anita ep2


 
金融会社の社長暗殺の為、アニータという実在する人物に変装する必要があった。アニータが普段着ているような白スーツとハイヒールを買いに行くことにしたけれど、リーダーの命令で非番組の中からメローネを面倒見係として連れて行けと言われた。他にもイルーゾォ、ギアッチョとかが非番でいたけど、不思議なことにこの中ならメローネが一番頼れるという事実に驚いた。イルーゾォ以上の変態クソ野郎だけど、今のところ私には興味がないようだからイルーゾォよりずっとマシだった。
メローネと着いた先はネアポリスで有名な仕立て屋さんで既製品も幅広く取り扱っているお店だ。
メローネは気を利かせてくれて、お店の人にはアニータの顔を隠した写真を見せて、既製品の中から似たスーツで、仕立て直しがあれば今日中に持ち帰れるものを頼んだ。それに加えて赤色のエナメルヒールも持ってこいと言う。
自分だとここまではっきり指定できないから買い物が簡単に済みそうで安心した。メローネがいてくれてよかった。
店員さんは写真を見ると、最初は驚いた顔をして、それから私の服装を上から下まで見た後に微笑んだ。なんとなくその微笑みが何を意味するかはわかった。私がラフで色気のない服装なのに、こんなスーツを着るのがおかしいんだと思う。私もそう思う。
店員さんはすぐに白色の上下のスーツと赤いヒールを持ってきてくれた。

「スーツと靴をお持ちしました。試着されますよね?このスーツと合わせる用のシャツはどうです?」

「え、えーと……」

「いや、結構だ」

メローネが代わりに対応してくれて、試着室に通された。試着室は長い廊下にあって、個室が片側に沢山あった。向かい側の壁沿いには椅子が置いてあり、連れが座れるようになっている。個室に入り、メローネには向かいの椅子で待ってもらうことにした。店員さんは試着室のある廊下からはいなくなってしまったけど、少し離れた個室には他の客もいる。
個室内で服を脱ぎ、タイトスカートを穿き、タンクトップの上に白のジャケットを羽織った。靴はレースアップシューズから赤のハイヒールに履き替えた。写真と違い、胸元が隠れているけど、当日もこのつもりだからいいかな。ただ、化粧はもっと派手にしないとこのスーツは似合わない。スーツの後は化粧品を買いに行かなくちゃあいけない。面倒だ。

「メローネ、これでいいっスか?」

個室のカーテンを開き、メローネに見てもらった。メローネは私の前まで来ると、呆れたような顔をした。

「おいおい。おまえはアニータの写真を見たのか?そのタンクトップと下につけているブラジャーは脱いでジャケットを着ろ」

メローネは珍しく気を遣って声を潜めて言うけれど、その内容は酷いものだった。

「無理っス!何考えてるんスか!?」

「オレにはリゾットから、ナマエが完璧にアニータになれるように助けてやれと言われている」

「それは承知してるっスよ」

「だからあのセクシーなアニータになれるように、オレは命令しているんだ。タンクトップと下着を脱いだ状態で着るまでスーツは買えんぞ」

「そんなあ」

「仕事をナメてるのか?もしおまえがそのタンクトップをスーツの下に着てターゲットに会ってみろ。色気の無さにおまえがアニータではないと気付かれるぞ」

「う……」

確かにメローネの言う通りだった。仕方なくカーテンを引き、タンクトップを脱いでブラを取り、荷物籠に投げた。それから素肌の上にジャケットを着た。
鏡を見ると、開いたジャケットから、胸の形が上下に半円を描いているところが丸見えだ。恥ずかしい……仲間にこんなの見られたくない。

「おい、どうだ?早く見せろ」

カーテンのすぐ外で、メローネの声が聞こえる。

「い、嫌っス」

「仕方あるまい」

メローネはカーテンをガバッと開いて勝手に中に入ってきた。

「ヒィ!」

慌ててジャケットの襟の前をかき合わせて、胸元を隠した。

「なんだ?任務を放棄する気なのか?」

「任務を持ち出すのは酷いっス!あ、ちょっと!」

メローネは勝手に荷物籠にある丸めたタンクトップを手に取り、中を広げた。隠していたブラを見られ、慌てて取り返そうとすれば、手の届かないところへ手を伸ばされた。

「個室の外から見えるじゃあないっスか!」

「意外だった。まさか白いスーツを着ると言うのに上下黒で揃えてくるとは。ディ・モールト、いい!」

「ど、どうして……」

「なんだ?わざとじゃないのか?ずっと透けているぞ」

メローネが指差した自分の下半身をバッと確認すれば、薄らと黒色が透けていた。

「へ、へへへへへ変態!」

思いっきりメローネを平手打ちしてやった。

「おお!いい!いいぞォ!なかなかアニータらしくなったじゃあないか!」

気づけば胸元を隠すのを忘れていて、胸が丸出しになっていた。メローネは興奮したように舌舐めずりをしていて、あのセクハラ変態イルーゾォを思い出してゾッとした。ただ、今回ばかりは恐怖より恥ずかしさが上回っていて、自分でも顔が赤くなっているのがわかる程顔が熱い。

「ああ。おまえを受胎させたくなってきた。ナマエは自分の血液型はわかるか?わからないなら、指を舐めさせろ」

「ヒィィィ!」

私のタンクトップとブラを片手に近づいてくるメローネが怖すぎて後退れば、後ろの鏡に背とお尻が当たる。こんな狭いところだと逃げ場がなかった。

「ま、まさか仲間にスタンド能力使う気じゃあないっスよね!?」

「一応リーダーからは止められているが、念のためにデータだけ取っておこう。ああ、手首が細く女性らしいな。手も思ったより小さい」

手を無理やり掴まれ、メローネの顔の方まで運ばれていく。イルーゾォよりも変態すぎて、どう対応していいかわからなくて必死に手を引いた。
今護身用のナイフは上着のポケットの中だけど、そもそもこいつにはナイフでの脅しは通じないッ!

「リ、リーダーにチクるっスよ」

「好きにしろ。どれ」

ついに私の指先から手の平へとメローネの長い舌が這った。ねっとりと生温かく濡れた感覚が気持ち悪くて、メローネが手を離した瞬間に迷わず未購入のタイトスカートでゴシゴシと拭いた。

「し、死ぬっス。私、今日で死ぬっス……気持ち悪死するっス……」

「なるほど……血液型は覚えておこう。生年月日は把握しているからあとは好みだな。『ベイビィ・フェイス』!少し待ってくれ……数百年前のジャッポーネには性行為の体位を48種類も描いたものがあるようだ。おまえはこの中ならどれが好みだ?」

「ヒェェェェ!」

メローネに『ベイビィ・フェイス』のパソコン画面を見せられ、その内容にどん引いた。画面にはそれぞれ体のラインで男女が判別できる簡易なマネキンのような絵が描いてあり、アクロバティックに互いの性器を交じり合わせている。

「もう無理っス!帰るっス!このまま帰るっス!」

あまりの気持ち悪さに目尻には涙が浮かび、外へ出ようとするとメローネに手で口を塞がれた。

「しーッ」

メローネは唇に人差し指を持っていき、静かにしろと合図する。それから小さな声で落ち着けと諭されたので、恐怖でびくびくしながら頷けば手を離してくれた。

「おまえにはまだ能力を使う予定は無いからそう騒ぎ立てるな。好きな体位は後日誰かとセックスした後でいいから教えてくれ。正直おまえからは処女の匂いがするが、ギャング歴が長いならそれなりの経験があるだろうから簡単だろう。もし相手がいないのなら、オレが48種類の体位を試してやろう。1種類につき、5分挿入して反応を見てやる。まあ、とりあえずはこのスーツで良さそうだな。袖は少し長い気もするが、腕まくりして細い手首を強調するのも良い。オレは出ていくから私服に着替えろ」

メローネは到底受け入れられない酷い内容の言葉を言い残すと、カーテンの外へ出て行った。

「おっと、これを忘れていた」

カーテンの隙間から、メローネがずっと握りしめていたタンクトップとブラを放り込まれた。床に落ちたそれらを震える手で拾い上げ、急いで私服に着替えた。
ショックで話す気にもなれなくて、よろよろと個室を出て、メローネにスーツとハイヒールを押しつけて会計してもらった。
服屋を出るとメローネは化粧品を買いに行くぞというけれど、今日はもうそんな気分じゃなかった。早く兄貴に会って、癒されたい。兄貴は仕事終わりに一度アジトに来るはずだから、それをアジトで待とうと思う。あと、リーダーに今日のことをチクる。



*



無言で買い物袋を片手にメローネとアジトに戻った。

「帰ったっスー!」

真っ先に居室に駆け込み兄貴が帰ってないから探すと、兄貴はまだいなかった。入口に買い物袋を置き、ソファに座るリーダーに報告の為に近づいた。

「リーダー、大変だったっスー」

ぼすんとリーダーの近くのソファに座り、体を捻って、肘掛けに両手を置いて身を乗り出すようにリーダーに顔を向けた。

「目的の物は買えたのか?」

「スーツもヒールも買えたんスけど、メローネが私にスタンド能力使おうとしたんスよ!おまけに指まで舐められて、えっちな画像見せられたんス!」

「おい、メローネ。どういうつもりだ?」

リーダーは渋い声を低く響かせ、私の隣に座ろうとするメローネに聞く。
メローネはソファに腰を落ち着けると、いつものごとくなんともない顔をしている。リーダーがいくら怒ってもメローネには通じない気がしてきた。

「ナマエのアニータ姿を見れば、リーダーも受胎させたくなるはずだ。あの胸のラインは素晴ら……」

「ヒィッ!」

元々リーダーの方へ身を乗り出していたけど、メローネから離れたくて、肘掛部分に座った。向かい側にはギアッチョとイルーゾォが座っている。

「メローネェ、ナマエに嫌われてんじゃあねェかよォ〜」

「おいおいおい。本当にアニータまんまの格好すんのかよ。なあ、ナマエ。おれにもアニータ姿を見せろよ」

ギアッチョはメローネに絡み、イルーゾォは私の方へチェリー味の飴玉のような瞳を妖しく光らせて言う。イルーゾォ、もぅまぢムリ。

「イルーゾォは黙れ!リーダー、メローネとイルーゾォに変態行為を止めるように言ってくれっス」

「おい、おれもいれるな」

「メローネ、イルーゾォ。ナマエにスタンド攻撃、及び言葉、接触による不快な行為をやめろ」

「了解だ」

「おれは元からしていないが、了解」

メローネは気のない返事をし、イルーゾォは反抗的だ。どう考えても、絶対こいつらまた繰り返すッ!絶対にッ!
場が一先ず丸く収まったところへ兄貴とペッシが帰ってきた。

「兄貴ぃ!」

出入口からこちらへ来る兄貴に走りよった。

「ナマエか。スーツは買えたのか?」

「はいっス!化粧品は後日買うつもりっス」

「今日は顔色が悪いんじゃあねーか?何かあったのか?」

「それがメローネと一緒に服を買いに行ったら試着室で指舐められた上に変態画像見せられたんス……」

「試着室でか……?」

「そうっス。勝手にカーテンの中入ってきたんスよ!」

「……メローネ、今のは本当か?」

兄貴はソファで涼しい顔でパソコンを弄るメローネに視線を向けた。兄貴、言ってやってっスという気持ちで見守った。

「さあ、あまり覚えていないな。しかし、プロシュートもナマエを受胎させてみたいとは思わないか?キレた時の凶暴性を見るに、凶悪な息子(ジュニア)が生まれそうだ。早く好みの体位を教えて欲しいものだ。今、オレが48種類試してやってもいい。そうだな……1種類1分の挿入でも好みがわかるような気がしてきたぞ。試着室での激しい反応を見ると、セックスの時も……」

「ヒェェェッ」

ジャッポーネの変態画像を思い出して鳥肌が立った。体を掻き抱くようにして竦み上がると、兄貴がメローネから私が見えないように前に出てくれた。

「メローネ!てめー、いい加減──」

「おい、メローネ。オレの命令を忘れたか?」

兄貴の言葉を遮って、リーダーがメローネに注意してくれた。

「今のは不快な言動なのか……わかった。控えよう」

知ってはいたけど、メローネには自覚がなかったようで神妙な面持ちで頷いた。でも、どうせまた繰り返すのは知ってるから期待はできない。
兄貴は舌打ちをすると、私に向き直った。

「任務のついでにナマエの敬語学習の為にバイトを探してきた。組織の運営するカフェだから問題なく働けるだろう」

「カフェの店員っスか?」

突然の話でびっくりした。けど、普通の仕事というものを一度はしてみたかった。しかも、カフェの店員なんて華やかそう。俄然興味が湧いてきた。

「ああ。店長はオレと知り合いだから安心しろ。明日から5日間、夜の数時間のみだ。行けるか?リゾットには既に確認をとっている」

「勿論っス!ありがとっス!明日から楽しみっス!」

「楽しみだと?本来の目的は敬語学習の為だぜ?目的を忘れんなよ。時間と場所は後でパソコンのメールに送る」

「はい!」

兄貴がいるのと、兄貴から良い話を貰えたお陰で最低だった気分が大分良くなった。
メローネをリーダー側の端席に追いやり、兄貴と並んで座った。兄貴が壁になって、メローネから隠れられるので、次からこの座り順だと嬉しい。

「ナマエがカフェの店員かよ。想像できねぇな。なあ、時給はいくらなんだ?」

イルーゾォが向かいの席で、下世話なことを聞いてきたけど、確かに気になる話ではある。

「そういえば、お金は出るんスか?」

隣に座る兄貴に聞いてみた。

「人手がちょうど足りないこともあり、それなりに出るらしい。時給1500リラだ」

「やっすいなオイッ!」

ギアッチョは私のことなのに何故か相変わらずのキレ気味声で言う。確かに思わずツッコミたくなるほどの安さだけど、仕方ない。数日間しかいないのだから、研修費と考えると高いお金は払えないのだと思う。

「安いっスけど、頑張って敬語覚えながら働くっス」

「ああ。目的を忘れるなよ」

「カフェ店員か……制服はどんなだ?スカートは短いのか?」

「メローネ、やめろ」

「てめーいい加減にしろ」

メローネの食い気味な質問に、リーダーと兄貴が注意してくれた。リーダーは怖いけど頼りになるし、兄貴はなんだかんだいって私に優しくて気にかけてくれるから好きだ。

「なるほど。今の言動も不快になるのか……」

メローネの自覚の無さは、絶望的なまでに酷い。メローネはイルーゾォより、もぅまぢ無理。


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