una mela -illuso side-
アジトに召集がかかって行ってみれば、既に居室にいんのはナマエとペッシだけだった。ふたりしてソファに並んで座り、両手で丸々としたデケェ林檎を持って齧っている。ローテーブルには中が見やすいように口を外側に折られた紙袋が置いてあって、中に真っ赤な林檎がいくつかあんのが見える。
「おめーらは猿か?」
ナマエの対面のソファに腰を下ろせば、ナマエがこっちを睨んできた。
相変わらずのナマエの反抗的な態度におれは気分を害するどころか、幾らか気分がよくなった。
おれはナマエの、からかえばすぐに睨んできて反抗してくるところを気に入っていた。
「んあ?ふほみへえなほとひうはっふ」
ナマエは口元を押さえ、両頬をいっぱいにしながら喋るが何言ってるか全然わかんねえ。ただ頬袋があんのかよ、と思うくらいの頬の膨らみ方と黒目がちな瞳を見ると、ナマエは猿つーより、ハムスターだな。
「食いながらしゃべんなよ、汚ねーな」
「……あんたに言われたくないっスよ!」
ナマエは頬をすっきりさせて声をあげるが、ペッシは未だに黙っておれらの顔色を交互に窺うように見ながら林檎を食っている。ペッシの方もからかうとスゲェ大げさに反応するし、脅せばマジにビビるからおもしれーが、ふたりが並ぶとどうにも目の前の玩具の方で遊びたくなる。
「おれのどこが汚ねーんだよ?」
「面」
「蹴っ飛ばされてーのか?それよりおめーらのアニキはどうしたんだよ?」
「なんか用事あるらしいっスよ。遅れるらしいからこれでも食っとけって林檎もらったっス」
ナマエはそう言いながら、横向きにした林檎を回し、まだ皮のある赤い部分にかぶりついた。おれの方に向けられる黄色の実についたナマエの歯形や、時折林檎の陰から現れる果汁でテカテカと濡れた唇に眼がいく。一見下品にも見えるが、ナマエの場合は別に汚らしくは見えなかった。それどころか、まあまあソソられるもんにも見える。それは本人に清潔感があるからなのか、はたまたどうにかしてやりたい相手だからかなのだろうか。とにかく、良い意味で注意を引かれた。
「あいつも子守に苦労してんだな」
「はれはほもりらんふは?」
ナマエは口元に手を当てているものの、また頬を膨らませたまま睨んできた。
「だから食いながら喋んなって」
ナマエは黙ったまま林檎を片手で持ち、空いた手で中指を立ててきやがった。そんなナマエを見たペッシは顔色を青くさせる。このおれに対しての反応はペッシのようなもんがフツーに思えるが、ナマエは物怖じせずにいつも反抗的な態度を取りやがる。
いつかペッシみたく、おれを恐れるような反応をナマエに期待しているが、未だに何か言うたびに敵対心を持った野良猫のように牙を剥く。それはそれで後々屈服させた時に最上の喜びとなって返ってくるから気に入っているが、たまに面白くねえと思う時がある。
まさに今がその時で、ただ無言で睨まれながら中指を立てられるのは面白くねえ。
「ペッシ、ナマエの林檎を奪っておれに寄越せ」
「は?」
「ええ?マジにやるんですかい?」
「やれよ。じゃなきゃ鏡の中に閉じ込めんぞ」
「わ、わかったよ。ナマエ、ごめん!」
「はああ!?ペッシ、林檎取ったら許さないから!あんたのこと刺すよ?」
「ナマエ〜!それは勘弁してくれよ〜!オレのせいじゃあないんだからよォォ。『ビーチ・ボーイ』!」
ペッシはスタンド能力を発現させ、ロッドからピンク色の釣り糸をナマエの方へ振り投げ、的確にナマエの手の中にある林檎を釣針に引っ掛け、そのままおれの手へと釣り糸を振って寄越した。
「ペッシーっ!あんたタダじゃあ済まないから!」
「ペッシぃ、やるじゃあねーかよ!こいつはいただくぜー」
「やめてったらーッ!食べたらブッ刺す!」
このおれを脅しながらナマエがローテーブルを回ってこっちに走り寄ってきたが、おかまいなしに目の前でナマエの食べかけの林檎に齧りついてやった。ナマエの反応を見たくてやったわけだが、当の本人は顔を青くさせて「あーっ!」と絶叫し、それから器用に顔を赤くさせて「ふざけんな!返せ!」と叫びながらおれの林檎に手を伸ばしてきた。身長差があるからナマエの頭を掴んでつっかえ棒にして距離を取るだけで、ナマエはおれの林檎に触れることすらできねえ。
ぎゃーぎゃー叫ぶナマエの様子に高揚感を覚えてこれ以上ねえくらい気分がいいぜ。
そんな折にホルマジオが居室に入ってきて、おれらを見て開口一番、「またナマエいじめてっと、そのうちプロシュートに殺られんぞ」と忠告してきやがった。
「あー?こんくれえで怒るタマじゃあねーだろーが」
「ま、好きな子虐めてマスかいてる小学生のガキとか思われてそーだわな」
そういうホルマジオはペッシの隣にどかっと音を立てて座ると、目の前に置いてある紙袋に手を伸ばして林檎を手に取って食い始めた。
「くだらねー事言ってんじゃあねーよ。おめーはナマエにパシられっぱなしのクセによォ」
「そりゃあ、ナマエが可愛いからだろーが。フツーは可愛がってる女の為ならなんでもしてやりたくなぶばぼーば」
ホルマジオは話しながら林檎に齧りつき、最後は何言ってるかわかんねえが想像はついた。
「えっ!そうだったんスか!?」
ナマエが敏感に反応して、ホルマジオの方を向く。こいつの興味が突然おれから離れるのを感じて不快になってきた。
「ああ。ナマエには可愛げがあるからな。ナマエがオレンジとかバナナ食いてえ言うんなら今すぐにでもイルーゾォに買いに行かせるぜ」
「おれに行かせるんじゃあねーよ」
おれがホルマジオより下であるかのようなものいいには腹が立つが、ホルマジオとの言い合いは挨拶みてえなもんだから適当に言い返すだけに留めた。
「じゃあ、イルーゾォから林檎取り返してくださいっス」
「そりゃあ、ペッシに頼めば一瞬だろーが」
ホルマジオまでもペッシの便利さを理解してんのか、ペッシに顎でおれから林檎を奪うように示唆した。
「で、でもよォ……」
「ホルマジオ、ペッシが私の林檎を奪ってイルーゾォに渡したんスよ〜!」
「おっと、そりゃあペッシいけねえことだぜ〜?自分の兄貴分の女は守ってやらねーとな」
勝手にナマエをプロシュートの女にするな、と思ったがチームの中では大体そんな扱いになっている節はある。だがそんなんで遠慮なんかしてられっか。
「ナマエ、そんなに林檎が食いてえなら返してやるよ」
ホルマジオの方を向くナマエの体に後ろから腕を回して、ナマエの顔を見下ろして確認しながら左手でナマエの顎を掴み、もう片方の手でナマエの口に林檎を押し付けた。勿論おれの食いかけの部分だ。それを察したのかナマエはおれの足を思いっきり踏みつけるのと同時に鳩尾に斜めに肘鉄を入れてきて、更に振り向き様に膝で金的と顎に掌底を入れてきやがった。流石のおれも多少はダメージを食らって油断していたところへ林檎を奪われた。やべえ。足も鳩尾も顎もタマもいてえ。こいついつの間にか強くなってやがる。
「ウヒャヒャッ──こりゃあ傑作だ」
ホルマジオが大声で笑いやがって、スゲェムカつく。
「ナマエ、てめえブン殴られてーのか?」
「それはこっちの台詞っスよ!ほんっとにあんたは変態なんだから!あーもーこれ、どこがイルーゾォの齧った場所かわかんなくなっちゃった!」
ナマエは文句を言いながら半分以上黄色の身を露出させている林檎を点検するように回し見た。
クソッ。油断していたせいだ。最近ヤケに自信に満ち溢れた顔をしていると思ったら、強くなったみてえだ。面倒になったもんだぜ。
怠くなってひとりがけのソファに腰を下ろした。
ナマエはまだブツブツ文句を言いながら、ナマエがホルマジオに強請って買わせたらしいスツールを3人掛けのソファの南側に持ち運んで座った。ソファが7人分しかねーのをナマエはずっと不満に思ってたらしく、それに反発してか既存のソファとは全く色もデザインも異った、脚がロココ様式に彫られた高価なスツールにしたらしい。
後からギアッチョとメローネがやってきて、それから間を置いてリゾットとプロシュートが最後に来ると、ナマエは立ち上がってプロシュートの方へ駆け寄っていった。
「ねえ、兄貴!見てくださいっスよ、これ!私が食べてたのに、イルーゾォに齧られたせいでもう食べられなくなっちゃったんス!兄貴が黄色いところ全部齧ってくれたら、私全部食べられるっス!」
ナマエはひでー上に気持ち悪いことを言いやがるな。おれが食った部分を野郎に食われるなんてごめんだぜ。
「ああ?なにイルーゾォにやられてんだ?それはオメーの不覚のせいだぜ。それに男が野郎の齧った林檎を食うのは、野郎のケツを舐めるのと一緒だ。他を当たれ」
「兄貴以外はダメなんスーっ!」
「なら後で食われたところだけ上で切り取ってやるから早く座れ」
「はーい」
ナマエはニコニコと満面に笑みを浮かべながらスツールに戻り、おれと目が合うと一瞬にして表情を怒りに変え、無言で中指を立ててきやがった。ムカつく女だ。舌をだして舐めあげるようにして見せれば、ナマエは大口を開けて唖然とし、プロシュートが南側のソファに腰を下ろすのと同時におれから隠れるようにスツールを後ろに移動させた。プロシュートの陰でナマエの姿は完全に見えなくなった。ケッ。いつもリゾットやプロシュートの陰に隠れやがって。つまんねーの。