「やっぱり目が腫れてる……」
結局一睡もできずに朝日と共に医務室のベッドから起き上がり、鏡の中の自分の顔を確認した。枯れるほど泣いた後の目は酷く腫れ上がっていた。今日は朝からシフトが入っているから、誰かに代わってもらわなきゃ。
そんなことを考えながら顔を洗い、こそこそと二階へ上がることにした。ピーチの部屋に行って、早くシャワーを浴びたい。
階段を上がる途中踊り場でばったりカムイに会ってしまった。カムイはいつもより目を細め、顔を赤くさせている。
「なまえ、おはよう。下にいたのか? 昨日は……目が腫れてるが大丈夫か?」
「大丈夫。カムイこそ、風邪引いたんでしょ? 顔が赤いよ」
「あー、これは違う。不思議なことに風邪は寝たら治ったみたいだ。昨日は近づくなと言ってすまなかった」
「別にそれは大丈夫だよ。風邪移さないように言ってくれたんだから」
「やっぱり顔色も優れないな。昨日何かあったのか? クラウドが少し気になることを言ってた」
「な、何もないよ。何もないから気にしないで」
「わかった。何も聞かないが、今日はゆっくりするといい。昨日のこともあるからシフトのことは俺に任せてくれ。朝と昼に入っているだろう?」
「うん。ありがとう。カムイは本当に大丈夫なの?」
「すっかり元気になったから大丈夫だ」
「そう。よかった」
「お大事にな。あ、部屋に鍵をかけておいたほうがいいかもしれない」
「なんで?」
「昨日非常識な時間に訪問者がいて……危ないから、一人の時は必ず鍵をかけた方がいい」
カムイはそう言うとそのまま階段を降りて行ってしまった。カムイの部屋に訪問者って誰だろう。気になったけれど、今はそんなことより、誰にも会わないようにピーチの部屋に行かなくちゃ。音を立てないように階段を上り、すり足でなんとかピーチの部屋に辿りついた。
そろりと部屋を開けるとピーチは天蓋付きのベッドで寝ていたので、私はこっそり着替えを持って脱衣所に入り、シャワーを浴びて新しい服に着替えた。部屋に戻るとピーチがベッドからいなくなっていた。不審に思って、出入口の方に行くと、扉越しに誰かと話しているようなピーチの声が聞こえた。
「だからなまえはここにいないわ!」
「だったら部屋の中を見せてくれ」
あ、マルスの声だ。心臓が小さく飛び跳ねるように脈打った。私に会いに来てくれたのかな。
「あなたね、昨日夜中に私の部屋に来てなんなのよ!? しかもカムイ達の部屋にまで押しかけて二人を殺す勢いだったみたいじゃない! 何でカムイ達の部屋にまでいくのよ!? 気味が悪いわ!」
夜中にピーチとカムイ達の部屋に押しかけた?もしかして、カムイが言ってた訪問者ってマルスのことだったのかも。何でマルスがカムイの部屋に行ったんだろう。
「話にならない。そこをどけ」
「また引っ叩かれたいみたいね」
怪しい空気になって来た。マルスに会うのはとても怖いけど二人が喧嘩するのを止めなきゃ。勇気を振り絞ってドアノブに手を掛けると、「おい、あんたらみっともないぞ」とクラウドの声がした。
「なまえに話があると伝えてくれ」
「わかったわ。あんたが来たことくらいは伝えておくわよ」
クラウドのおかげで、事なきを得たみたいだ。ピーチは緊張した面持ちで部屋に戻ってきた。
「あら、もしかして聞こえてたかしら?」
「途中から聞こえちゃった。守ってくれてありがとう」
「それはいいのよ。それで……私があいつを突っぱねといてなんだけど、あなたはどうしたいの?」
「暫くは会いたくないかな……気になることはあるけど、彼から何かを聞くのは怖いの。今は何も知りたくない」
「そう。じゃあ今日は部屋で大人しくすることね。シフトは?」
「カムイがなんとかしてくれるって」
「じゃあ私は今日夜まで部屋を空けておくようにするから、何かあればワドルディを遣わせて呼んでくれるかしら」
「お気遣いありがとう。そうさせてもらうね。私ピーチがこんなに優しいなんて知らなかった」
「あら心外ね。優しさついでに言うと、あなた今顔が酷いからアイケアでもしといた方がいいわよ。ワドルディ達呼んでくるわ」
「ありがとう」
ピーチのはっきりモノを言う態度に苦笑しつつも、有り難みを感じた。ピーチが優雅に部屋を出て行く姿を見送り、私は豪奢なドレッサーの前の椅子に腰掛けた。何故かピーチの部屋は私や他のメンバーの部屋より広くて家具が驚くほど高そうなものだ。鏡を覗いてみると相変わらず目が腫れていて、何故か医務室で見たときよりも酷く見えた。
「カムイに見られちゃったな」
踊り場でカムイに会った時のことを思い出して恥ずかしくなった。