朝起きれば夢であってほしいと思ってた。でも目覚めると寝る前と同じ医務室にいて、何故かルフレ君とリンクがそれぞれベッドの脇のスツールに腰掛け、ベッドに突っ伏していた。
二人を起こさないようにラックの1段目のカゴから着替えを取り出して、隣のベッドに移りいつもの服に着替えた。着替えが終わって、入口の方をふと見ると、クラウドが入口の近くのベッドで布団もかけずに寝ていた。何で三人共私服で医務室にいるのかな。もしかして、具合が悪いと思って心配してくれたのかもしれない。三人共優しいから。
水道の脇の冷蔵庫からお水を取り出し、窓の外を眺めながら飲んでいると館内放送が流れ、皆もぞもぞ起き始めた。
『皆おはよう。今日も一日頑張……ぐぅー……』
今日の館内放送の担当はロイみたいで、珍しく放送しながら寝てしまったみたいだ。寝不足かな。
「あれ? なまえは?」
「なまえさんがいない……」
「おはよー」
リンクとルフレ君がキョロキョロして周りを見ていたので後ろから声をかけた。
「おはよう! 昨日は心配したよ。大丈夫かい?」
「なまえ大丈夫か?」
「大丈夫だよ。二人共心配してくれたみたいでありがとう」
後ろで咳払いが聞こえ、振り向くとクラウドも起きていた。
「クラウド、おはよう」
「ああ。よく眠れたか?」
クラウドは意味ありげにリンク達の方をみた。
「うん」
「それならよかった」
寝不足でふらふらな3人を連れて食堂に向かった。
食堂に着くとマルスはいなくて、あのリュグナという女の子がマルスの隣にいて、さらにメンバー達に囲まれて食事をしていた。
私達が食堂に入ると席に座ったまま小さく手を振ってきた。
「皆さん、おはようございます」
「お、おはようございます」
ショックながらも、無視するわけにもいかずに手を振り返した。雰囲気や立ち振る舞いがお姫様みたいで気後れした。マルスが王子でその許婚ならリュグナは当然お姫様なはずだ。さらにショックだ。
「あー挨拶がまだだったね。僕はルフレ」
「タリス家の長女リュグナです」
「おまえ昨日姉がいるとかいってなかった?」
皆が一斉にリンクをみた。私も驚いてみた。リンクが女の子におまえと言っているのを初めて聞いた。
でもリュグナは気にしていないみたいでにっこりしたままだ。
「姉とは、私の従姉妹のことです。同じ城に住んでいたので」
「そうか。俺はリンク。よろしくな」
「ええ。よろしくお願いします」
「クラウドだ」
「なまえ、です……」
マルスを見た。どうして一緒いるの、と聞きたくて仕方がなかった。でもマルスは一切こちらを見てくれなかった。
挨拶を終えて、私は一緒に来た皆と食事をとった。胸が苦しくて、ご飯の味が全然しなかった。マルスがとられてしまった気がしてショックでこの先どうなるのだろうと考えるだけで吐き気がした。
それに加え、リンクは一言も話さず怖いし、ルフレ君はいつもよりにこにこして怖いし、クラウドは寝ながらご飯食べてるし、なんだか空気がいつもと違っていてピリピリしていて食事を楽しむ要素がまるでなかった。
そんな時、カムイが私達のテーブルに来てくれた。
「なまえ、昨日は一人で眠れたか?」
「うん。疲れてたみたいですぐ眠れたよ。一人じゃなかったけど……」
「ん? どういうことだ?」
「まあそれはクラウドにでも聞いてよ」
パンをくわえながらカクン、と船をこぐクラウドを一べつしてカムイに目配せするとカムイは呆れたように笑った。
「クラウドが昨日の夜から部屋に帰って来なかったんだが、それと関係あるのか?」
「ちょっとね」
「そうか。なまえに聞きたいことがあって来たんだが……今日の夜、空いてたら訓練に行かないか?他のメンバーも誘うが」
「あー、うん。喜んで」
カムイからの急なお誘いに迷ったけど、この後マルスに話しかける勇気はなかったから、お誘いに乗った。
リンクを見ると、やっぱり無表情で黙っていて、ルフレ君はにこにこ顔のままだ。クラウドはまだパンをくわえている。そろそろふやけるんじゃないかな。そんな皆の様子を見てカムイは肩をすくめると私の頭を優しくぽんぽんと叩いた。やっぱり妹扱いされてる気がする。
「じゃあ、なまえ。またな」
「うん」
「っぐぁ」
クラウドがついにスープのお皿に顔を突っ込んだ。
*
夜、闘技場の地下にある訓練場に向かった。外套を羽織り、外に出ると生憎の雨だった。屋根のある道を歩きながら鼻歌を歌い、マルスとリュグナのことを思い出さないようにした。
闘技場に着き、階段を使って地下1階の訓練場まで降りた。訓練場の扉は開きっぱなしで、中には既にカムイがいた。壁にもたれながら剣を磨いている。服装はいつもと違いヘンテコな鎧を身につけていなくて、替わりにダークグレーのシャツに黒のボトムを着ていた。私はカムイに手を振ってから、扉の開閉ボタンを押し、扉を閉めた。その瞬間、低い機械音と共に部屋の電気が切れた。急いで、暗闇の中開閉ボタンを連打したけど、何も反応しなかった。
「な、なにこれ?」
「なまえ! 今そっちに行くから動くな!」
「うん」
カムイのいう通りにその場にとどまっていると、カムイが近づいてくる気配がした。恐らくカムイの手であろう感触が腕に触れた。確かめるように一瞬触れたあと、そのまま腕を優しく掴まれた。
「大丈夫か?」
「大丈夫。停電かな?」
「ていでん?」
「光のエネルギー元が切れたのかも」
「よくあることなのか?」
「たまに停電することはあったけど、いつもエネルギー元を予備のものに代えて直ぐ付いてたから……今日のはおかしいと思う」
「そうか。よくわからないが、ここで直すのは難しいのか?」
「それは無理かも。この部屋にはそのエネルギー元になる制御装置がないから多分……確か上の階にあったと思う」
「そして上の階に行く方法はなしか……復旧するまで待つしかないな」
「うん」
返事してみたものの、確かこの闘技場の電気は母屋から独立しているはずで、母屋も停電しない限り母屋にいる人達は気がつかないはずだ。カムイが他にメンバーを誘うと言ってたから、後から外に出た誰かが気づくといいんだけど。
カムイに腕を下に引っ張られ、一緒に床に座り込んだ。カムイの手が私の手を取り、何故か自然に手を繋ぐ形になった。カムイの手は凄く温かかった。
「手、冷たいな」
「外寒かったからね。カムイの手温かい」
「何故かさっきから暑くてな。なまえが前いたところはどんなだった?」
「私の世界のこと?」
「ああ」
突然脈絡のない話を振られて、戸惑った。直ぐには思い出せなくて、自分がいた町の風景から頭の中の記憶を掘り出した。
「ここみたいに緑がいっぱいあって、良いところだったよ」
「町は広いのか?」
「えっと、他の町に比べると小さかったかな。町っていっても田舎だったから」
「家族や友達はいたのか?」
「家族はいたよ。友達は……いたはず」
「思い出せないのか?」
「うん。家族以外の人はあんまり覚えてなくて……」
「そうか」
「どうして?」
「いや、深い意味はない。ただ、なまえの生い立ちが気になっただけさ」
また頭をポンポンされた。何か誤魔化された気がする。
「じゃあ、カムイの生い立ち教えて」
「俺の生まれは少し複雑なんだが……」
カムイは淡々と話し初めて、本当に複雑な生い立ちを教えてくれた。兄妹がいっぱいいること、つい最近までその半分は存在を知らなかった上に城の塔にずっと閉じ込められていたことなど。
「それは大変だったね。でもカムイが王子様なんて知らなかった」
「ああ。見た目がそれっぽく見えないかもな」
「言われてみれば品があるよ」
「ありがとう。なまえは優しいな」
「本心だよ」
私がフォローするとカムイは微かな短い笑い声をあげた。そしてそのままお互い黙ってしまった。後から誰かしら来るはずだけど、何か嫌な予感がしてならなかった。何故かはわからないけど、そういう空気を感じた。
「そういえば他に誰を誘ったの?」
「ピカチュウとカービィだよ」
「あの子達と仲良いの?」
「一緒に乱闘したことはある」
「そうなんだ」
「それより、寒くないか?」
「ちょっとだけね。このまま誰も来ないとそのうち凍えちゃうよ」
「なまえ」
カムイの方に引き寄せられるように片手で抱き寄せられた。カムイの顔が私の頭の上辺りにあるのを感じた。密着する体に少し緊張する。
「こうすれば当分は持つだろう」
「確かに暖かいけど」
ハグはあり。仲間なら軽いハグは喜びを表現する時なら異性を意識しないのは普通のこと。でもこれは、暗くてよくわからないけど、ドラマとかで見るような恋人同士が身を寄せ合うものに感じる。こんな姿をあの人に見られたら、勘違いされてしまう。もし、あの人が助けに来たら……。ああ、でもあの人は今朝私に目も合わせてくれなかった。きっと助けに来てくれない。あの時みたいに。
「嫌か?」
「い、嫌じゃないよ……で、でも……」
「わかってる」
「え?」
「何がとははっきり言わないが君が考えていることはなんとなくわかる」
「そう……」
昨日カムイが私に、あの人のことを好きかと聞いてきたことを思い出した。
「今は仕方のない状況だ。俺は君が寒がっているのなら、暖めてやりたい」
純粋なカムイの優しさを感じた。そうだ。カムイには妹が二人もいるんだ。それならこうして身を寄せても兄弟が仲良くするのと同じことだ。
「ありがとう」
体ごとカムイの方に寄せ、彼の暖かさを感じた。少し緊張するけど、お兄ちゃんだと思えばなんてことない。カムイお兄ちゃん。声に出しては言わないけれど、そう心の中で呟けば気が楽になった。