risotto side
雨の日の午後1時。アジトに用があり中に入ると、薄暗い居室の3人掛けソファにナマエが寝ていた。タンクトップにショートパンツという露出の激しい格好で自分の腕を枕にして猫のように丸まっている。いつも羽織っている黒のパーカーが床に落ちているのを見るに、腹にでも掛けていたのだろう。
床に落ちたパーカーを拾い上げてナマエに掛けようとしたところ、タンクトップの胸元が緩み、くっきりとした線が小指1本分程露出していることに気づいた。
胸元の露出を嫌がるナマエはタンクトップも胸元がきついものを着ていたが、横になると緩んで幾らか見えるようだ。普段隠していた分それが露わになると、こうも扇情的に見えるものなのか。
胸元と脚、どちらを隠せばいいか考えた結果、胸元を隠すようにナマエにパーカーを掛けた。
「そんな格好をしていると襲われるぞ」
「んー……むにゃむにゃ……」
「むにゃむにゃ……?」
「リィー、ラァー……」
リーダーと言われた気がして、ナマエの顔を確認するが起きた気配は無い。それどこか、口元を緩めて笑っている。
「何の夢を見ているんだ?」
ナマエの座るソファの肘掛け部分に座り、ナマエの髪をかき分けて表情がよく見えるようにした。
眉も唇も緩やかな線を描き、穏やかな表情だ。オレの何の夢を見ているのだろうか。
普段こいつはオレに寄ってくる癖にオレを怖がることが多いが、その表情なら怖がっていない夢であろう。それがわかっただけで十分か。
「こんのド変態野郎ォ!」
突然ナマエが叫びだした。完全に油断していた。咄嗟にソファの肘掛けから立ち上がり、ナマエと距離をとった。一体何の夢を見ていたんだろうか。
「あれ……?リーダー……?」
ナマエは起き上がり、眼を擦りながらオレを見上げる。
「うわっ。腕痺れた……!」
ナマエは両腕をバタバタさせて振る。白い二の腕の柔らかそうな肉が揺れ、先程の胸元の映像が脳裏を過ぎる。男のサガなのだろうが、嫌気がさして腕を振るのを止めるまで目を逸らした。
「何の夢を見ていた?」
「えっと、確かイルーゾォとメローネが四つん這いで追いかけてきて、死にそうなところをリーダーが助けてくれて一緒にお茶してたんス……そしたら、リーダーが徐に私の……」
ナマエは顔を俯かせた。
オレは近くのソファに座り、ナマエの表情をみようとすれば隠すように胸元で両手をクロスさせて、顔を逸らされた。
「オレがなんだ?」
「べ、別に……」
「ド変態野郎と叫んでいたな」
ナマエは肩をびくりと震わせた。まさか、オレに叫んだのか。
「私、そんなこと叫んでたんスか?」
漸くナマエがこちらを向いた。驚きの表情だ。
「ああ」
「えっと、覚えてないっス」
嘘っぽい表情だ。
「覚えてるんだな?オレにそう叫んだのか?」
「さ、さあ?」
嘘っぽい表情から、オレに叫んだことがわかった。
夢の中でオレはナマエに何をしたのだろうか。気になるが、聞きたくない気持ちもある。
「はあ……お腹空いちゃったからご飯食べてくるっス」
ナマエは誤魔化すように両腕を上げて背伸びをして、白い滑らかな脇を惜しげもなく見せる。イルーゾォやメローネの前では絶対しないであろう行為をオレの前ではするところ、実際オレのことを変態とは思っていないだろうと推測できる。だが、逆にいえばオレのことを意識していないということだ。それはそれで腹が立つ。そして、この腹立たしい感情が何であるかオレは知っている。オレが感情を明確に表に出すことがない以上、ナマエは一生それに気づかないのだろうな。例え明確に出しても気づかなそうだが。
「雨降ってるぞ」
締め切ったカーテンで雨に気づいていないようだから教えてやった。
「げっ。いつの間に!ずっと置いといた傘誰かに持っていかれちゃったんスよね。どうしよー」
「オレのがある」
「すぐ戻るから借りてもいいっスか?」
「一緒に行く」
「え!だって、リーダーおっきいから私はみだしちゃうっスよ?」
「おまえが濡れないようにしてやるから安心しろ」
「リーダーが濡れちゃうっス」
「オレが濡れる分には構わん。行くぞ」
「私が構うんスけど……まあ、行くっス」
本当は用があったが、後回しでも構わない。今日のオレの予定はナマエの意識が少しでもオレに向くようにすることに変わった。任務より難しいことだが、オレはそれを前向きに捉えていて、その為にあれこれ考えるのも悪くはないと思っている。