fanatic
11人分用意された座席で円卓を囲み首には金属の輪、お腹は椅子に固定された状態で命懸けの人狼ゲームが始まった。簡単なルール説明の後、右隣で淡々とゲームの進行役をする前島をちらちら見ながらびくびくしていた。1日目で占い師3CO盤面になり、普通なら少なくとも狂人が占い師にいるはず。ただ、私目線は占い師に人狼が2人も見えていた。だから、狂人が占い師に出ていない可能性がかなり高い。前島が狂人であることを願うしかない。そして1日目の最後の発言で前島は霊能者か騎士を匂わせる発言を残した。もし前島が真だとしても、私は迷わず前島が生きる道を選ぶ。だって私は前島に生かされた身でもあるし、私は前島のことを慕っている。
1日目の昼のターンでは人狼が人狼を吊りに行く、リア狂地味た行動にさらに心が揺さぶられていた。人狼は相方を切ろうとしていた。これは果たして強いムーブなのだろうか。そして投票結果により桐生が処刑された。これで10人中4人が人外という人狼陣営有利だったのが俄然不利になった。人狼は何をしているの。不安を抱えたまま、夜のターンが来た。部屋が暗くなり、円卓の引き出し部分にあたる腹部のモニターが光る。
前島はきっと狂人。いや、絶対狂人。桃山に託して、私達は勝つしかない。前島と私は生き残るんだ。モニター操作を終えた後、震える手をこっそり右隣に座る前島の方へ伸ばした。その手を前島に静かに振り払われた。拒絶。
─そうよね。私達、そんな仲じゃないものね。
夜のターンが終わり、緊張で痛む心臓を抑えながら回転する円卓が止まるのをびくびくしながら待った。結果斉藤が襲撃され、死んだ。前島も私も死ななかった。まだたった1日生き残っただけで安心した。そして2日目の昼のターンを迎えた。ラストウルフに私の役職をどう伝えようか悩みながら、議論に耳を傾けた。議論の最中、前島が霊能者をカミングアウトした瞬間、狂人だと思った。多分今日死んだ斉藤が霊能者で前島が乗っとったんだ。前島が出した桐生の黒は当たってるけど、多分黒ストップの為の嘘。そう思っていたら桃山がくさい演技で前島に黒を打った。心臓が止まりかける。
──なんで?なんで?そんなことしたら前島が死んじゃう!
議論は加熱していき、ついには前島は桐生の相方として亮也をあげる。亮也も前島も人狼じゃない。亮也を吊りたいという前島の理由に妥当性はほぼない。このままだと前島が怪しまれる。
「も、桃山さんは嘘付いてます」
我慢できずに口に出してしまった。頭の良い前島なら、桃山の黒を跳ね除けられたかもしれないのに、口を出さずにはいられなかった。
「どういうことだ?」
前島が眼鏡越しでも隠しきれない鋭い眼光を私に向ける。その瞳は私への疑いに満ちているように感じた。
「だ、だって……私が本当の占い師だからです……」
「え?どういうこと?」
「はあ?」
牧村や亮也が疑問の声を上げる。
「占い師が4人……つまり桃山が狂人か狂信者、ミョウジが真・狂・狂信のどれかか……」
前島が冷静に分析する。流石は探偵。他の人達が混乱する中破綻なくまとめられている。
「なるほど、わたし目線すっきりしました。前島さんが人狼だから相方のミョウジさんが前島さんを守りに来たんです」
桃山は淡々と説明する。まずい。桃山の言っていることは村目線そう見えるかもしれない。
「ち、違う!確かに前島さんを助けに出たのは合ってるわ。だって、私目線、桃山さんの偽が透けてるから、偽の桃山さんが黒を打つのは確実に村人側にだけよ!」
「うーん。ナマエの言うことも一理あるように聞こえる」
「あれ?ミョウジさんのこと呼び捨て?」
「あ」
亮也のひとり言に馬鹿の牧村が聞き逃さず、小首を傾げて疑問を呈した。
──亮也の馬鹿!なんで言っちゃうの!
「さっき、前島と俺が知り合いだっていったろ?実はナマエもそうだったんだ」
「え!ミョウジさんが……」
皆が皆恐ろしいものを見るような目で私を見た。その中でも山井さんは怯えている。そうよね。だって未成年者を誘拐して更正と題して痛めつけてた仲間だもんね。
「もしかして2人って恋人同士?」
牧村が余計なことを言う。前島の前でそんなこと聞いて欲しくなかった。
「はぁ!ちげぇし!」
「違うわよ!」
間髪入れずに否定したものの、亮也と声が被る。嘘っぽく聞こえちゃったかもしれない。
「それよりミョウジの占い先を教えろ」
前島は苛立ったような荒い語調で聞いてきた。亮也みたいに私も仲間なのに、好きな人から吊り位置に指定されることが怖くなった。
「じ、人狼を見つけたわ!」
占い先を考えていなく、さらに前島以外に票を集めたくて咄嗟に言ってしまった。誰に黒を打つのか一瞬で考えないといけないけど、さっき山井が私を怯えた顔で見ていたのを思い出して閃いた。
「山井さんが黒よ……」
「ひっ……」
山井から悲鳴が上がる。これで桃山に私が偽物であることを伝えられた。ただし、PP場面にならない限り、桃山と私は一緒に死ぬか、私だけが死ぬことになるだろう。
「4人目の占い師で黒打ちか……潜伏した理由は?」
「……昨日出なかったのは人外が3人も出てて、占い師ローラーに入ったからよ。皆人外だったから私は出ずに潜伏したの。昨日は寡黙だったから噛まれ位置でもなかったし。それで昨日寡黙だった山井さんを占ったら黒だった。だから今日は山井さんを吊って。そうすればこのゲームは終わるわ」
そう。前島が狂人なら、今日村陣営1人を吊れば明日から私と桃山、前島のパワープレイで勝てる。だから狂人の前島に黒を打った桃山には今日勝つ気で山井に投票して欲しい。
そこまで考えてはっとした。狂人と狂信者は村人でカウントされる。つまり、人狼が2人の時しか両方生き残れず、人狼が一人の時、どちらかは死ぬ。嘘よ。桐生が死んだ今、前島が狂人でも一緒に生き残れないじゃない。胸のあたりがきゅうっと痛む。
「待て……いや、まさか……」
前島が話し始める。その眉間にはしわが寄せられ前島も混乱しているように見える。
「山井は織田に白をもらっている。パンダ状態だから、万一村だった場合はまずい。俺は山井を吊りたくない」
前島の言葉に絶望した。山井の役匂わせを遮ったから前島にとって山井が真霊能であると思ってた。ただ、今の前島の口ぶりと、山井に役職を言うなアピールで最悪の結論に至った。前島が真霊能で、山井が狩人だ。だから、この先のことを見越して、前島は山井を守ろうとした。村にとって、狼を一匹見つけた霊能より、いや、何よりも狼から村人を守る狩人が大事だから。そうか。最初から前島は村の為に頑張っていたんだ。そして私はその前島とは違う陣営……。前島が狂人にしろ、2人で生き残れなかったからそれはそれでいいかもしれない。自分がどうなっても前島には生きていて欲しい。今日山井を吊っても前島は絶対噛まれない。桃山に黒を打たれているから。そして明日桃山を吊れば前島は生き残れる。
「わかったわ。私は山井さんに投票するわ。皆私の真を追わなくてもいい。だけど山井さんは絶対に人狼なの。織田さんに白を貰った時の反応おかしかったでしょ?不思議そうにしていなかった?それに桃山さんに至っては役を占ったのよ?そんなことあり得る?役占いなんて真の占い師なら絶対にしないんだから!それと最後にこれだけは言わせて。前島さんが真霊能、桃山さんは狂か狂信よ……」
頭を整理しながらなんとかここまで説明できた。言い切った後に織田の偽要素を言うのを忘れていたことに気づいた。でも織田が村に信用されれば前島は勝てる。織田が真の占い師なんだから。牧村や亮也は私が真にも見える、と言うのが聞こえてきて安心した。あの2人はふらふらしてるけど、山井に投票してくれそう。
こうして村民会議は終わり、いざ投票時間を迎えた。結果、私以外誰も山井に投票してくれなかった。私は人狼ゲームにおいて最も重要なことを見落としていた。投票先を合わせること。私を真に見て、牧村は山井じゃなくて桃山に入れた。
──もし、前島が桃山じゃなくて山井に入れてくれていたら……亮也と前島だって私を信じて山井に入れてくれていたら……なんで仲間同士入れあったの?それに前島目線亮也なんか吊れる位置じゃなかったじゃん。前島の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!なんでそこまで考えなかったの!票を合わせろって皆に言ってくれれば死なずにすんだのに……!
「それではまとめます!前島康隆さん、3票。羽賀亮也さん、1票。桃山日菜々さん、2票。山井小百合さん、1票。清水灰司さん、1票です!はい!投票の結果、前島康隆さんの処刑が決定しましたー!では、これより処刑を開始します!」
セイギノミカタのアナウンスが部屋に響く。前島は今から死ぬ。
椅子と円卓が回転する。電気椅子の前に前島の席が来たとこで回転がぴたりと止まる。
「ふん、貴様らごときが俺を殺すか……面白い」
今から処刑されると言うのに前島は腕を組み暴れる様子もない。大好きな人が、ずっと想い続けた人が今から目の前で死ぬ。
「前島……」
涙が溢れ視界がぼやける。前島の方へ手を伸ばすのと同時に、前島の座る椅子が電気椅子の方へとゆっくり吸い込まれていく。届かなかった。
「ミョウジが真占い。山井が人狼だ。馬鹿どもめ」
さっきと言ってることが違う。昨日のターンで前島が桐生に指摘したこと全てが前島にブーメランだった。前島らしくない台詞に違和感を覚える。
前島の座る椅子は金網の中で止まり、多量の水が前島の頭上から降り、ずぶ濡れになる。その衝撃で、彼の眼鏡が床に落ちた。いつも私が眼鏡を取った方が良いと言っていたのに彼は頑なに取らなかった。それが今は水圧で吹っ飛ばされ、私が切れ切れと言っていた長髪は水に濡れ服にまとわりついている。前島は全員を睨んでいるようにも見えるけど、私を見つめているようにも感じた。
──死んじゃやだ。死なないで。お願い。私まだあなたとセックスしてないのよ。何の為に私が未成年の時犯した罪を、あなたによって裁かれたの?同級生の女を男を使って襲わせて、その罪の更正として無理やりしてきた亮也の粗チン受け入れたのよ。反省したから、更正したから仲間にしてくれて、さらに私が言うことちゃんと聞いてたらちょっと優してくれてたじゃん。期待させておいてこんなにあっけなくいなくなっちゃうの?それに手を振り払っておきながら最後の最後に私が真だと言って死ぬなんて。なにそれ私が真だと思ったの?それとも私が偽だとわかって言ったの?どっちなの?最後にそれくらい聞きたかった。聞きたかったわ。ああ、前島……前島……前島が死んじゃった……。
電流が流れている間、その光景を直視することは出来なかった。席に帰ってくる彼の姿を見ることも出来なかった。長い髪からたまに香るシャンプーの匂いは焦げ臭い匂いに取って代わっていた。少しだけ視界に入る彼の焼き爛れた皮膚。触ったら崩れてしまうだろうか。今だったら振り払われはしない。あの時みたいに涙が溢れ出てきた。
私は前島のことが大好きだった。前島のことが好きで好きで仕方なくて何度もそれとなくアタックしては拒否されたりはぐらかされたりした。
そっと私の左手を亮也が上から覆うのを感じた。私はそれを振り払った。
夜のターン、微かに笑い声が聞こえてきた。絶対人狼の声だ。あの悪魔。そして昼のターンで私が黒だしした山井が襲撃されたことを知り絶望した。人狼が自殺なんてあり得ない。すなわち……。
「ミョウジさん、破綻してます……今日はミョウジさんに入れます」
笑いを抑えるかのような震える声で仲間のはずの人狼が言う。
──ねえ、私狂人生きてるの知ってるのよ。あなただって、1日目で相方殺してるからわかってるでしょ?PP宣言しないのおかしいでしょ。
狂ってる。この人狼は狂ってる。
人狼は頭がおかしいし、私の愛する人が死んで戦意は喪失した。もうどうでもよくなってしまった。人狼が狂信者を捨てて狂人と一緒に勝ちたいっていうなら好きにすればいい。前島のいない世界なんて私はいらないから。