ホームの敷地外へバイクを走らせ、いつもの散歩コースの高台に向かった。高台に着くとなまえがピカチュウと一緒にボール遊びをしていた。
「クラウド!」
バイクの音に気づいたのか、なまえがピカチュウの後ろ脚で蹴ったボールを拾い上げ小走りで近づいてきた。俺はバイクを止め、ヘルメットをとった。
「こんなところでボール遊びなんて危ないな」
「転落防止柵あるから大丈夫だよ」
確かに俺の身長よりも高く黒いフェンスが高台に沿って並べられているが、それでも危なく感じる。
「ここも所有地なのか?」
「一応そうらしいよ」
「ホームはとんでもない広さだな」
「マスターに感謝だね。クラウドは偶然ここに来たの?」
「以前からここを散歩コースにしているが、ここでメンバーに会ったのは初めてだ」
「敷地内でしか動かないからね。申請無しで所有地でるとワドルディに捕まっちゃうし」
そういえば以前ホームから遠く離れたところへ出たら、ギャングが乗るような大型バイクに乗ったワドルディ数匹に追い立てられたことを思い出した。
「たまにメンバー達とピクニックとかで来てたよ。最近は寒くて天気悪いから皆来ないけど」
「なまえは寒くないのか?」
「厚着してるし大丈夫だよ」
そういって首元に巻いたマフラーの裾を持ち上げた。その瞬間を狙ってか、なまえが片手に抱えていたボールめがけてピカチュウが頭突きしたのでボールがすっぽ抜けて転がった。ピカチュウは前足でボールを突きながら遊び始めた。
「クラウドもボール遊びする?」
「いや、俺はいい」
なまえの誘いを断って高台沿いのフェンスに足を運び、フェンスの間から遠くの景色を眺めた。雪に覆われた白肌の山々の自然の景色の中に真っ赤な建築物が集合した街が遠くに見える。まだ行ったことのない街だ。いつかは行けるのだろうか。
物思いに耽っていると後頭部に衝撃が走った。振り向くとピカチュウが短い前足で口元を押さえて笑っている。どうやらピカチュウの仕業のようだ。
「ピカチュウ!」
なまえはピカチュウを叱ったが、俺は気にしなかった。誰かにあんな風に怒るなまえを初めて見た気がして不思議に思った。
なまえはボールを拾い上げて、俺の方に近づき自分の後頭部を触る仕草をした。
「クラウド大丈夫?」
「大丈夫だ。俺はもう帰る。なまえも日が落ちる前に帰った方がいい」
バイクを置いてきたところまで歩き、メットインからハーフヘルメットを取り出し被った。
「段々寒くなって来たし、私も帰ろうかな」
なまえは斜めがけにしたメッセンジャーバックにボールをしまうと、ピカチュウを抱きかかえた。
「重そうだな。後ろに乗れ」
余ったヘルメットを取り出してなまえに差し出すとピカチュウで手がふさがっているようで困った顔をした。
仕方なく頭に被せてやり、バックルを止めてストラップを調節するがなまえが後ろに退がるせいでうまくいかない。
「動くと緩くなって危ない」
なまえの瞳を見つめると眉尻を下げ、視線をそらされた。
「だ、だって……大人しくするからあんまりちょっと……近いのは……」
語尾にかけて消え入るような声でなまえが恥ずかしそうに言って初めて何故退がるのかなんとなくわかった。こっちまで恥ずかしくなり、急いでストラップを絞ると、なまえが顔をしかめた。
「きついか?」
「だ、大丈夫」
「おまえは落ちないようにしっかりつかまっておけよ」
ピカチュウの頭をぽんと撫でるように叩くと、尾で手を叩かれた。すかさずなまえが叱るが、俺は叱っているなまえの姿が気になりピカチュウにされたことなど気にしなかった。
俺はバイクに跨るとなまえを促したが、一向に乗ろうとしない。
「どうした?」
「ちょっと前向いてて」
重そうなピカチュウを肩に乗せると、なまえはスカートの裾を押さえた。以前一緒に乗った時は、何かライダー用のものを穿いていたようだが、今日はそれらしいものを履いていないようだ。俺は見ないようにして、なまえが乗るのを待った。
なまえが乗ったのを確認すると、バックレーンを掴んでいるようで俺から体を離している。思わずため息がでた。
「膝で俺の腰を挟むといい。手は俺の肩にそえろ。ピカチュウは股の間に入れて落ちないようにするんだ」
なまえがピカチュウを俺の背にくっつけるように置くのを確認し、なまえの手が肩に伸びるのを感じた。
「ゆっくり走る。険しい道じゃないから安心しろ」
「うん」
なだらかな道を下り、数分後にはホームに着いた。ホームの門をくぐると直ぐになまえが降りたがったので、降ろすとメットを外した。
「クラウドありがとね」
ぎこちなく笑うその顔のラインにはストラップの痕がうっすらと残っているのを見るとやはりきつかったようだ。
*
ガレージへバイクを止め、片付けをしていると眉間にしわを寄せたリンクが開け放れたガレージの入口をノックし入ってきた。何か嫌な予感がする。
「なまえとバイク乗っているところ見たんだが!一体どういうことだ!」
「ピカチュウも乗っていたが」
「それはどうでもいいんだ!なまえを後ろに乗せてたということは、その背になまえのあ、あれを感じてたんだろ!」
リンクの言っていることはなんとなくわかり、ため息がでた。
「残念だが体は密着させていない」
「残念だが?やはり背ぱいを狙ってたんだな!」
「背ぱい?残念だがというのはリンクの予想が外れたことに対して言った」
「背ぱいって何の話?」
面倒なことにルフレが息を乱しながら、リンクと同じように眉間にしわを寄せてガレージに入ってきた。
「ルフレは何の用だ?」
「なまえさんの顔周りにヘルメットのストラップ痕が付いてたからもしかしてと思ったけど、このガレージについた車輪の痕を見たところ、さっきまでなまえさんとツーリングしてたんだな」
「ここまでくるとあんたら怖いぞ」
「はっ。もしかしてなまえさんがクラウドのことかっこいいって思っているのにつけこんでアタックしてきたのか」
ルフレはあごに手を当て深く考え込む仕草をした。ルフレはまともだと思っていたが、最近リンクに似てきた気がする。
俺はなまえが俺のことをルフレの言う通りのように思っているとは知らなかった。そうすると、ヘルメットのストラップを付ける時のあれは勘違いでなくそう思っているからこそ恥ずかしがったのか。
「ル、ルフレ……それは本当なのか?」
リンクが呆然としてルフレに問うとルフレは頷いた。
「ち、ちくしょー!覚えてやがれ!」
わっとリンクはガレージから走って出て行き、一先ず安心した。
「強力なライバルはあの性悪王子だけかと思っていたけど、君もだったのか」
やれやれと肩をすくめるルフレに勘違いだと弁明しようと思ったが、面倒だ。止めておこう。あのヘルメットのストラップを付ける時、俺はストラップしか見ていなかった。なまえが退がったあの時だけ顔を間近で見た。その時のなまえの表情が今になって目に焼きつくように頭から離れなくなった。あの表情とあの台詞が何度も頭の中で再生される。
「あんたらが好きになるのも分かる気がする」
「え。なんだって」
ぽつりと呟いた言葉にルフレは過剰に反応したが、俺はそれを無視してガレージを出た。母屋に入ると階段下でトレードマークの帽子を脱ぎ髪をツンツンに立てたリンクがなまえにちょっかいを出しているのを見て恥ずかしくなった。