San Valentino (1/2)
「私のアモーレ、プロシュート……うーん……テゾーロの方がいいかなあ……あー、でも、テゾーロは被るよね……」
アジトの自室で、プロシュートへのプレゼントに付けるメッセージカードの書き出しで悩んでいた。アモーレはお互いによく言うし、テゾーロ(宝物)はプロシュートがたまに言ってくるから被る。プロシュートの方が私のことを愛の籠もった色んな愛称で呼んでくれるから、それとも被らないオリジナルがいい。
部屋の置き時計を見ると、プロシュートとの約束の時間を過ぎていた。昨日のうちに書いとくべきだったけど、昨日はプロシュートの家にいたし、今朝はヴァレンタインだというのに新婚の軍人カップルの暗殺任務をこなした。ヴァレンタインの由来である殉職した聖人もこれじゃあ浮かばれない。
そろそろアジトを出ないとプロシュートに怒られちゃう。急いでなんて書くか決めなくちゃ。
頭を抱えていた折に仕事用の電話から着信音が高らかに鳴った。アジトにいるというのに電話が来るということは、多分プロシュートからだ。数秒迷って流石に無視できなくて電話に出た。
「あー、アッサラーム?アクバール?」
「よォ、ナマエ。またアラブ人の振りして遅刻を神の所為にするつもりか?」
電話越しのプロシュートの声は少し苛立ち気味で、前も約束の時間を30分過ぎただけで怒られたのを思い出した。
「ごめん。まだアジトにいるの……もう現地にいるの?」
「いや、どうせ遅刻するだろうと思ってオレは今家を出たところだ。それでナマエはいつ来れるんだ?」
「プロシュートの為に着ていく服に迷ってるの。髪もセットしなくちゃだし……」
嘘だった。既にシャワーを浴びて全身の肌の手入れをしたし、プロシュートが初めてのデートの時に買ってくれた真っ白なワンピースに、真っ赤な靴を履いて、化粧を完璧に済ませて、髪を綺麗に整えた。ネイルはもうしてあるし、後はカードにメッセージを書くだけだった。
「ワンピースはあの白のレースのやつで来るとか言わなかったか?コートもストールもオレが買ったやつで揃えるとも言ってたよな?」
「あー、そうだった。でも、とにかく、あと1時間後には着く予定だから先行ってて」
「タクシーでそっちに迎えに行く」
「えー。来なくていいよー」
「あんな危ねぇ通りで粧し込んだ大事な女を歩かせるわけにはいかねぇだろーが。野次られるのもごめんだぜ」
確かにちょっと綺麗な格好で歩いてるとその辺の野郎に下品な言葉を掛けられることはあるけど、それもプロシュートは嫌みたいだ。そんなことでタクシーで来てくれるなんてちょっと嬉しいかも。
「じゃあ、急いで準備するからゆっくりね」
「ああ──"
さらりと、オレの天使と言われた。プロシュートに何回も言われたことのある単語だけど、言われる度に心が擽られるような気持ちになる。
「"
愛情を込めて『私のお日さま』と言って、電話を切った。今のやりとりで、メッセージカードの宛名はいつも通りに『私のお日さま、お星さま』でいい気がしてきた。でも、そのあとの一言メッセージは何を書くべきか悩んでしまう。
「いつもありがとう。大好き……これじゃあ子供っぽいかなあ……うーん」
私はプロシュート程、人に愛をうまく伝えられる自信がない。日頃から好き好き言っているけど、本当に好き好き言っているだけだからもっと愛していることが伝わるような言葉を使いたい。
散々悩んで考え抜いた言葉をカードに書き込んだ。それから、メッセージカードをプロシュートへのプレゼントのラッピングリボンに挟み込んだ。ショルダーバッグとプレゼントの入った紙袋を確認して、コートを羽織って、ストールを巻いた。姿見の前で全体のバランスを確認した。ベージュのコートに白のワンピースと赤い靴はよく合っている。ストールの色は黒かブラウンとライトブラウンのチェック柄と悩んで、後者を選んだ。
鞄と紙袋を手に取って部屋を出た。
階下に行って、アジトにいる皆に挨拶をして玄関ホールでプロシュートを待った。外で車の音が聞こえてアジトを出ると、アジトの近くにタクシーが止まっていてプロシュートが出て来た。プロシュートはダークカラーの腿丈のコートにダークスーツを着ていて、差し色になるくらい輝く金色の髪はいつものようにきっちり後ろで纏めていて、前髪だけは私の要望通りに左眼の上を掠めるくらいに斜めに垂らしている。とってもかっこいいし、私がお願いした通りにしてくれたプロシュートに感動して駆け寄って抱きついた。プロシュートも私の背に手を回して抱きしめ返してくれて、それから私の両頬にキスをしてくれた。
「プロシュート、今日もかっこいい」
「たりめェだろ。そういうナマエは今日は一段と綺麗だ。日に日に美人度が増すな」
プロシュートが私の髪に触れながら額にキスを落としてくれた。
私は実際美人じゃあないし、その辺に歩いている子の方がずっと綺麗で美人なのに、プロシュートはいつも私が一番美人とか、世界一美しいって言ってくれて凄く嬉しい。
プロシュートと一緒にタクシーに乗って、タクシーの中でプレゼントを渡した。
「渡すタイミングわからなくて……」
「ナマエがオレに……?」
「うん。家着いたら開けてね?」
プロシュートは信じられないという顔をして、それから私の心には天使が住んでるとか、私自体が天使だとかなんとか言ってタクシーの中なのに熱いキスをしてくれた。
今日はヴァレンタインのせいか、道がいつも以上に混んでいて、10分の距離なのに倍近く時間をかけてマルティーリ広場へと着いた。この辺りはファッションストリートとしてハイブランドやジュエリーショップなどが立ち並んでいる地区だ。ミラノ程先進的ではないけど、ネアポリスの中ではそれなりに洗練されている。
タクシーから下りると、プロシュートは私に髪飾りを買ってくれるという。
「本当?嬉しい!どんなのがいいかなあ」
「ナマエならなんでも似合うが、今日の服に合うやつがいいな」
「うん!じゃあ、プロシュートが選んで」
「ああ、いいぜ」
プロシュートに肩を抱かれて真っ先に行ったのはフェラガモで、ただの髪飾りでこんなハイブランドは必要ないと思う。それを伝えれば、「イイ女にはイイ物を」と、プロシュートは店員さんを呼んで、黒いリボンの付いたカチューシャを私の頭に付けさせた。リボンは片側についていて、左右に広がる光沢のある生地は固定されてなくて動くとひらひら揺れる。
「似合ってるぜ」
「本当?」
「他にも色はあるが、黒が一番良い」
早々に黒いリボン付きカチューシャを買ってもらって、カチューシャを付けたままディナーに行った。
プロシュートはヴァレンタインとかそういう商業的臭いのするイベントには興味はないらしいけど、私が気にするから私の為にディナーを予約してくれたらしい。
ヴァレンタインのピンク色の装飾がされたリストランテはカップルだらけで、そこかしこでイチャイチャしてるのを見ながら食事をした後は、真っ直ぐプロシュートの家に行った。
「ホレ、プレゼントだ」
「えっ?」
既にハイブランドのカチューシャを買ってもらったのに、大きな紙袋を渡されて戸惑った。居間のソファの上で紙袋の中を見ると、大きな厚い袋が入っていた。
「ナイトウェアだ。ナマエに似合うと思って買ったから今夜から着てくれよ」
「ありがとう!凄く嬉しい!カチューシャも買ってくれたのに、こんなにいっぱいありがとう!」
隣に座るプロシュートに抱きついて頬にキスをした。ナイトウェアはワンピース型のを二つしか持ってなかったから嬉しい。
「ナマエのプレゼントは……ネクタイとポケットチーフか」
「うん。ネクタイしてるプロシュートもかっこよくて好きだから、今度デートする時につけて?ポケットチーフはパーティ用に使ってね」
「ああ。メッセージカードもくれたのか。『私のお日さま、お星さまのプロシュートへ。愛してる』おっと。これだけか?」
プロシュートが私のメッセージカードを私の目の前で振った。結局、私にはセンスがないから諦めて愛してるしか書かなかった。
「ごめん。だって、思い浮かばなかったから……」
「冗談だ。これだけでも嬉しいぜ。ナマエの気持ちは普段から伝わってるしな」
プロシュートはそう言うと、早速私のプレゼントを開けてネクタイをしてくれた。シルク素材の鮮やかなブルーのネクタイで、ブランドのパターンが同色で薄く入っている。ネクタイをしたプロシュートはいつものように胸元を晒した格好よりも色気が出てる。露出度は減ってるのに不思議。
「ナマエも着てくれよ」
「うん。あっ。プロシュートもメッセージカード書いてくれたんだ」
紙袋の中に花柄のピンク色のカードが入っていた。私の為にプロシュートが書いてくれたと思うと嬉しくなってしまう。
「えーと、『オレの愛する──』」
そこには声に出すのも恥ずかしいくらい甘い言葉が書いてあって、それ以上声に出して読めなかった。でも、嬉しいから一生取っておこうと思う。
「なんだ?読んでくれねーのか?」
「だって、これ、こんな……恥ずかしい……」
「恥ずかしがるのはまだ早いぜ。早くナイトウェアを着てくれよ」
プロシュートに急かされて疑問に思いつつも、厚手の袋を開けてみた。中には色んな色の薄手の繊細な生地の服が沢山入っていた。嫌な予感がして、緊張で震える手を袋の中に入れて、真っ黒な布を一枚だけ取り出した。
細い肩紐に胸元がパックリ開いた、アンダーバストにリボンの付いてるベビードールで、生地が薄くてスケスケだ。
「ねえ、これってランジェリーだよ!」
「ナイトウェアもランジェリーも一緒だろ。ナマエに似合いそうなやつを店員に選んでもらったんだぜ?」
「私に似合いそうなやつ?」
「ナマエの写真を店員に見せたら、イメージに合うやつを選んでくれたんだよ。流石にショップ内をひとりでウロウロするわけにはいかねェからな。その方が早い」
「ああ、もう……それで結局こんなに買ったの?」
袋の中には他に3着のベビードールと、4着の紐パンとか際どいショーツと、レースのガーターベルトと薄手のニーハイソックスが入っていた。
店員さんが私の写真を見て、こんなものを選んだなんて恥ずかし過ぎる。
「ナマエ、オレの為にこの中から1着だけ選んで着てくれ」
「今……?」
家に帰ったばかりでプロシュートとくっつきたい気持ちもあるけど、こんな破廉恥な格好をプロシュートの前でするなんて私にはできない。そりゃあ、私もプロシュートと付き合うようになってからちょっと派手めな下着や服も買うようになったけど、ベビードールは私には無理。セクシー過ぎて似合わない。
「オレはネクタイをしたんだ。次はオメーの番だぜ?」
「ネクタイと下着を同列にしないで!」
「楽しみにして待ってるぜ。ベビードール姿のナマエは女神より美しいんだろうな」
「もー!」
仕方なく下着を全て紙袋に入れ直して部屋を出た。脱衣所に行って服を脱ぎ、頑張っても今日しか着られないようなデザインのランジェリーを選んで着替えた。鏡の前で姿を確認すると、胸の辺りが透けて色々見えてる。ショーツは布面積が狭くてお尻が丸出しだし、スケスケだ。こんなえっちな姿、プロシュートに見せるのは恥ずかしい。
脱衣所を出るのすら嫌になって、ウロウロしたり、プロシュートに買ってもらったカチューシャを付け直していると、扉を叩く音がしてびっくりした。
「おい、開けるぞ?」
「ま、待って……あっ」
扉を開けられないようにドアノブに手を伸ばしたけど、間に合わなかった。扉を開けたプロシュートは私の姿を見るなり、「"
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