illuso
リーダーに命じられて、給湯室でペッシ以外の分のコーヒーを作っていると、気配を感じて振り向いた。また、イルーゾォだ。こうやって私がひとりの時を狙ってくるからたちが悪い。犯罪者の手法そのものだ。
「女だからと作らされて、差別だと怒らないのか?」
「誰だって野郎の作ったものより、女の作ったものの方がいいっスよ。出て行くっス」
「まあ、そう言うな」
イルーゾォを無視して、彼らの好みに合わせてミルクや砂糖の量を調節したり、ホルマジオの分にはウィスキーを追加していると、真後ろにイルーゾォの気配を感じた。それから、お尻の上の方に硬いものが当たる感覚がする。それが何かは経験がなくてもなんとなく知っていたから、背筋がゾゾッと凍って、上着のポケットからフォールディングナイフを取り出して、刀身を出しながら振り返って刃先をイルーゾォに向けた。
「ブッ殺されたくなかったら、出て行け変態クソ野郎!私は兄貴以外に抱かれる予定ないから!」
「その兄貴とやらは、おまえに興味が無いようだが」
「うっさい!出て行け!クソザコ能力のイルーゾォ!」
本当は最強能力だと思ってるけど、ムカついたからイルーゾォの高過ぎるプライドを傷つける為に嫌がりそうなことを言ってみた。
「チッ。こっちだって、おまえみたいに口の悪いヤツはお断りだぜ!だが、今おれに抱かれねぇと一生処女のままだからな!おまえみたいな奴は!」
訳の分からない理論でイルーゾォは私を罵倒すると、踵を返して出ていった。
「てめぇの分のコーヒーに唾入れてやんかんなー!」
イルーゾォに聞こえるように叫んでやった。
ふっと湧いて出てきた脅し文句だっけれど、本当にいれてやろうと、イルーゾォの分のコーヒーだけにぺっと唾を吐いてやった。
それから、トレーに全員分のコーヒーを乗せて中央のローテーブルに置いた。
「コーヒーできたっスよー。ペッシは自分で用意して」
ペッシは情けない声を上げると、ぶつぶつ何か言いながら部屋を出た。
ソファに座るメンバーの前にコーヒーを置いていき、最後にイルーゾォの前に唾入りコーヒーを渡してやった。
私は自分の分のコーヒーを手に取り、ペッシの座っていた、兄貴の隣の席に座った。
「兄貴、私の淹れたコーヒー、どうっスか?」
「悪くねえ」
「よかったっス」
兄貴の返答に満足して、ちらりとイルーゾォの方を見れば、私と目を合わせて意地悪く笑うと、コーヒーを一口飲み、舌舐めずりをした。
「なんだかイヤらしい味がするな」
イルーゾォのその一言にサーッと血の気が引く。あまりの気持ち悪さに吐き気までしてきた。おうええェ。
「気でも触れたか?」
ホルマジオだけがイルーゾォの言葉を拾って引き気味に言った。
「兄貴ぃ、怖いっスよぉ」
小さな声で呟いて、兄貴の体にピタリと体を寄せれば、近づくなと怒られた。
──兄貴は知らないんだろうけど、可愛い可愛い兄貴の妹分がイルーゾォからセクハラを受けてるんスよ。
そんなことはわざわざ言う程のことでもないから言わないけど、そのうちブチギレてイルーゾォに何をするかわからないかもしれない。
恐る恐るまたイルーゾォを見れば、舌舐めずりをしながらこちらを見ていた。おうええええェ。