あの後ワドルディ達がやってきて目元の冷やパックをしてくれて、なんとか目の腫れがましになった。それから何も考えずに、ソファに横になってみたり、窓の外を眺めたりだらだら過ごしているとドアノブを乱暴に回すようなガチャガチャいう音がして飛び上がってしまった。

「私よ!開けて!」

「わ、わかった」

扉越しのピーチの声に安心した。切羽詰まったような様子がわかったので急いで鍵を開けると、ピーチが飛び込むように部屋に入ってきて、内鍵をかけると私の肩を掴んだ。

「朝、あの馬鹿リンクが、朝刊が遅れてるって騒いでいたの。朝刊が遅れるのって、何かある時でしょう?以 前、私も変な記事書かれたことがあって、それから新聞にはマスターが規制かけたって聞いたのだけれどおかしいのよ! さっき届いた朝刊にあなたとカムイのことが小さなコラムに書いてあったわ! 一体彼に何されたの!?」

「何ってなにが?」

「今つけるから待って。多分、自由放送の局なら……」

ピーチはデスク上のパソコンを立ち上げ、テレビアプリを起動した。部屋にテレビがない代わりにパソコンで見れるようになっている。
ピーチがチャンネルをいくらか変えると男性と女性が並んでボードを見ている場面に変わった。次にボードがアップになり、絶句した。暗闇でカムイが私に覆いかぶさっている写真が映っている。写真は暗視用のなにかで撮っているみたいだけど、私達とわかる程くっきり映っている。

「な、なんで?」

「あなた昨日の夜、カムイのところにいたの?」

「ううん。いたのは闘技場で、私カムイと一緒に何時間も閉じ込められてたの。どうやってこんな写真撮ったんだろう」

「じゃあカムイとあらぬ事をしたのは本当なの?」

「バ、バランス崩しちゃっただけだよ」

「本当に?」

じっと目を細めてピーチが疑り深そうに聞いてきた。首元をくすぐったカムイの息遣いを思い出して思わず首元を押さえてしまった。それを見てピーチは悟ったようにため息をついた。

「バランスを崩したねぇ。まあいいわ。何もされていないなら」

ピーチはパソコンの電源を落とすとソファに腰掛け、隣に来るようにジェスチャーした。私も隣に座ると、両手を握られ真剣な表情で見つめられた。

「これを撮って流した犯人は勿論、カムイやあなたにペナルティがあるかもしれない。それに世間の反応があると思うから暫くはブログも更新控えた方がいいわ」

「ペナルティ? 何があるの?」

「それは全てマスターの判断よ。ガノンから何か聞かされるまでは部屋にいるのがいいわ。内容だけに皆あなたとは普通に接せられないと思う。あなたは何も見ない、聞かない、私以外誰も部屋に入れないこと。パソコンなんて使っちゃダメよ。いい?」

「わ、わかった」

ピーチの様子を見るに、大変なことみたいだけど、私には事の重大さがいまいちわからなかった。実感が全くない。ただマルスに写真を見られて勘違いされるのだけは嫌だった。
私が深く頷くとピーチは笑顔になり、私の肩を力強く叩くと、「じゃあ戸締りはきっちりするのよ」と言い残して部屋を出て行った。
また部屋に一人っきりだ。部屋の鍵を閉めてから何かすることはないかと部屋を見渡したけど、パソコン以外には特に遊ぶものが何もなかった。
ぐーっと伸びをしてそのままそっと目を閉じた。何もない部屋で一人で過ごすなんて難しい。さて、どうしようと悩んでいると窓の方から小さな音がした。カーテン越しに人影が見えた。誰かバルコニーにいるみたいだ。

「誰?」

カーテン越しに大声で尋ねてみると、「俺だ」と微かにリンクっぽい声が聞こえた。おそるおそるカーテンを開けるとリンクがいたので、窓を開けた。電気式暖炉で暖められた部屋にいるので余計に外の空気が冷たく感じた。

「ありがとな。部屋の前にモリを持ったワドルディがいて入れなかったんだ」

「外寒いのに……」

リンクが白い息を吐く様子に申し訳なくなった。

「これ、元気が出ると思って温室から取ってきた」

リンクがそう言いながら後ろ手から一輪の花を花瓶ごと差し出したくれたので受け取った。

「ありがとう」

「これから色々あると思うが俺ができるだけ守るから心配するな」

ピーチと同じようにリンクは深刻そうに言った。実感はわかないけど、本当に大変なことになったみたいだ。

「これ部屋に飾らせてもらうね。といっても、ここピーチの部屋だけど」

「ああ。長居はしない方がいいんだよな」

じゃあ、と片手を上げるとリンクは器用に左隣のバルコニーからその隣のバルコニーへと移っていった。感心しつつ、窓を閉めようとすると今度は何故かクラウドが右隣のバルコニーから飛んできた。

「なまえ、突然悪いな」

「な、なに?」

「カムイから伝言があって来た。それリンクから貰ったのか?」

「そうだよ」

「前から思っていたが、あんたには花が似合うな」

クラウドはどこか寂しそうな顔をして言った。その顔を見て、クラウドが意外と花に興味があるようなことをカムイから聞いたことを思い出した。

「伝言のことだが、カムイが迷惑かけてすまなかったと。もうなまえとは極力話さないようにすると言っていた」

「え。そんな……」

「本人はあんたのことを考えて言っているんだ」

「私はカムイと話したいよ」

「……なまえは無邪気過ぎる。それが時に人を傷つけることを理解した方がいい。それと着替える時は必ずカーテンを閉めた方がいい」

「え?」

唐突な忠告にびっくりして聞き返すと、クラウドは静かな咳払いをして背を向けるとそのまま元来たバルコニーを飛んで行ってしまった。
どきりとして、過去カーテンを開けっ放しで着替えなんかしたかなと考えたけれど、思い当たることがなかった。
クラウドの発言を気にしないようにして、窓を閉めてリンクからもらった花を部屋のガラステーブルに置いた。
水差しからピルスナーグラスへお水を注ぎ、花を眺めながらお水を口に含んだ。渇いた喉が潤って不安な気持ちが和らいだ。
しばらくすると部屋の扉が開きシュルク君が、自身の身長の2倍はありそうな三又のモリを持ったワドルディを引き連れて入ってきた。

「なまえ、入っちゃったけど大丈夫かな?」

「ピーチが人入れちゃだめって言ってて、多分その子門番にしてるのかなと思ったんだけど」

「ああ。僕この子と仲良いから入っていいか聞いたら入れてくれたんだ」

シュルク君が人の良い笑顔で朗らかに言った。

「でも迷惑になりそうだから、顔だけ見れてよかったってことで帰るね」

私の返事も聞かずシュルク君が扉から出ると間髪入れずにルフレ君が入ってきた。

「なまえさん! 大丈夫かい? やっぱりカムイに変なことされたのかい?」

「え。変なことというか何もされてないよ」

「ならいいんだけど。いたっ! 何をするんだ!」

ルフレ君がワドルディにちくちくとモリで突かれ、外に出るように促された。

「なまえさん! 何かほしいものがあれば連絡して!」

ルフレ君が振り返りながらそう言い切った瞬間に扉が勢いよく閉められた。また部屋に一人ぼっちになった。時間が経つにつれ、不安になり胸の苦しさが増していった。
何もすることがないまま時間が過ぎて、あまりの暇さに我慢ができずにパソコンを立ち上げてテレビアプリを開いてみた。チャンネルは先程みたのと同じ自由放送のものだった。内容も同じく私とカムイの写真についてだ。
みるに耐えなくてテレビアプリを落として、ファンサイトを探して見てみると自分の悪口が書かれているのがわかって落ち込んだ。



*



バルコニーの方から窓ガラスの叩く音がして、はっとして目を向けるとロイがいたので窓を開けた。

「どうしたの?」

「なまえ、君に伝えたいことがあって来た」

「なに?」

「彼に対して失望するようなことがあっても、これだけは理解して欲しいんだ。彼は何よりも君のことを大事に思っているよ。どんなに君が傷つくことがあっても、"君が無事でいること"が、何より大切なんだ」

抽象的な言い回しに理解が追いつかなかったけれど、ロイが言うにはマルスは私のことをどうでも良くなったわけではないことがなんとなくわかった。でもそれはマルスがそうロイに伝えたのかな。

「それってマルスからの伝言?」

「これは僕が感じたことで、これからが彼の伝言だけど『どうか自暴自棄になって馬鹿なことはしないでくれ』って」

「なにそれ!」

「えっと、まだ続きがあって、『昨夜見たことはなまえが思っていることとは違うから忘れてくれ』って。内容は聞かないけど、今はとにかく大人しくしておいたほうがいいね」

昨夜というのはあの時のことだ。今朝部屋に押しかけようとしたのはきっとそれを弁明する為だったのかもしれない。今日は窓から何人か駆けつけてくれた人がいるのだからマルスも直接言ってくれればいいのに。きっとまたあの子と一緒にいるんだと思うと悲しくなった。

「僕は君が悲しむのが何よりも辛い。だから何かあったら言ってほしい。助力するよ」

ロイの優しい言葉が胸に沁み、泣きそうになったけれど堪えて無理に笑顔を作った。

「ありがとう。さっそくだけど、今凄く暇で。ロイとボードゲームでもしたいな。あ、勿論ピーチには内緒で」

ロイは穏やかに笑うと、ボードゲームを持ってきてくれて、物静かと理由でアイクを連れてきてくれた。体を動かしたいという理由でアイクはしばらくしたら帰ったけれど、夕暮れまでロイが付き合ってくれたのでとても気が楽になった。
 
long/sitetop/short
ALICE+