mio tempo felice
愛は精神の休息──とは、上手く言ったもので、彼から受ける愛に私は静穏な時の中で微睡むような癒しを感じる。彼は穴だらけの私の心を愛という確かな形で埋めてくれたし、今も溢れんばかりの愛で満たし続けてくれる。たまに嫉妬で心が歪むことがあるけれど、必ず愛で元に戻してくれもする。何か問題があったとしても、必ず平穏で幸福な時間が解決してくれるのだ。
そんな幸福な時間はお互いの身体を求め合い、精神の繋がりを確認した後に一番素敵な時として訪れる。
かつて兄貴分だった恋人の腕の中で、今日も私はそんな静穏な時を感じている。月明かりだけを閉じ込めた暗い部屋の中、乱れたシーツの上で汗ばんだ身体を寄せ合ったまま、私よりも熱いプロシュートの体温を瞳を閉じて感じていた。まるで陽だまりにいるように温かく、世界には私と彼しかいないような静けさと穏やかさを感じる。
「私、この時間が一番好き……」
「なんだ?セックスは拷問の時間か?」
プロシュートの冗談っぽい返しに笑って、彼の明るい瞳を見つめた。
「ううん。それも素敵な時間だけど、プロシュートの温かい腕の中にいる時が一番幸せなの」
「わからなくはねえな。オレに散々感じさせられてぐったりしているナマエを眺めるのは幸福だ」
「そういう恥ずかしいこと言わないで……」
「そういう恥ずかしがるところを見るのも幸福の一つだな」
「ああ、もう……」
プロシュートにはいつも口では勝てなくて、こっちが降参しても更に重ねてくるから参ってしまう。
プロシュートは「可愛いヤツだ」と言うと、私の額にかかった髪を後ろへ梳いて、額にリップ音を立ててキスをしてくれた。
今、とっても幸せ。こんな穏やかな時がずっと続けばいいのにな。
「さて、シャワーを浴びて映画の続きをみにいくか」
「うん」
もうちょっとくっついていたかったけど、まだ熱の残るベッドを抜け出した。
時はまだ夜の9時頃で、一緒に居間のテレビでビデオ映画を観ていたのに気づけば寝室まで移動してセックスをしていた。最初はソファの上だったのに、繋がったまま抱っこされて寝室まで移動させられたのだ。
今思い出せば、映画を観ながらキスとかハグをしていたのが駄目だった。いつもこの流れで映画が中断される。
一緒にシャワーを浴びて、新しいショーツを履いてバスローブを羽織り、モコモコのスリッパで長い廊下を歩いて居間のソファに座った。
「コーヒー飲むか?」
「うん。お願い」
映画を最後に観たシーンまで巻き戻している間に、プロシュートはキッチンに行ってコーヒーの準備をしてくれた。
映画の場面をちょうどいいところで停止して、ソファからキッチンを見ると、プロシュートがミルクとミルクを泡立てるミルクフォーマーを用意しているところだった。ミルクフォーマーはカフェラテしか飲まない私の為に、プロシュートが買ってくれたものだ。
ソファの上で両膝を抱えながら、数メートル先のキッチンでエスプレッソマシーンの出来上がりの音が鳴るまでミルクを泡立てるプロシュートを見つめていた。こうしてプロシュートが私の為に何かしてくれているところを見るのも幸せ。
プロシュートはふと私の視線に気づいて顔を上げると、淡く微笑んだ。親しみの籠もった、険の無い表情だ。職業柄か普段は険のある雰囲気のプロシュートも、こうしてふたりでいる時は柔和な表情をする。そんな彼の表情を見る度に、私は優しい気持ちになれる。
温かい微笑に私も微笑み返して、無言の微笑を交わし合った。この瞬間も私は好き。誰にも邪魔されない穏やかで平和なひと時。
プロシュートが出来上がったカフェラテの入ったマグを持ってきてくれた。
「ありがとう。プロシュートは飲まないの?」
「寝る前にはエスプレッソより赤ワインがいい」
プロシュートはそう言うと、赤ワインのボトルとワイングラスを持ってきて私の隣に座った。
私は湯気の出るマグに息を吹きかけ、口を付けた。泡立った濃厚な甘いミルクの中に少量のエスプレッソの苦味をほんのり感じる。いつも通りの私の大好きな味だ。プロシュートはいつも私の為に完璧に美味しいカフェラテを作ってくれる。
「美味しー」
プロシュートの方へ身を寄せてくっついた。
「そりゃあよかった。続きをつけていい」
「うん」
プロシュートがグラスにワインを注ぎ終わるのを見守ってから映画の続きを再生したけれど、あんまり盤面が終えていなかった。
好きな俳優もでてないし、映画を観るよりもプロシュートともっとくっついていたい。マグを目の前のローテーブルに置いて、向き合うようにプロシュートの膝の上に乗っかって、プロシュートの首に顔を埋めた。彼の首は熱を持っていて、お風呂の良い匂いがする。プロシュートを感じると、また体が熱くなってきた。こうやって体をくっつけてるだけで気分がよくて、幸せな気持ちになれる。
「おい、観ねェのか?」
「音だけ聞くからプロシュートが説明して。"fuck"は訳さなくていいから」
今観てる映画はたまたま字幕しかなく、アメリカの犯罪映画だから台詞の殆どに"fuck"がついていて、そこだけ字幕を追わなくても意味がわかるのだ。ちなみにプロシュートはアメリカを差別主義者の国とか、不自由の国アメリカとか言ってるけど、犯罪映画の良さだけは認めていて家にあるビデオの半分くらいはアメリカ配給だ。あとは自国とヨーロッパの映画で、香港映画が1作品だけある。
「説明してもどうせわかんねぇだろ。また中断するのか?」
「それでもいいよ」
「ハッ。ナマエも好きだな」
プロシュートはそういうと、私の背中に両手を回して腰のあたりまで手を下ろしては上へ滑らせて背中を摩った。なかなか肝心なところを触ってくれないけど、私にはこれで十分だ。既にもう体の芯は受け入れる準備が出来ているくらいに熱い。プロシュートのことが好きなあまりにそういう身体になってしまったのだ。
私はプロシュートの耳朶にキスをしたり甘噛みしたり、時間を掛けて耳を愛している間に、プロシュートは私の体をバスローブの上から撫でるだけだった。
後ろから銃撃の音が響いてきて、映画の内容が気になって振り返ると、「続けろ」と言われて顔をプロシュートの耳元に押し付けられた。たまにされる乱雑な扱いに興奮して、バスローブの上から恥部をプロシュートの恥部にくっつければ、既に硬くなっていた。
「ね、もう入っちゃう……」
「まだ慣らしてねーだろ?」
「私がいつでも受け入れられるの知ってるくせに……でも、いいよ。ずっと触るだけで」
プロシュートは前戯をじっくり楽しむ人だ。ゆっくりと焦らして、私が泣いてお願いするまで挿れてくれない時もあるくらいだった。そんなプロシュートとの交わりも深い幸福を感じられる時間だから大切にしたい。ただ行為の時間帯とプロシュートの疲労度によっては私の一番幸福な時が短くなってしまう。さっきは映画を中断したせいでそれが短くなってしまった。今度は寝る時間くらいまでこの行為を楽しめば、長い時間温かいプロシュートの腕の中にいられるかな。