non una sollera


 
今日はホルマジオと一緒にカトリックの聖職者に変装して病院に忍び込み、麻薬を袋ごと飲み込んで泡を吹いて入院した運び屋ふたりが警察にパクられる前に殺す予定になっていた。ついでに体内の麻薬も回収しろとのことなので、イルーゾォが既に病院に入り込んでいて、機を見て鏡の中に運び屋を引きずりこんで逃げられないようにするらしい。他にもオペ見学予定の医者としてプロシュートが先に潜入していて、今にも始まろうとしている麻薬取り出し手術を中断させる為に、オペ室内にいる医者たちを老化させる予定だという。
麻薬回収に運び屋の口封じなんてやっすい案件なのに、警察が見張っているかもしれない病院に四人もの人員で潜入しての暗殺はリスクが高いから、緊張しながら大学病院の大きな敷地をホルマジオとふたりで歩いていた。

「神父ってのは夏でもこれを着るのか?ローブにスラックスって死にたがりだろ。もっと神の子を見習った方がいいんじゃあねーの?」

地毛と同じジンジャー色のウィッグを被り、神父用の踝丈のローブを着てロザリオを首から下げているホルマジオが、革の鞄片手にローブの胸元を掴んでバサバサと揺らして風を入れていた。

「神父さま、黙るか声落としてください。それと動作もうるさいです」

ただでさえ、ホルマジオは神父というには顔つきが鋭く、お金を渡せば麻薬を売ってくれそうな危うい雰囲気を纏っているのに、言動が完全に素のままだから注意した。今のままだと病院側に神父でないことが一瞬でバレそうだ。

「そういうナマエも、そんなエロい格好したシスターがいるのかよ?」

「これはこの衣装を寄越してきたメローネが悪いの!そもそもメローネに衣装担当させたリーダーも悪い!」

与えられた踝丈のシスターローブは露出が少ないけど、タイトな作りのせいでピチピチで体のラインが丸わかりで嫌だし、ロザリオの数珠はブルーの硝子でできてて妙に短くて胸に当たるし、下に履くのはタイツかと思ったら、ガーターベルトとニーハイストッキングだ。それらを渡された時にはメローネをブン殴ってやった。

「急遽用意したんだから文句は言ってやるなよ」

「急遽でこんなコスプレ用シスター衣装が手に入るのかな」

メローネの自宅にあるものかも、と頭を過ったけれど、すぐに考えるのをやめた。何に使ったものかはわからなくて、想像するだけで怖い。
衣装についてあれこれホルマジオと話しながら大学病院の本棟の入口へ漸くたどり着くと、そこから受付を素通りして、イルーゾォの指示で階段の踊り場にある鏡の前で待っていると、鏡の中にイルーゾォの姿が現れた。わかってはいるけど、鏡の中にいないはずの人が写るのは怖い。

「イルーゾォ。人いないうちに早く入れて」

「ああ、お望みなら早く挿れてやるよ、エロシスター」

「なんか別の意味に聞こえてきっしょいんですけど……」

「くだらねえこと言ってねえで早くオレらを入れろよ」

ホルマジオの言葉にイルーゾォが軽い舌打ちをすると、先にホルマジオを鏡の中に引きずり込んでいった。
イルーゾォがこの能力を仲間に使うところを見たのは数回しかなくて、毎度ながら鏡の中へ消えてしまう仲間の様子に不安になる。そして次は私の番で、鏡の中から飛び出してきたイルーゾォのスタンドの手に腕を掴まれた。

「このエロシスターが鏡の中へ入ることを許可してやる」

「エロシスター言うな!」

イルーゾォのスタンドに引っ張られて鏡の中へ入った。
イルーゾォと組んだ時に何度か鏡の世界に入ったことはあるけど、未だに鏡の世界は居心地の悪さを感じる。急に人の気配が感じられなくなり、世界が静かになるのが凄く不気味。

「それでどこから行くの?」

「プロシュートの野郎がオペ室の近くで待機しているそうだ。今からそこへ向かう」

「ふーん」

興味のない振りをしたけど、プロシュートにこのシスターの格好で会うのが恥ずかしく、身なりを整えようと髪に触れようとして指先に硬い布地の手触りを感じた。白い頭巾と黒のベールの中に髪を仕舞い込んだのを忘れてた。



*



オペ室で老化の煙を撒き散らしていたプロシュートとお腹を裂かれたまま眠っている運び屋が鏡の中に引きずり込まれてきた。

「わあ……エロ医者……」

嫌そうな顔をしながらイルーゾォのスタンドに鏡の中に引きずり込まれてきたプロシュートの見た目はその一言に尽きた。プロシュートはいつも分け目を作って後ろにまとめているブロンドの髪を下ろしてオールバックに固めていて、白衣姿だった。それも中に着ているのは青い手術着ではなく、白シャツに黒のネクタイを締め、光沢のあるグレーのベストを着て、下はダークカラーのスラックスだ。仕事中なのにプロシュートのお医者さんのような格好にきゅんと胸がときめいて、これだからプロシュートとの共同任務は受けたくないと再認識させられた。好きな人がいると気が散るし、プロシュートも同様に私と一緒の任務は任務より私を優先し兼ねない、とリーダーに言ってあるから、リーダーが私達の気持ちを汲んで、必要な場合以外はプロシュートと一緒の任務に付くことは殆どなかった。
今もプロシュートは私の言葉に特に返事をせずに、目礼だけしてすぐに視線を逸らした。理由はよくわかってるけど、ちょっと寂しい。
運び屋の状況を確認するのに暗い手術室ではなく、昏睡病棟まで運び、そこで一旦鏡の世界から出た。空きベッドに運び屋を乗せると、既に開かれていたお腹からは大量出血していて、お腹に合わせて被せられている穴あきのブルーシートに血が滴っている。

「呼吸が弱まってんな。寝ている間に死ねるなんて幸せなヤツだぜ。な、プロシュート。医者なら手袋ぐらい持ってんだろ?」

ホルマジオが運び屋の頭を小突いたり眼の下を引っ張りながらプロシュートに聞く。

「ああ。さっき箱ごとパクってきた」

プロシュートが手に持っていた、ティッシュ箱より一回り小さい箱からオペ用らしき手袋を取り出して手に嵌めたけれど、あまりの出血の多さに辟易したのか暫く沈黙した。

「そいつのシーツを取ってくれ。血が邪魔で見えねえ」

プロシュートは私ではなく、ホルマジオの方を向いて、同じ病室にいる昏睡患者を顎でしゃくった。

「私も手伝う」

呼吸器や栄養チューブに繋がれている患者に謝りながら、ホルマジオと一緒に患者の下に敷かれたシーツを取り上げた。
ホルマジオからプロシュートにシーツを渡してもらい、プロシュートはそれはそれを受け取ると、運び屋のお腹にシーツを当てて血を染み込ませ、お腹から出血する血が減ってきたところで手を突っ込んだ。
何故か注意を引かれてその様子をじっと見てしまう。怖いものみたさというよりは、なんとも思わないようになりたくて見つめた。
正直、気持ち悪くて気分の悪い光景だった。かつて、私が殺したアイツが手術の真似事のようにしていた光景を思い出す。勿論、アイツへの恐怖から来る怖さはもうない。ただ、嫌な記憶として頭にこびり付いて離れなく、平気ではいられなかった。

「大丈夫か?」

近くで見守っていたイルーゾォが大きな体を屈めて顔を覗き込んできた。以前のイルーゾォなら、「ビビってんのか?」って馬鹿にしそうなのに、本当に心配してそうな感じで聞いてきて、それが凄く嫌だった。
前にプロシュートとイルーゾォが殴り合いの喧嘩をしてから私はイルーゾォとは出来るだけ関わらないようにしていた。そのせいなのか、それとも喧嘩が原因なのかは知らないけど、イルーゾォが最近やけに優しくて怖い。今もこうやって険のない優しさを見せてきて混乱するし、普段のイルーゾォへの冷たい態度に罪悪感を持ってしまうからやめてほしい。

「別に……」

「震えてんじゃあねーか」

イルーゾォが私の肩に手を伸ばしてきた瞬間、イルーゾォの顔面を真っ赤な血に染まった物体が打った。
イルーゾォの顔に血を塗りつけるように滑って地面に音を立てて落ちたのは麻薬の入った袋だった。一瞬臓器かと思ってゾワっと背筋が粟立ったから麻薬だとわかって安心した。

「なにしやがるんだてめーッ!」

「悪い、手が滑った。ホルマジオ、手袋使って早く鞄にしまえ。ナマエ、オメーは後ろに退がって余計なもんは見るな」

「うん……」

プロシュートの配慮に感謝して、ホルマジオが手袋を付けて内側がアルミになっている革の鞄に麻薬の袋を詰めているのを、近くで見守ることにした。

「おい、プロシュート。ここでこの前みたく殴り合いしてえなら、受けて立つぜ」

イルーゾォが顔面に付いた血を手の甲で拭いながら言う。口調は冷静なものの、相当怒っているのは雰囲気でわかる。助けを求めるようにホルマジオを見れば、ホルマジオは顎でイルーゾォを指す。私になんとかしろと言ってるみたい。状況的にまずいのを察して、仕方なくイルーゾォのいる方に行った。

「イルーゾォ、ハンカチあげるから許してあげて。誰だって手が滑ることあるでしょ?」

「あんなコントロール抜群な滑り方するかよ」

イルーゾォにハンカチを差し出せば、舌打ちしながらも受け取ってくれて顔を拭き始めた。血は落ちにくいのを知ってるからイルーゾォの顔から血が取れるか心配で見守っていると、「まだ付いてるか?」と体を屈めて聞いてきた。

「そこも付いてる。違う。右頬」

「こっちか?」

こっちが右頬を指をさしているのにイルーゾォが左頬を拭うから、わざとやってるのかなと疑ってしまう。

「鏡の世界にいすぎて左右の違いもわかんなくなっちゃったの?貸して」

仕方なくイルーゾォからハンカチを取り上げて、イルーゾォの顔に手を添え、血が伸びるように付いている右頬を強く擦った。イルーゾォのチェリー味の飴玉みたいな瞳が私の視線を捉えようしているのを感じつつも眼を合わせないようにした。

「もっと優しくしろよ」

「強くしないと取れないでしょ……」

イルーゾォにどうしても伝えたいことがあって、イルーゾォの耳元に唇を寄せた。

「私、プロシュートのこと大好きで愛してるから、邪魔しないで。遊びたいならその辺の女にして?」

「そのまま耳に舌を突っ込んでくれれば、もう一生おまえに構わねーよ……いってッ!」

私がそんなことするわけないのにまたセクハラ発言するイルーゾォに腹が立ってハンカチ越しに頬を思いっきり抓ってやった。

「はい、目立つのは取れたよ。わかってると思うけど、血は落ちにくいから帰ったらちゃんと洗いなよ?」

「愛するプロシュートにも夜は痛くしてんのか?」

「怒るよ?」

血に汚れたハンカチを折りたたんでローブのポケットにしまった。

「ハンカチ汚して悪かったな」

「気にしないで。元はといえば……」

セクハラ発言から切り替わってイルーゾォのらしくない謝罪に、思わず「プロシュートが血の付いた麻薬の袋を投げたから」なんて、言葉を繋げそうになって頭が混乱した。悪いのは、喧嘩になるとわかっていてイルーゾォが私に構ってきたからだ。

「元はといえばイルーゾォが悪いから。もう私に構わないで」

「そんな寂しいこと言うなって」

「なんで最近下手にでてるの?怖いんだけど……」

「おれは元からおまえには下手だろ」

「明らかな嘘を堂々と言えるって凄いね」

「おまえも本当はおれの方が好きなのによく誤魔化せてるな」

冗談だとはわかっているからこそ無視をして、ホルマジオのところへ戻った。麻薬の袋を殆ど詰め終わっていて、鞄を閉じるところだった。
プロシュートは残っている麻薬がないか体内を念入りに探っているらしい。プロシュートが真面目に任務をこなそうとする姿はかっこよくてずっと見ていたいけど、運び屋の体を弄るところをこれ以上見るのは辛くて視線を逸らした。

「まだか?」

イルーゾォは特に手伝いもしないのにプロシュートを急かした。

「一つの袋につき100グラムだ。例え胃の中に入っていたとしても大体4000万リラはする。この健康そうな臓器を売った方がずっと儲かるがよく確認しねえと──もうねえな」

プロシュートが立ち上がって私の方を一瞬だけ確認するように見て、また視線を逸らされてしまった。
任務に真摯な態度で取り組みつつも、私のことを気にかけてくれるプロシュートに惚れ直して見つめていると、ホルマジオに「涎でてるぜ」と笑われた。
多分口が開いてるということだから、慌てて唇をキツく結んだ。
あとの任務は簡単だった。これから殺されることも知らずに、警察や組織を恐れてレントゲンや手術の拒否をしているもうひとりの運び屋のいる病室へ赴き、神父姿のホルマジオを見てビビる運び屋を私のスタンド能力で眠らせ、鏡を置いた。それからは同じ手順通りで、鏡を使って場所を移動し、運び屋の体内から全ての麻薬を回収した。最後にプロシュートが確実にターゲットを殺す為に運び屋を枯らして任務が完了した。
ホルマジオと一緒に麻薬の受け渡しに行ってアジトに戻ると、早速今回の報酬の話になった。麻薬を一つ残らず回収できたからボスから期待額通り支払われるらしくて、実行危険手当てなど鑑みて各々の報酬が決まった。
その場で解散になると、任務前にアジトを出る時に私の格好を見てなかったギアッチョに「そんなシスターがいるかァァ〜?」とつっこまれた。

「メローネが用意したんだから仕方ないよ。むしろ穴空いてないだけマシ」

ずっと邪魔くさかった白頭巾と黒ベールを頭から取って、髪型を手櫛で直しながらギアッチョに答えた。

「なら何故オレを殴った?」

メローネが私の矛盾を指摘するように言ってきたけど、理由は明確だった。

「だって、ガーターベルト渡してきたんだから当然でしょ!ほんっとに変態なんだから!」

メローネから逃げるようにプロシュートの座るソファへ行って、プロシュートの耳元に顔を寄せた。

「私、上で着替えてくるから。終わったら一緒に帰ろ?」

「いや、オレも上に行く」

「なんで……?」

「話がある」

プロシュートの深刻そうな重たい声に不安になりつつも、一緒に2階の自室へ行った。
プロシュートは既に白衣を着ていなかった。上は長袖の白シャツだけで、黒のネクタイを片手で緩めながら私を黙ったまま見つめてきた。

「話って?」

私はプロシュートの不機嫌オーラに気づかない振りをして、シスター用の頭巾とベールをソファに置いて、立ったままプロシュートと向き合った。
何を言われるのか警戒していたのに、不意に頭を掴まれて髪を後ろに持っていくように何度も撫でられながら口付けられた。唇が離れたと思ったら、今度は下唇の端から端までの曲線に沿って歯で噛まれた。いつもより強めで少し痛い。

「プロシュート、今日のこと怒って……んッ」

また唇を塞がれて、ビリビリっという嫌な音を立ててローブの前側を破られていく。

「待って!ここアジト……ぎゃッ!」

体を抱きしめられたかと思うと、持ち上げられてベッドへ運ばれた。プロシュートはネクタイを外してシャツを脱ぎ捨てながらベッドに乗り込んできて、軽いパイプ素材のベッドが軋む。既に階下に音が響いてないか気になって仕方ない。油断していたところへローブの胸元から裾まで裂かれてしまって、露出したガーターベルトとショーツを両手で隠した。

「ねえ、アジトでするのまずいよ!下に響いたらヤだし!」

「うるせえ。邪魔だ」

脚を広げられて両手を掴まれてベッドに押し付けられてしまった。プロシュートのいつもより下がった位置取りに嫌な予感がしていて、脚の間に顔を埋められた瞬間にそれが当たってしまったことを悟った。生温かいプロシュートの息と、湿った柔らかい何かが割れ目の辺りに触れるのを感じる。じんわりと快感の熱が広がって、過去に何度も押し込まれた快感の記憶が膣に蘇り、ひくひくと入口が反射で動いてしまうのが自分でもわかる。

「プロシュート、それやだ……!」

ショーツ越しでも下を舐められるのは凄く気持ちいいけど、恥ずかしくて集中できない。

「ショーツ越しなら舐められた後でもキスできるつったのはオメーだろーがよォ。つーか、既に湿ってねえか?」

割れ目を擦りながらプロシュートに眼を合わせられて意地悪く言われた。

「このシスターの衣装蒸れるから……!」

「ニーハイストッキングで蒸れるかよ。メローネに出されたもんそのまま着てんじゃあねーぞ」

「ロングスカートだと蒸れるの!ね、メローネのことで怒ってるの?」

「あのビョーキ野郎にいちいち怒るかよ、エロシスター!このクソ衣装、体のライン丸わかりじゃあねーかッ!なぜ着るのを拒否しねーんだよッ!ああァッ!?」

「ご、ごめんなさい……」

やっぱりメローネのことで怒ってる、と思ったけど、プロシュートの気迫にびっくりして、反論できなかった。それに確かに私が拒否してもよかったのかもしれない。意見として、この格好では潜入できない、とか言うくらいなら出来た。本当に道端のシスターの衣装をひん剥いて奪う方法もあった。私の能力ならできた。

「そうビビるな。オレはオメーを心配して言ってんだよ」

プロシュートが私の隣に移動してきて、私の眼を見つめながら優しく頭を撫でてくれた。いつもながら飴と鞭の差が激しいけど、全部私に理解させる為とわかってるから嫌じゃないし、飴があまりにも甘過ぎて鞭の痛みなんて吹っ飛んでしまう。

「仕事だからと拒否できなかったならそう言えばいい。だが、仕事でも度が過ぎたもんなら拒否してもいーんだぜ?オレらが代替の方法を提案する。リゾットにもその格好で本当にいいのか聞かれなかったか?」

「あ、聞かれたような……そういえば、リーダーはメローネに『他に衣装はなかったのか?』って聞いてて、私に申し訳なさそうにしてた。私がメローネのこと殴ったからそれで気が済んだことを伝えたら、『その格好はまずいが、羞恥心を表情に出さずに修道女然たる顔つきを心がけろ』ってアドバイスもらった」

「リゾットでもまずいと思ってんじゃあねーか。嫌がりながらも結局受け入れちまうからイルーゾォにもナメられてんだろ?」

「……やっぱり、ナメられてるよね」

イルーゾォにはいつも意地悪されて馬鹿にされる。プロシュートとの給湯室乱闘事件以来、優しくなったところもあるけど。
今までイルーゾォにはちゃんと拒否してきたし、殴ったりもしてたけど、やり方が中途半端だったかもしれない。次からはもっと厳しくしようかと思うけど、嫌われちゃうのは嫌だ。
半裸で私を見つめながら寝そべるプロシュートを見つめ返しながら、プロシュートの硬く引き締まった胸を指の先で撫でた。

「ナマエはイルーゾォのことをどう思っている?」

「どうって、大事な仲間できしょいこと言う高慢ちきかなって」

「それなりに好意を持ってんのか?あいつに女扱いされて嬉しいか?」

プロシュートが鋭い光の宿る瞳で私を真っ直ぐ見つめながら、明らかに怒っている語調で問い詰めてきて、胸が圧迫されるような不安を感じた。

「やだ。プロシュート、なんか怖い……」

寝そべったままこんな話をできるわけがなくて、半身を起こして破れたシスターローブの前をかき合わせた。プロシュートも同様に私と向き合うように上体を起こし、私を裁くような眼で見てくる。

「ハッキリ言う。オレがあいつと殴り合ったことを知った上で、オメーがあいつに構ってるのは正気を疑う」

プロシュートの言うことは確かに最もで、ハッとさせられた。気をつけようと思えたけど、私にも言い分はあった。

「イルーゾォの顔拭いてあげてたことだよね?あれはイルーゾォがまたプロシュートを挑発しないように牽制したかったのと、イルーゾォに伝えたいことがあって……」

「オメーがホルマジオと先に受け渡しに行った後にそのことをあいつに聞いた。あいつには愛の言葉を囁かれた、っつーわかりやすい嘘を言われたが実際は何を言った?」

プロシュートが距離を詰めてきて、私の首筋に手を当てて、瞳を注意深く見つめてきた。
プロシュートには言うつもりなかったし、こんな至近距離で言える内容でもない。

「えっと……恥ずかしいんだけど……」

「言え」

「プロシュートのこと、愛してるから邪魔しないでって……」

「あいつにそんなこと言ったのか……」

プロシュートの瞳は珍しく揺れて動揺しているみたいで、その様子から私がイルーゾォに気があるのか本気で疑ってたことがわかって悲しくなった。

「うん」

「そうか……疑って悪かったな。あいつには暴力よりナマエの本心の方がキツいかもな」

「……本当のこと言っていい?私、皆のこと大好きだから好意的にされるの凄く嬉しいの。嫌なのはセクハラとセクハラ発言で、でも、もしかしたら、自分では気づかないうちに心のどこかでは構ってもらってる嬉しさはあるのかもしれない……」

関わり方は嫌だけど、相手にしてもらえてるだけ嬉しくて、最近のイルーゾォとの関係みたいにあんまり話さなくなるのは嫌かもしれない。

「そういうことなら、無理してイルーゾォに冷たくしなくていい。ナマエが嫌がることは強要したくねえ」

「でも、またセクハラしてきたら?」

「オレを呼べ」

「それ、喧嘩始まるよね……?」

「始まるな。さてと、中断して悪かったな」

「中断?あっ……」

真面目で深刻な話をしていて、すっかり忘れていた。
プロシュートに唇を奪われ、ベッドを背に押し倒された。破られたローブは邪魔だと脱がされて放り投げられ、下着はブラを付けたままショーツだけを脱がされて全身を愛撫された。ショーツを穿いてないのにガーターベルトやストッキングに、ガラス細工のロザリオを付けたままの格好に羞恥心を煽られる。体のあちこちにキスを落とされるけど、アジトだから声を出せないし、皆に気づかれたら、という不安で体が固くなる。プロシュートはそれを感じ取ってくれたのか、唇に深くていやらしいキスをずっとしながら膣を解してくれた。お陰で声は全てプロシュートの唇に吸い取られ、緊張は濃厚な唇と舌の交わりでフッ飛んだ。残ったのは皆がまだいるかもしれないアジトで事に及ぶ背徳感で胸が高鳴る。

「うつ伏せで寝ろ」

プロシュートがベルトを外してスラックスを下ろし始めるのを見て眼を逸らした。もうすぐ挿れられちゃうという予感だけで胸がいっぱいになる。

「なんで?」

「口塞いでやるから」

「どうやって?」

「やればわかる」

言われるままうつ伏せになって寝転んで顔を片側に向けると、プロシュートに上に乗られて少し体重をかけられた。

「重くねえか?」

「このくらいなら我慢できるよ」

「辛かったら暴れていいからな」

「うん……んんーッ!」

後ろから回された手で口を塞がれ、脚の間に性器を押し込まれた。
体重を少しかけられてる上に口を大きな手で塞がられて、息苦しくなる。でも、後ろから抱きしめられるような体勢に、素肌同士の密着もあって幸せな気持ちになるし、無理やりされてるみたいでこれはこれでちょこっと興奮するかも。
上から押し潰すように何度も奥へと押し込まれて、いつもと違う角度で、いつもと違うところを擦られて、いつもと違う快感に身体の芯が熱くなってくる。

「ナマエ、どうだ?これなら声が外に聞こえなくていいだろ?」

耳に唇を寄せられて低い掠れ声で囁かれ、頭が蕩けてしまいそう。
声が出ないのがいいことだけど、もし返事ができるなら、ベッドがギシギシと軋んだ音を立てていることを指摘したかった。多分階下に響いてる。皆帰ってるといいけど、隣の部屋とかに誰かいたら嫌だし、もし下に誰かいたらどんな顔して会えばいいのかわからない。
プロシュートは気づいてるのか気づいていないのか、ベッドの軋む音なんかお構いなく、容赦なく腰を打ちつけてきて私も段々ベッドの軋みを気にしている余裕がなくなってきた。というか、もうどうでもいいかも。



*



プロシュートと一緒に部屋にあるタオルで汗を拭いて、身なりを綺麗に整えた。いつも通りの服に着替えたのは勿論、髪や化粧をちゃんと直してから、プロシュートに事後感がないか確認するように観察した。やっぱり髪が乱れてて、シャツもちょっとくたびれている感じがする。耳と首筋がまだ赤いし、なんかやらしくて事後感が凄い。

「髪乱れてる」

「ああ。これでどうだ?」

「うん。かっこいい。ネクタイちゃんと締めない?」

「熱いからいらねえ」

「そう……じゃあ、家帰ろっか」

「夕飯はどうすんだ?」

「どうしよっか。あ、そういえば、まだ冷蔵庫に食材残ってるから今日は家で一緒に作ろ?」

「それでいいか」

部屋を出た時点で階下からテレビの音が聞こえて来ていた。
プロシュートと階下に下りると、居室に皆がいて大音量でサッカーを観ながら酒盛りして騒いでいる。ちょうど贔屓のチームが得点されたみたいでホルマジオが敵チームの9番を殺せ、とキレ散らかしてる。

「皆、まだいたの?テレビの音うるさいよ」

「おめーらがギシギシうるせーからだよッ!家でやれってんだよォォォ!クソッ!完全に事後みたいな面しやがって、早く帰れよッ!」

ギアッチョに指摘されて凄くバツが悪かった。やっぱり、下にまで響いてたんだ。もうやだ。快感に負けた自分が恥ずかしい。
でも、ただ一つ、ギアッチョの指摘で納得がいかないことがあった。

「私、いつも通りでしょ……」

「うるせェーッ!雌猫みてえな面しやがってッ!とっとと帰りやがれッ!」

「雌猫みたいな面ってなに?あ、やっぱ言わなくていい!もう帰る!」

皆に上で何をしていたかバレた今、早くアジトから出て行きたかった。
プロシュートと一緒に外に出て、プロシュートの顔を見つめた。別にプロシュートの顔には事後感を感じない。あるとしたら、ちょっと肌に赤みが差しているところくらいだ。そもそも事後感のある顔ってなんだろう。

「私の今の顔ってえっちした後みたい?」

「わかんねえが、オレが見る時はいつもそんなだしな」

「じゃあ、ギアッチョの眼がおかしいのかな」

「だろうな。眼鏡の度が合ってねーんだろ」

「そっか……でも、恥ずかしいな。皆に聞かれてただなんて……」

「オレは別に構わねえよ。あいつらもすぐに忘れるだろ」

「だといいけど」

翌日、メローネから貰った破れたシスターローブとかガーターベルトとかの一式の処分の為にひとりでアジトに行くと、メローネにギアッチョ、ホルマジオとイルーゾォがいた。

「メローネ、ローブとか返さなくていいよね?」

「ああ。ナマエが個人的に使いたいなら好きにしていい」

「個人的には使わないけど、まあ好きにさせてもらうね」

ちらりとギアッチョに眼を向けると、沈黙のまま私の顔を見つめて来て、それから怒りに顔を歪めていく。思い当たることのない怒りを向けられて、わけがわからなくなった。

「チクショォォォォ!またてめーは今朝から抱かれたような面しやがって!」

「だからどんな面なの!?ギアッチョには何が見えてるの!?」

「ギアッチョと違って見た目の変化は膣を確認しないとわからんが、オレは匂いでわかるな」

「怖っ!ふたりともなんなの!?怖いし、変態!」

「ギアッチョとメローネの言ってることはわかんねーが、おれとヤった女は大抵涙とか鼻水とか涎まみれの顔になるぜ」

「きったな!それ変なクスリ使ってるでしょ!」

イルーゾォには前から薬物使用疑惑を持ってたけど、たった今疑惑が確信に変わった。絶対女の子のお腹とか背中に粉乗せて吸ってる。

「オレは女に2、3個質問したらわかるぜ。今朝、プロシュートとヤったろ?」

「っぐ……」

ホルマジオの直球過ぎる質問に図星で答えられなかった。

「質問1個で余裕だったな……」

「もう皆変態なんだから!私の顔見るのも匂い嗅ぐのも質問するのもやめて!」

いたたまれなくなって逃げるようにアジトを出てから、用事を終わらせてないことに気づいたけど、もう当分はアジトに行きたくなくて引き返すのはやめた。

「随分と帰りが早ェーじゃあねーか」

自宅に帰ると、居間でコーヒーを飲みながら新聞を読んでいたプロシュートに、帰路で考えていたことをぶつけてみることにした。

「もうアジトに行く予定のある日はえっちやめよう」

パサリと音を立てて新聞が床に落ちた。

「プロシュート、新聞落ちたよ」

「どういうことだ?あいつらに何か言われたのか?」

「ギアッチョがまた──」

わけを話すと、プロシュートはギアッチョの眼鏡を割りにいくと言ってそのまま出て行ってしまい、少しだけギアッチョの安否が気になったけど、私は別に聖女じゃないから止める気は全然起きなかった。
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