでも悲しませたくなくて言葉を探した。
「気のせいだよ」
言い直して、言いきった。彼女は眉根を寄せ納得のいっていないような顔をした。
「……暑いから湖行かない?」
突然の提案に面食らった。彼女の意図は読めないが、彼女と一緒にいれるならどこでもいい。僕は誘いを受けるよりほかなかった。
*
じりじりと天中に位置する太陽に焼かれながら森を抜け、湖に着くと彼女は突然脱ぎだした。
「な、何をしてるんだ?」
こんな外で彼女の裸体を見る機会なんて今までになく、彼女の裸もそこまで見慣れているという訳ではないので情けなくも慌てふためいてしまった。
彼女は顔を真っ赤にしつつも、あられもない姿で僕に近づくと、「ルフレ君も」と顔を伏せ気味に僕の服を引っ張り促した。
彼女の様子に僕のあれは生理的な反応をしてしまい、それを隠しながら彼女に言われるまま服を全て脱いだ。脱いだ後隠すのも女々しいから堂々と彼女と向き合うと、彼女は僕の下半身に目をやり耳まで赤くなった。僕まで恥ずかしくなって、顔が熱くなるのを感じた。
「来て」
僕の手を引き彼女は湖の淵を歩き、浅そうなところを見つけるとゆっくりと湖に入っていった。岸側でも深い湖は、直ぐ胸のあたりまで火照った体を包んだ。水の中でお互いの手を合わせ握りしめた。
水面からでも彼女の肌が透けて見える程、この湖は不純物をあまり含まずとても綺麗だ。
「気持ちいいね」
「うん。何でここに来たんだい?」
「ルフレ君に言いたいことがあって」
「ホームじゃダメだったの?」
「裸でなら向き合えるかなって。それにここなら誰にも邪魔されないから。流してしまいたいこともあるし」
流してしまいたいことが何なのか気になった。僕はあえて質問せずに静かに彼女の話に耳を傾けた。
「聞いて、ルフレ君。私はあなたがとっても好き」
僕の瞳を見つめ言い切ると彼女は目線を下に落とした。
「でもね、最近までずっと、やっぱり、忘れられない人がいたの」
僕は頷いた。お互いわかっていることだ。
「今、最近までって言ったけど、やっぱり、今も忘れられてない……。たまにね、朝起きるとあの人に会うから早く身支度しなきゃって思うの。でも顔を洗って鏡を見て気づくの。あの人はもういないんだって」
彼女の言葉一言一言に胸のあたりに不愉快で辛い痛みを感じた。
「でもいつか絶対忘れる。絶対、忘れるから」
約束するよ、と彼女は僕を見上げて言った。今にも泣きそうな顔だ。僕も泣き出したい気持ちになった。
「僕も君が忘れてくれるように努力するよ」
「……私を好きになってくれてありがとう」
彼女はそう言って潤んだ瞳を閉じた。僕はそんな彼女と同じように目を閉じることはできなかった。彼女はまだ問題の本質に気づいていない気がした。気づかないままの方が幸せなのかもしれないし、後悔なんてして欲しくないから僕も気づいて欲しくない。
「僕を選んでくれてありがとう」
それでもこの言葉を言うのを止められなかった。僕の言葉を聞いた彼女は目を見開き驚いた顔をした。ほら、やっぱり気づいていなかったんだ。
*