shulk
クリスマスの朝。広間に行くと、皆で飾り付けた巨大ツリーの前にクリスマスプレゼントが山積みになっていた。皆ツリーの下でそれぞれ自分の名札の付いたプレゼントを探したり開封したりして楽しそうだ。
私も自分の名札が付ているプレゼント箱をなんとか探し出して手に取り、床に座り込んで包装を取り外し、箱を開けた。中にはコスメグッズが詰まっていた。女の子っぽいキラキラしたパッケージに胸が躍る。新しいコスメは見た目だけでも楽しい。
ピーチがプレゼントボックスを抱えて私の隣に来て、私の箱の中身を覗いた。
「あなたもコスメ貰ったのね」
「うん」
ピーチの箱の中にも私とは違う種類のコスメグッズが入っている。
「早速今日のデートに使ったらどうかしら?」
「今ここで言わないでっ!」
誰か聞いていないか周りを見渡すと、ツリーから離れたところにシュルクが座ってプレゼント箱を開けているところで、私が見ていることに気づくとふんわりと微笑んでくれた。その笑顔が相変わらずかっこよくて、どぎまぎしてしまう。
私は意中の相手に微笑み返す余裕なんてないから、気づかなかったふりをしてピーチに話しかけた。
「今、眼が合っちゃった」
「ええ。あなた顔が真っ赤よ」
「本当? 今日は化粧濃いめにしよ……」
「それより告白はするの?」
声のトーンを抑えてピーチが聞いてきた。今日はシュルクとお出かけする予定だけれど、お互い好きとは言ってなくてよく話す程度の仲だ。つい先日、街でやっているクリスマスマーケットにシュルクを誘ったけど、シュルクは鈍いからきっと私の気持ちに気づいていない。告白しても気づいてくれるかどうかも怪しいくらいに彼は天然で鈍感だ。
「手繋ぐことを目標にする」
「ウブねえ」
ピーチはくすくす笑うけど、シュルクと手を繋げるだけで私は十分嬉しい。
私は部屋に一度戻り、デートの準備をすることにした。闘技のお給料で貯めて買った、白色の襟付きのグレーワンピースに黒のカーディガンを羽織って姿見鏡を見た。なんだか地味で暗い。あと持っているカーディガンは白色のだけど、派手に見えて1回も着ていなく、クローゼットの肥やしになっている。
ピーチに来てもらって、見立ててもらうことにした。やっぱり黒のカーディガンは却下されたので、白のカーディガンを羽織ることにした。お化粧もピーチに全部やってもらい、マニキュアも服と化粧に合ったものにしてもらった。最後に紺のアウターに白のマフラーを巻いて、姿見鏡で全体を確認するとなかなか小洒落ている。髪もちょっとだけ巻いていて、いつもより良くなってる気がする。
「ナマエ、綺麗よ」
「ありがとう!」
結局、全部ピーチにやらせてしまった。ピーチ無しじゃこんなに小綺麗になれないから自分で出来るように練習しよう。
ピーチに送り出され、お城の玄関口に行くとシュルクはまだ来てなくて不安になった。まだ出発時間より三分早いけど、それでもシュルクが待ってると思ってたからちょっと落ち込んだ。不安になりながらも待っていて、玄関の時計が出発時間になると、シュルクが何故か外から玄関口に入ってきた。コートとマフラーを既に着用していている。
「もう時間かな?」
「ちょうどくらいだよ。外出てたの?」
「ちょっとね。あれ? なんか今日違うね」
「あ、うん。ちょっとね」
シュルクから目線を外した。お化粧して自信が付いたけど、面と向かっていつもと違うとか言われると、なんだか照れくさい。それにあの鈍いシュルクがいつもと違うことに気づいてくれたのが凄く嬉しくて、尚更照れくさかった。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
シュルクと一緒に外に出て、遊びに行くことにした。
時刻は夕暮れ時。目に見える程辺りが暗くなっていくのを、寒さに震えながら歩いて街まで下りた。
街はすっかりクリスマスのネオンで彩られ、どこもかしこも青や赤などの鮮やかな色の電飾が施されている。ショップの建ち並ぶ並木道は両サイドの木からネオンを繋ぎ合わせ、道の上空にキラキラとクリスマスをモチーフにした形の電飾が飾られている。
街の中央の広場に行くと周りの建物よりも高いツリーが立っていた。ツリーには青と白を基調とした色合いの電飾が付けられていてとても可愛い。ツリーまでの道には食べ物やツリー用のオーナメントなどが売っている露店が並んでいて、どの露店にも人が並んでいて混んでいる。
「ナマエはお腹空いてる?」
「せっかくだから飲み物だけでも買いたいかな。シュルクは?」
「僕は何か軽く食べられればいいかな」
露店を二箇所回ってアーモンドを砂糖水とシナモンで煮詰めたマンデルンというお菓子とココアを買った。マグに入った熱いココアを二人分シュルクに持ってもらい、私はマンデルンの入った紙袋を持った。開いた紙袋の中からシナモンの香りがふわりと漂う。
「凄くいい匂い」
「先食べてていいよ」
「じゃあ、遠慮なく先に頂くね」
会話の間繋ぎにもなればと思って、一粒紙袋から取って食べてみた。カリッと音がなり、口内に甘くて香ばしい味が広がった。
「美味しい」
「本当?僕にもくれる?」
「えっと……」
シュルクの両手はココアで塞がっていて、どうやってマンデルンを食べるんだろう、と困ったようにシュルクを見ると、シュルクは唇を薄く開いた。勇気を出して、マンデルンを一粒シュルクの口の中に入れてあげた。
「これ、美味しいね」
「うん……」
顔を合わせるのが恥ずかしくて足元を見つめながら答えた。もう既に今日の目標の手繋ぎよりもレベルの高いことをしてしまった。頭の中は幸せ気分でほわほわで、早くピーチにこのことを伝えたいなと思う。
露店から少し離れたところに空いている円形テーブルを見つけて、シュルクと斜めに向き合う形で席に着いた。
会話が途切れて気まずくて、間を繋ぐようにマンデルンを食べたりココアを飲んだりしたけど、味を感じないくらい緊張している。何か話さなきゃ。
「シュルクはクリスマスプレゼント何貰ったの?」
「僕は工具セットだよ」
「そうなんだ。私はコスメグッズなんだ」
「だから今日はいつもと違うの?」
「うん。早速使ってみたの」
「爪も何か塗ってるんだ。綺麗だね」
テーブルの上に両手の指を広げてみせるとシュルクに褒められた。好きな人に対象はなんであれ、綺麗なんて言われたら、一生忘れられないくらい嬉しい。
「そういえば僕もナマエにプレゼントがあるんだ」
なんだろう、とドキドキしながら待っているとシュルクはコートのポケットから手の平サイズの真っ赤なリボンを取り出した。
「これ、髪飾りしてくれたらと思って」
「ありがとう。凄く嬉しい」
シュルクからリボンを受け取ると、ズシリと思ったより重みがあった。リボンの中心は黄金色の金具か何かで出来ていて、意匠の凝ったデザインが施されている。
「包装する時間がなくてそのままでごめんね」
「もしかして、作ったの?」
「うん。リボンは布屋で買って、そこの金具は金メッキで中は鉄で出来てるんだ。実は出掛ける前にガレージで溶接から金メッキ加工までしてて」
私の為にそこまでしてくれたのが嬉しくて、それと同時に私が何も用意していないことに気づいて申し訳なく思った。
「こんな素敵な物作ってくれてありがとう。でも私シュルクに何も用意してなくて……」
「じゃあ僕からのお願い聞いてくれる?」
「何でも聞くよ」
「僕と出かける時にそれ付けてくれるかな」
「えっと……それって私とまたお出かけしてくれるの?」
「そうだよ」
「二人きりでも?」
「僕は二人きりの方がナマエといっぱい話せて嬉しいかな。今日も誘ってもらえてからずっと楽しみだったんだ」
まるで本音そのままを口にするように、さらりとシュルクは軽く言う。その言葉が何を意味するのか、そしてこれからお出かけすることでどう関係を発展させるのかも私次第だと感じた。
「私もシュルクと話すの好きだよ。リボン、付けてくれる?」
デートを誘った時以来、ドキドキしつつも自分から積極的にお願いしてみた。
「いいよ」
シュルクは立ち上がり、私の後ろに回った。シュルクが私の髪に触れる。シュルクの手が離れると頭が少し重くなった。席に戻るシュルクを見ながら頭のリボンに触れてみた。
「どうかな」
「可愛いよ」
時が止まり、周りの雑音も聞こえなくなったようにその言葉だけが頭に響いた。シュルクが可愛いなんて言葉を言うなんて驚きなのと、それが私に言われたものだから耳を疑った。もう胸がいっぱいいっぱいで、今日はもう精神的余力がない。
その後はずっと上の空でお城に戻るまでの間、自分が何を話しているのかもわかっていなかった。
お城に着くと、お互い部屋に戻ろう、と別れることになった。
「じゃあ、今日はありがとう。リボン大切にするね」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみ……」
シュルクに手を振って背を向けて、自室の方へ向かうと後ろからふんわりと抱きしめられた。
「シュ、シュルク……?」
「なんか今日は離れたくないし、ずっとこうしてたい」
「私も……離れたくないよ」
「じゃあずっとこうしてて良いかな?」
「うん……」
静かに目を閉じてシュルクの体温や息遣いをどぎまぎしながら感じていると、階段をドタバタと駆け下りてくる音がした。
「雪だ!」
「雪ー!」
「こら待てって!」
子供の声とフォックスの声が聞こえてくる。このままだとシュルクに抱き締められてるところを見られてしまう。
「シュルク、人が来ちゃう」
「だから?」
「見られちゃうよ?」
「見られちゃ駄目なの?」
ここでまたシュルクの鈍感さに愕然とした。シュルクの腕を解こうとしていると、ネスとリュカ、それを追いかけているフォックスが下りてきた。ネスとリュカは私達に目もくれずに玄関の扉を開き外に出てしまった。フォックスはこちらを見て呆然としている。
「二人とも、なにやってんだ?」
「べ、別になにも……」
「僕は抱き締めたいからこうしてるだけだよ」
相変わらずシュルクは直球に言うので眩暈を覚えた。このままの体勢でフォックスと話すのは恥ずかしい。
「フォックスは子供達放っておいていいの?」
「ああ、そうだった」
私の問いかけにフォックスは我に返って玄関扉を開いて出て行った。扉が開いた時、冷風と共に白いものが地面を濡らしていくのが見えた。
「雪降ってるみたい」
「雪?見にいこうか」
「うん」
漸くシュルクが私を離してくれたので、一緒に外に出た。大きな粒の雪が空から降ってくる。パジャマ姿の子供達がはしゃいで雪を掴もうとしているところをフォックスが追いかけている。
シュルクの温かい手が私の手を捉えるのを感じた。最後の最後で今日の目標を達成した。先に色々としてしまったけど、次一緒に出かける時に手を繋げるきっかけにもなるから、それが何よりも嬉しかった。