werewolf game


  

某日午後10時。リーダー、兄貴、イルーゾォと私の4人でターゲット達のお屋敷に忍び込み、ターゲット達が車で帰宅するまで待つことになった。暇過ぎて、氷でキンキンに冷えたオレンジジュースのグラスを片手にお屋敷を物色していると、イルーゾォが面白いものを見つけたと、皆をリビングルームに呼び集めた。

「ワンナイト人狼?何スかそれ?」

イルーゾォが見つけたのは人狼ゲームというカードでパーティゲームだ。イルーゾォはソファに座り、目の前のローテーブルにカードを広げた。狼の絵や、貧相な格好をした男性の絵などが描かれている。

「人狼ゲームは知ってるか?」

「何度かやったことあるっス。でも、いつも6人以上でやってたからワンナイトは知らないっスよ。基本ルールは誰が狼のカードを引いたか当てるゲームっスよね?」

「その通りだ。4人でゲームの進行役がいないから"市民"3人、"人狼"1人の配役だな」

「おい、待て。オレらは参加しねぇぞ。なあ、リゾット?」

兄貴はリーダーに話しかける。私はせっかくだから皆でやりたいな。

「兄貴もリーダーもやろうっスよー」

「市民だの配役だのオレはしらねェぞ」

「それはおれが説明してやるから、まあ座れよ」

兄貴がイルーゾォの向かいに座るので、私は兄貴の隣に腰掛けてローテーブルにグラスを置いた。

「リーダーもー!」

私が再度声を掛けると、リーダーもイルーゾォの隣──私の向かいに座ってくれた。

「イルーゾォ、ルールを説明をしろ」

「おう。基本ルールは市民陣営3人、人狼陣営1人の配役で4人の話し合いによって人狼だと思う奴に投票して処刑する。市民とは何の能力も持たず、人狼が誰かを知らないが、自陣営の為に人狼を見つけて処刑することが求められる。人狼は人狼が全滅した瞬間に負けが決まるから自分以外が処刑できればなんでもいい。1回の話し合いは──そうだな。あの時計で5分後、各自人狼だと思う奴に同時に投票をする。最多票を集めた奴が処刑される」

「それで市民が処刑されたら、どうなるんだ?」

兄貴が最もな質問をした。もうゲームの全容を掴んでいるようだ。

「ワンナイトだからな。通常はゲームが続くが、このルールでは市民が処刑された時点で人狼陣営の勝ちだ。逆に人狼が処刑されれば市民陣営の勝ちだ」

「偶数だが、票が同数になったら?」

「ゲームの進行役がいない以上、投票が入らなかった奴が投票の入った奴のどちらかを決めて処刑するしかないな。それが2人なら2人で話し合って決めてもらう」

「その投票が入ってない方が狼だったら笑えるな」

兄貴がフンッと鼻を鳴らした。

「……狼有利だな。人狼は自分が生き残るだけでいいが、市民は各視点で1/3の狼を見つけるしかない」

リーダーが呟いた。リーダーも兄貴も物分かりがよくて話が早い。

「ちょっと待て。狼有利というよりリゾットのいる陣営の勝ちじゃあねぇか?」

兄貴の言う通り、リーダーは人狼ゲームで天下を取れる程の推察力と説得力がある。

「確かにリーダーは人の表情から演技が読み取れるっスよね。口も上手いし」

「それが人狼ゲームのおもしれぇところだな。いかに相手を説得できるかが人狼ゲームというものだ。リゾットが人狼を引く可能性がある限り、リゾットの言葉が必ず正しいとは限らねぇだろ?リゾットの言葉は疑うこったな」

「はえー。なるほどっスね」

イルーゾォなんかに同意する日が来るとは思わなかったけど、確かにリーダーが狼ならリーダーの言うことは信用できない。

「今から始めるが、ただゲームをするんじゃあつまらねぇ。このゲームの勝敗に何か報酬をつけようじゃあねぇか」

イルーゾォが口の端を吊り上げていうので、背筋がぞぞっとした。イルーゾォと敵対陣営になるのは本能的に嫌だな。

「負けた陣営がここの後片付けでいいだろう」

「つまんねぇが、リゾットがそう言うならそれでいいか。んじゃあ、カードを配るぜ」

「あ、私がやるっス!」

イルーゾォが配ると不正が起こりかねないので、イルーゾォに両手を差し出した。

「ほらよ」

イルーゾォから受け取ったカードを裏返しにしてよく混ぜた。それから3人にカードを配り、最後の一枚をテーブルの上の自分の近くに伏せた。

「周りに見えないように役職の確認をしたらテーブルに伏せるっス」

テーブルの上からカードを1枚めくった。カードには田舎者の男の人の絵──市民が描かれている。
よかった。人狼有利のゲームだけど、狼陣営だとずっと演技をしなくちゃいけないからこっちの方が楽だ。
全員テーブルにカードを伏せたのを確認してから時計を見た。午後10時19分だ。

「話し合いは10時20分から25分の5分間っスよ──では、始めるっス」

「オレの勘を言っていいか?」

プロシュート兄貴が最初に口を開いた。

「リゾットが人狼だと思う」

「なるほど。おまえの勘は当たることが多いが、残念ながら今回は違うようだな。オレは市民だ」

兄貴の揺さぶりにリーダーは毅然とした態度で返した。

「勘とは言ったが推理はしてるぜ?イルーゾォとナマエが狼の場合は表情ですぐわかると思っている。ふたりに狼っぽさがなけりゃあ、リゾットが人狼だ」

「いや、おれはナマエが人狼だと思うぜ」

「えっ!」

急にイルーゾォがヘイトを向けてきて戸惑った。

「どの辺が?」

キッとイルーゾォを睨んで聞き返した。こいつはわざと私を揺さぶる為に言っているはずだからここはリーダーのように冷静に返したい。

「なんとなくだな」

「雑っスね。でも、兄貴がリーダーを勘で人狼って言ってリーダーにヘイトを向けているところを、イルーゾォが私を人狼ということで、リーダーからの票を回収──リーダーを味方に付けようとしているように見えるっス」

「ああ?一丁前なこと言うじゃあねぇか。なんだか過剰反応に見えて怪しいんじゃあねぇか?」

イルーゾォの瞳はギラギラと鋭敏な輝きを宿していて、私を責めているのを楽しんでいるようだ。その様子からイルーゾォが人狼な気がしてきた。さらに言うなら、高慢ちきでプライドの高いイルーゾォは私くらいしか叩ける相手がいない。だって、イルーゾォは私のことだけ下に見てるから。

「……イルーゾォはただナマエを虐めたいだけに見えるな。市民だろう」

「おおっ。流石はリゾットじゃあねぇか。おれが市民ってのは合っているぜ。だが、虐めたいだけじゃなくよぉ、本気でナマエが人狼に見えんだよ」

「虐めたいのを認めるなっスよ。兄貴ぃ、イルーゾォをなんとかしてくださいっスよぉ」

隣に座る兄貴の瞳を見つめて必死に懇願した。

「ナマエが市民って証拠はどこにもねぇんだぜ?そんなこと言われると余計に怪しんじまうじゃあねぇか」

「あ、兄貴まで……」

非常にまずい状況になってきた。イルーゾォからの票は確実に私に入るし、兄貴は私を疑い、リーダーはイルーゾォを白く──市民だと置いている。

「私は人狼じゃないっス!あ、そうだ。リーダー、私が人狼だと思うっスか?」

「ああ。顔が強張っている上、最初イルーゾォに人狼だと疑われた時、戸惑いの表情を見せた。市民なら通常は怒る。特にナマエが一言も発言していないうちに人狼と言った訳だからな。そこがナマエの人狼要素だな」

「……納得しちまったぜ」

リーダーの間違っているけど見事な推理に兄貴が頷き、私を疑うような目を向けた。本当にまずい状況になった。けれど、私は人狼が誰かわかったのは大きい。

「私は誰か人狼かわかったっス!100%リーダーっス!」

ずびしとリーダーに指を指した。

「おいおい、本当かぁ〜?おまえが人狼なんじゃあねぇの?」

イルーゾォがニヤニヤと笑いながら、私を煽ってきた。最初はイルーゾォが人狼に見えたけど、リーダーの言う通り、イルーゾォは市民で私を虐めたいだけだ。

「理由を言ってみろ」

「リーダーが人の表情から嘘を見抜くのなら、市民の私を人狼とは絶対言わないからっス!」

自信満々に言えば、兄貴はなるほどなと納得してくれた。これは兄貴さえ私の味方に付ければまだ戦えるゲームになった。

「オレは一度おまえを極端に演技の上手い奴と言ったことがあるな?」

私がリーダーと初めて会った日のことだった。あの時はとても辛い思いをしたからその台詞はよく覚えていた。

「覚えてるっスけど……」

「結局おまえは演技をする奴ではなかった。オレでも間違うことはある。それだけの理由でオレを人狼などと言うとはな……ますます怪しいな」

「ぐっ……うぐぅ……」

何も言い返せなくなった。口はリーダーの方が上手だ。私が人狼じゃないのに、どうやって弁明すればいいかわからない。

「おい、本当にナマエなのか?」

兄貴が私の表情から嘘を読み取ろうとするように、私の瞳を見つめる。私も嘘を付いていないことを顔から読み取って欲しくて、必死に兄貴を見つめ返した。

「兄貴ぃ、リーダーが人狼なんスよぉ」

「……しかし、だ。イルーゾォがオメーに投票する気満々なところで、リゾットがイルーゾォに乗ってオメーを人狼だと言うと、リゾットが怪しまれるだろ?人狼がイルーゾォの意見に乗っかるもんか?」

「リーダーは逆にわざとイルーゾォに乗っかってるんスよぉ、兄貴ぃ」

「だが、リゾットは初心者だ。そんな高等テク使うか?──クソッ!わかんなくなっちまったじゃあねェか」

「おい、ナマエ。おれが一番おまえに投票する気なんだから、おれにもっと弁明してみろよ」

イルーゾォが斜向かいから偉そうに顎を上げて声を掛けてきた。
もうっ。こいつはなんでこうも私を虐めるの。

「私は人狼じゃあないっスよ。リーダーが人狼なんス!」

「駄目だ。もっとまともなこと言え」

「さっき理由とかまともなことちゃんと言ったじゃあないっスか!兄貴ぃ、イルーゾォが虐めるっス」

「おい、イルーゾォ。てめーは悪趣味なバンビーナ虐めはやめろ」

「私、バンビーナじゃあないっス!」

「いや、ナマエはおれに虐められて喜んでるからいいんだよ」

「頭沸いてるんスか?」

「ああ?事実だろうがよ」

イルーゾォは自信たっぷりに言う。なんでイルーゾォなんかに虐められて喜ばなきゃいけないんだよ。勘違いも甚だしい。

「時間だ」

リーダーの一言に場が静まり返った。時計の針は10時25分を指していた。
かなり部が悪いけど、もう投票するしかない。

「話し合いは終わりっス。ドゥーエで人狼だと思う人に指を指すっスよ──ウーノ、ドゥーエ!」

私は迷わずイルーゾォに指を指して投票した。本当はリーダーが人狼だと思うけど、万一イルーゾォが人狼だったら悔しいからイルーゾォに投票することしかできなかった。
そしてこのゲームの勝利陣営は──

「ナマエがイルーゾォに1票、プロシュートがオレに1票──オレとイルーゾォがナマエに2票でナマエの陣営の負けだな」

リーダーが票結果をまとめてくれた。兄貴がイルーゾォに怒ってくれたから、イルーゾォに投票してくれるかななんて期待していたけど、そんなことはなかった。

「で、ナマエの役職はなんなんだ?」

「市民っスよ……」

イルーゾォの問いに負けた原因である本人を睨みながら答えた。イルーゾォが役職を聞いてきた時点で人狼が誰かほぼ確定した。

「人狼はリゾットだろ?」

兄貴がリーダーにさも当然であるかのように聞く。

「ああ。流石はプロシュートだな」

「フンッ。オレの勘は当たるものだな。ナマエ、何イルーゾォに投票してんだ?」

「大嫌いだからっス」

「感情で投票とはナマエもまだまだだな」

兄貴に言われてしまった。確かに感情投票はよくないけど、イルーゾォに負けるのだけは私のプライドが許さないから仕方ない。

「大嫌いとは悲しいなァ。おれはナマエのこと大好きなんだぜ?」

「ヒィ!私は嫌いっス!好きとか言うなっス!」

「照れんなよ」

「照れてないっス!それより、イルーゾォが私に投票したせいで負けたんで、イルーゾォに負担が多いところの片付け任せるっス!いいっスよね?リーダー?」

「負けた陣営で好きにしろ。と、そろそろだな」

車の音が外から聞こえてきた。ターゲット達が帰ってきたみたいだ。

「全員配置につけ」

「はーい」

ゲーム上では市民陣営だった私も任務では狩る側──人狼側の陣営になる。ターゲットは4人で4人共スタンド使い。結構キツイけど、4人のスタンド能力は既に把握済みだしこっちも4人いて頼もしいリーダーと兄貴がいる。

「初日人外PPっスね」

「ああ、そうだな」

リーダーが私の言葉を肯定して、驚いた。
初日とは通常初夜のことだけど、プレイヤー間では人狼ゲーム開始後の昼のターンのことを指すことが多い。このゲームは1日の構成が昼のターンと夜のターンになっていて、通常昼のターンに人狼を含む市民の会議で処刑する人を1人選び、夜のターンに人狼が1人を噛み殺す仕様になっている。
PPとは『パワープレイ』の略で、人狼側陣営が市民と数が同数以上になった時、投票先を合わせて無理やり市民を処刑または同票による処刑なしに持っていくことだ。
リーダーは反応からして初心者だと思っていたのに、この2つの用語を知っているということは──

「人狼ゲームは最初から始まっていた」

「そんなかっこよく言っても、初心者メタ使うリーダーなんか嫌っスよ」


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