reflet
僕の大好きな彼女には他に男がいる。実際にそれらしいところを見たり、彼女の口から聞いたわけではないけど、ただなんとなく分かるのだ。 時折そういうシグナルを彼女がわざと出しているのを感じることがある。
僕たちは恋人同士で、お互い愛し合っている。彼女の様子を見ればそれは分かる。なのに彼女は他の男に平気で抱かれている。僕にはそれが何故かは理解できないが、誰かの話によると女性というものは単に寂しさや、ちょっとした喧嘩の復讐のつもりでそういうコトをするらしい。例え彼女がそんな理由でそういうコトをしたとしても、僕には理解できない。寂しいなら寂しいと言って僕に甘えればいいし、復讐したいなら何か物でも投げつければいい。何故そういうコトで解決しようとするのかが分からない。
今夜も彼女は僕の知っている男の匂いをまとい、彼女や僕の髪の色とは違う髪の毛を数本服にくっつけて僕の部屋にやってきた。
いつものように今日あった出来事の話をしながらそういう雰囲気に持っていき、キスやスキンシップをすると彼女は嬉しそうに応えてくれた。しかし、薄暗がりの中で服を半分脱がしたところで彼女は僕の腕を掴んで制止させてきた。
「どうしたんだい?」
「今日はちょっとやだかも」
「具合悪いのかい?」
「んー気分が乗らないの」
「じゃあキスは?」
彼女は僕の目も見ずに頷いた。僕はそれを承諾の意と解して再び彼女を抱きしめ頬にキスをした。唇じゃないの? と聞くように彼女は暫くきょとんとすると、何故か彼女から僕の唇にキスをしてくれた。しかもかなり強めのキスで力強く抱擁してだ。いつの間にか彼女に馬乗りにされていた。
「ルフレ、好きぃ。大好き。愛してる」
「僕もだよ」
僕の胸に顔を埋めぎゅっと抱きつく姿はたまらなく可愛くて、愛おしくて、こんな彼女が他の男に抱かれているという事実を思い出すとどうしようもなく辛い。
暫く僕らは無言で抱き合った。
「ルフレ、私ね……」
彼女は急に何かを決心したように、恐る恐るといった調子で喋るので、何を言うつもりなのかと凄く不安になった。
「なんだい?」
「最近同じような夢を毎日見るの」
なんだ、夢の話か。僕は少し安心した。でも同じ夢を毎日なんておかしい。心配だ。
「毎日夢を?」
「そう、夢。私が白い卵の内側にいる夢」
「それはまたヘンテコな夢だね」
「卵の中は暗いはずなんだけど、何故か周り全部が真っ白の壁っていうのが分かるの」
「おまけに卵の中ということも分かっている。辻褄が合わないよ」
「うーん。でも夢ってそういうことよくあるでしょう? 分かるはずがないのに何故か分かるってこととか、できないはずのこともできちゃうとか。それでもって卵の中では何故か外の景色も少し見えるの」
「壁が全部真っ白いのにかい?」
「全部真っ白っていうのはちょっと違ったかも。でもすぅーと透けてあなたが、外にいるのが見えたの」
「へえ……僕は何をしていたの?」
「分からない。ただあなたがいるのが見えただけ。あなたは私の存在に気づいていなかった」
「そうか。それで君は僕を見ていたの?」
「うん。ずっとあなたを見ているだけ。いつもそんな感じの夢を見るの。毎回全く同じ夢なわけじゃないけど、今話したことは決まったパターンなの」
「そんなに毎日見られてたら流石の僕も気づくけどな」
彼女は笑った。僕に話したことで少し元気になったようだ。
「僕も君の夢が見たい。きっと夢の中でも君は可愛いんだろうな」
「またそういうこと言う」
褒めたのに何故か彼女は怒ったように言った。
「可愛いって言っちゃダメなのかい?」
「そういうわけじゃないけど、いいわ。もう寝ましょ。お休みなさい」
彼女は僕とは反対の方を向き、布団を被って黙ってしまった。僕は後ろから彼女を抱きしめ、頭に優しくキスをした。
「おやすみ」
彼女の身体が少し揺れた。
この後彼女は夢の話を二度と口にすることはなかった。僕は一生をかけて彼女を愛したが、彼女が僕一人だけを愛することはなかった。