cloud
夕暮れ時に縁側に寝っ転がって、ぼんやりと夕飯の声がかかるのを待っていると、内庭に男の人が落ちてきた。
またか、と思って上体を起こして縁側に腰掛け様子を伺うことにした。
男の人は唸りながらゆっくりと起き上がった。誰も手入れのしていない雑草だらけの庭だったから、雑草がクッションになって男の人は軽い打撲で済んだみたい。
彼が周りを見渡し、私の姿を捉えて止まった。彼の瞳は鮮やかな青色で、色素の薄い肌と髪によく映えている。私はハッと息を呑んで、彼の綺麗な瞳に見惚れてしまっていた。
「ここは?」
男の人は、警戒して背の大剣に手をかけながら聞いてきた。彼のように他の世界から"ここ"にやってくる者は皆最初はそうだった。私は彼の気持ちがよくわかるけど、今はその問いに答える余裕なんてなくただただ彼の瞳に目が釘付けだった。
「おい、聞いているのか?」
「ご、ごめんなさい。ぼーっとしちゃって。私はナマエ。あなたは?」
急いで前髪を直しながら、サンダルを履いて立ち上がった。彼が警戒するように一歩退いたのは当然の反応だけれど、少し傷ついた。
「俺はクラウド。一体ここはなんなんだ?」
背の高いすすきやら名も知らない雑草、それを囲む形状の建物を訝しげに見やって彼は言った。
「ここは──」
私が"ここ"の説明をし終えると、彼は混乱したように頭を抱えた。
「わけがわからない。俺は確か……思い出せない。まただ……」
彼は辛そうに顔を歪めた。また、というのが気になったけど、私はいつも通り新しいメンバーを迎える準備をすることにした。
*
それから月日は経ち数ヶ月後。
クラウドはすっかり今の環境に馴染んで闘技生活を楽しんでいるみたいだった。私もクラウドが来てからまた生活が楽しくなってきて仕方がなかった。
「ナマエ、最近また綺麗になりましたね」
お昼頃、ラウンジでピーチとゼルダの三人でお茶会をしていると、ゼルダが褒めてくれた。一方、ピーチは首を傾げた。
「また綺麗になったというか、戻った、かしら? あ、噂をすれば」
「ピーチ!」
クラウドと同じ金髪の彼がラウンジに入ってきた。彼は私達が見ているのに気づいて、居心地悪そうにして出て行ってしまった。
その反応で当時の辛さを思い出して、しばらくしてから席を立った。
久しぶりに中庭の見える縁側に座り、相変わらず伸びっぱなしの雑草を眺めた。背の高いすすきは僅かに中庭に入り込む風で静かになびき、白い穂を揺らしている。
「ここで見るのは二度目だ」
後ろからクラウドに声をかけられびっくりした。心臓が痛い程どきどきしてきた。
「何が二度目なの?」
平静を装いながら聞いてみると、クラウドはゆっくりと私の隣に座った。
「ナマエをここで見るのがだ」
「ああ、それね。クラウドが来るまではね、ずっとここが私の定位置だったの」
「初めて見た時、そんな感じはした」
「私、その時だらしない格好してたでしょ? 恥ずかしいな」
「それが本当のあんただと思っている」
「ええ! 本当に恥ずかしいから忘れて」
「あの時のあんたの方が自然体で良かった」
どういう意味、と聞くのが怖くて私は誤魔化すように別の話題を考えた。
「私、何年か前はね、ここにお花植えて毎日水あげて育ててたの」
「何故止めたんだ?」
「それは……ある人が落ちてきて……花が駄目になって……」
花が駄目になったのは本当だけれど、花を育てるのを止めた直接の原因ではなかった。なんとなく、自分ではそれをわかっていた。他に夢中になるものができて、それが花と同じように駄目になって、どうでもよくなったからだ。
「今日、あいつを見て騒いでいたな」
「それは……別に」
「あいつが好きなのか?」
「え! それはないよ。なんとも思ってないし」
一時期好きだったのは確かだし、たまに悲しい時を思い出すけど、クラウドが来てからはクラウドに夢中で、今は彼のことを恋愛感情的にはなんとも思っていないのは確かだ。クラウドに今日のこと見られてたなんてショック。
「それなら良かった」
「クラウド……?」
「あんたは俺がここに来てから献身的に世話をしてくれたな。おかげで挫けずに生きていけている」
「それは大袈裟だよ」
「いや、大袈裟なんかじゃない。俺は仲間に支えてもらわないと生きていけないような弱い人間なんだ。皆にクールとか言われるが本当は……」
「ど、どうしたの急に?」
「俺はナマエが思っているような人間じゃない」
「……私だって本当はクラウドが来るまでは毎日だらっとしてて、仲間からおじさん扱いされてたよ」
「ナマエ、俺はどんなナマエでも好きだ」
縁側についていた手をクラウドに上から掴まれ、じっと私の顔を覗き込むように見つめられた。 初めて見た時からその瞳に心を奪われていた。
「私もクラウドのことが好きだよ。クールじゃなくったって、人見知りしたって、あなたが好き」
私の大好きな瞳が近づいてきて、唇に湿った感触が走った。思わず指で唇をなぞると、クラウドに笑われた。
「そういえば花が駄目になったと言っていたが、花咲いていないか」
「どれのこと?」
「長くて白いやつ」
クラウドがすすきを指差して言うものだから、驚いた。あれが花だと思ったことは一度もなかったけど、言われてみれば確かにそうだ。
「綺麗だ。ずっとそう思っていた。初めて見た時から」
そう言うクラウドのあの瞳は、すすきとは違うものを映していた。