partenza end
※離脱死亡end1
※原作終了から半年後くらい
※恥パ要素有り
私には友達や家族と呼べる人がいない。いるのは恋人と愛猫だけ。恋人とは飽きもせず週に何度もにお互いを求めて性行為に耽っている。それなのに私の心は全然満たされず、どんなに愛の言葉を囁かれても、どんなに激しいキスをされてもずっと孤独を感じ続けている。
恋人はとても良い人だ。優しくて、私のことを愛してくれている。なのに、私の心はいつも空っぽで穴が空いたように何か底が抜け落ちているのだ。恐らく、どうしても思い出せない記憶のせいだ。私にはかつて大切な人がいたはずなのに、思い出せないのだ。姿形も思い出せない。それが男性なのか女性なのか。年上なのか年下なのか。それすらも思い出せない。思い出したいのに思い出せない。そのせいで負の感情だけが常に私の中に渦巻いていて、ひと時も安らぐことができない。日々満たされない心を抱えたまま生きている。
*
ローマの西、ラツィオ州の北側にある小さな町で私は恋人と暮らしている。家の近くにはリゾートビーチがあり、夏には国内旅行者でいっぱいになる。
季節は秋。今日の最低気温は18度でまだそこまで寒くはない。朝5時ごろに恋人のいるベッドから抜け出して、日課の愛猫の散歩をしにリゾートビーチへ足を運んだ。愛猫は猫の癖に泳ぎが大好きで、水温が低い時は泳がずに波打ち際をいつも散歩していた。18度といっても海は風があって寒いのでジャケットを羽織り、首にはストールを巻いていて、下はクロップドパンツで靴はビーチサンダルというヘンテコな格好で歩いている。
9月の中旬頃まではこんな早朝から砂浜をマラソンしている人がいたけれど、流石に9月の終わり頃からはそんな人もいなくなった。たまに私と同じように散歩している人を見るくらいだ。
愛猫のシーノくんはまだちっちゃくて、ふわふわでとっても可愛い子だ。でもびっくりする程力強く、首輪にかけたリードをグイグイ引っ張るように私の少し先を行く。
ふと、ずっと向こうに人影が見えた。真っ黒い人影だ。それが段々こちらへ近づいてきて、それが金色の巻毛に黒いスーツに身を包んだ男の子であることに気づいた。
彼は私に用があるように私の方をまっすぐ見て近づいてくる。砂浜の上を革靴で歩き、靴の中まで砂が入っているというのに気にする素振りも見せない。
「こんにちは」
3メートル程先で男の子は穏やかな笑みで挨拶をしてくれた。ザザァという打浜辺に打ち寄せる波の音で少し拾いづらかったけれど、よく通る声でなんとか聞き取れた。
「こんにちは」
「ナマエさん、ですよね?」
「そうですけど……」
全く知らない男の子に声をかけられてさらに名前を知られているという事実に戸惑った。
「ようやく見つけた。探すのが大変だった──正確にはあなたの記憶を消した人を探すのに手間取った、かな。彼を見つけて拷問したら直ぐにあなたの居場所をはいたよ。たった1回死と同じ苦しみを味合わせただけで、すぐに参ってね……ああ、あなたは記憶を無くしていることには気づいていますよね?」
何がなんだかわからなかった。この人は私の知り合いを拷問したと言っているけど、私に知り合いはいない。私には恋人と愛猫しかいない。もしかしたら、その人は私が忘れている大事な人かもしれないけど、そんなことよりも、身の危険を感じて愛猫を引き寄せて抱き上げた。4本の小さな手足から濡れた砂がジャケットに付着する感覚がするけど、目線は彼から外さない。
「意味がわからないんですけど……」
「まずは記憶を取り戻すことから始めないと駄目なようですね。彼を殺せば早いんだろうけど、彼はまだ死ぬべき人ではない……ああ。申し遅れました。僕はジョルノといいます」
「ジョルノ……」
ジョルノという名前に何か引っかかった。ジョルノ、ジョルノ。ブォン・ジョルノのジョルノだからかな。
「半年くらい前かな。僕は組織のボスとして正体を明かしました」
「組織?組織ってギャングの?」
この国において、ギャングというものは地域と密接に繋がっていた。大手企業や政府高官は彼らと癒着し、殆どの町のお店では組織の援助を受けたり、逆に上納金を納めたりしている。浮浪者さえも金銭目的に彼らと協力していた。
「なるほど。組織の記憶も無いと。これは面倒だな……では、この写真をお見せしましょう」
ジョルノは胸元から2枚の写真を取り出した。1枚は黒巾を被った銀髪の男、もう1枚は──
「あなたと彼らの関係は調査済みです。この頭巾の男がリゾットという暗殺チームのリーダー、もうひとりのスーツの……」
「あ……あ……」
名前を言わずともその写真で思い出した。まるで灰色の世界に色がついていくように、靄がかかっていた記憶がはっきりとしてきた。
そうだ。私は彼らのチームにいて、私は彼らの仲間だった。ずっと探していた、追い求めていた記憶が手に入ったのに、残念なことに気がついた。
「この感情、一生消えないよ……」
愛猫をぎゅうっと抱きしめた。
悲しくて寂しくて苦しいという負の感情だけを抱えて生きてきたのに、記憶を取り戻せばその感情が消えると思ったのに。
彼らは確実に死んだ。もう戻らない。一生戻らないのだ。私は一生負の感情を抱えて生きていくしかない。もう今後この心の穴が埋まることはない。底抜けのままだ。
「やはり本体が弱っていると、記憶の戻りも早いようだな。確かあなたが暗殺チームを離反したのは4月3日か……では、このリゾット・ネエロが死んだのはご存知ありませんね?」
目の前のヤツが生きている時点でそんな気はしていた。リーダーはやっぱり亡くなってしまったんだ。一体誰がやったのだろう。あんなに強かったリーダーを一体誰が。私の意思に反して無理やり私の記憶を消し去り、チームから私を追い出した、誰よりも冷酷で誰よりも優しい心を持つ人を、一体誰が。
激しい怒りが体を駆け巡り、頭の血管が拡張して痛みを覚える。今にも血管が切れそう。
「思い出したよ、ジョルノ・ジョバァーナ。私の殺しリストの上位にいる男」
「穏やかじゃあないですね。ですが、まずは話を聞いてほしい。僕はあなたにチャンスをあげにきたんです」
「チャンス……?」
「そう、チャンス。あなたが裏切ったのは暗殺チームで、僕の統率するパッショーネではない。僕としてはあなたが僕に忠誠を誓えば、あなたの仲間がやらかしたことには眼を瞑り、あなたを僕の部下として迎え入れようと思う。ですが、あなたのチームが僕たちを襲ってきた時点であなたは裏切り者のチームにいた。だから、簡単には信頼できない。忠誠を誓う権利を獲得する為に、あなたにはまず、今から僕の下す任務についてほしい」
「あんたが今、ボスなんだ……」
確かジョルノ・ジョバァーナは護衛チームの新入りだった。それが今更ボスの正体である訳がない。トリッシュ・ウナの存在が説明できなくなる。つまり、前のボスは──
「そうです。前のボスは僕が倒しました。表向きは僕が最初から組織のボスになっているんですよ。これを知っているのは僕の側近と──」
「誰が知っているとかそんなのどうでもいい。あんたを今殺す。仇を取る……私の心の穴は埋まらないけど……私には仇を取ること以外の考えはないよ」
「……あなたには今、恋人がいるようですね。その男にその穴埋めてもらうことは可能なんじゃあないですか?」
「何を言っているの……?私の愛した人も大事な仲間達もあんた達は殺したんだよ!シーノくん、行って!」
愛猫のリードを離し、砂浜に下ろしてお尻を叩いて逃げるように促した。恋人のところへ戻ってくれれば嬉しい。
「ああ、それは彼らが襲ってきたからです。殺そうとしてくる相手を殺すのは当然では?彼らは逆に殺されてもいいという覚悟があって襲ってきた訳ですよね?それで、ここからが重要な話です。いいですか?よく聞いてください。死は永遠だと思いますか?僕はそうは思わない。死んだら永遠の輪から外れる。それ以上はない。だが、永遠であるこの世界で生きているあなたの中では、彼らの人格的生命は生きている。そう、あなたの中で生きているんですよ──言っている意味がわかりますか?全滅した他の仲間はあなたの中で生きているんだ。確かに存在しているでしょう。あなたはそれを手放すんですか?あなたがいなくなれば、彼らは今度こそ本当に死ぬ」
ジョルノの言っていることは抽象的でよくわかんないし、めちゃくちゃなことを言っている。
私が知っているのは、彼らは亡くなったけど、確かに存在していて私の心を埋めてくれたこと。そして、その存在の抹消によって私の心に大きな穴を開けて去っていった。
「意味わかんない!そんなのはどうでもいい!あの人達はもう死んだの!戻らないの!」
「それでいいのかな。確か──ああ、例えばの話ですけど──イルーゾォといったかな。彼には、いや、彼にも結構苦労させられたのですが、嫌な暗殺能力でしたね。僕だって、容姿や能力はよく覚えてますよ。ですが、もう誰も彼がどんな人間なのか、何を目標として生きていたのか、何が趣味で、どんな音楽が好きだったのかも知らない。知りようがないんだ。ただ僕たちに殺された組織の裏切り者ってだけだ。でも、彼が本当はどんな人物だったのかってあなただけが知っていることじゃあないですか?」
確かに知っている。恐らく私だけが知っているかもしれない。全員の顔も名前も趣味も趣向も。それにどんな人たちかと聞かれたらすぐに答えることができる。
しょうがねぇなぁが口癖の面倒見のいい人、私の体をいつも触ってくる高慢ちきな人、本当は強いのに泣き虫な男の子、私を母体として見てた変態、すぐキレるけど付き合いのいい人、冷酷のように見えて誰もよりも優しい心を持つ人、そして──私を大切に扱ってくれた私の愛した人。
でも、そんなことは最早どうでもいい。記憶とかそういうのがあって何の役に立つの?その記憶のせいで苦しむだけだ。
「そんなの……そんなの知らない!重要なのはあんたたちが彼らを私から奪ったことなんだよ!ねえ、私の気が済まないの!仇をとりたいの!だって、あんたは私のリストの上位にいるんだもの……!私の殺しリストにいる人間は絶対殺す!『Ninna nanーー』」
スタンドを発現させて歌い出した。でも、もう結果はどうなるか知っていた。ジョルノがふらつくよりも前に、ジョルノからまるで分身が出てきたように黄金色のスタンドが現れた。彼のスタンドは一瞬にして私のスタンドを捉えて、首を絞めていく。
「っ……」
喉がきゅうっと鳴ってしまっていく。息がしにくい。胸が塞がっていく感覚がする。
「……できれば、あなたを重要な任務にいかせたかった。凄く重要で大変な任務にね。何せ相手はあの麻薬チーム。僕も恐れるほどの超危険人物がいるんだ。あなたのように死んでもいい駒を使いたかった。だから、説得の為に僕がわざわざ来たんだ。でも、あなたには無理な話だったみたいだ。あなたのことをよく知っている人物からあなたがどんな人か聞き出せていたら、僕の部下に殺させたのに。あなたのことをよく知る人がもう誰ひとりいないとはね。全く、無駄な時間だった。無駄無駄……無駄な労力を使ったな」
意識が薄れていく。喉に穴が空く感覚がした。呼吸が完全にできなくなった。腕も上がらない。時期に脳の機能も停止して、完全に死ぬだろう。死を前にして真っ先に思い浮かぶのはあの人の顔で、それから先に死んでいった仲間の顔と私が残していってしまう大事な宝物。恋人のことなんて少しも考えなかった。
もうすぐ彼らのところへ行けるのなら、ずっと抱えてきた感情はもう要らなくなるね。あーあ。最後にジョルノだけでも消したかったな。ごめんね、皆。仇、取れなかったよ。
「さようなら、暗殺チーム」
※原作終了から半年後くらい
※恥パ要素有り
私には友達や家族と呼べる人がいない。いるのは恋人と愛猫だけ。恋人とは飽きもせず週に何度もにお互いを求めて性行為に耽っている。それなのに私の心は全然満たされず、どんなに愛の言葉を囁かれても、どんなに激しいキスをされてもずっと孤独を感じ続けている。
恋人はとても良い人だ。優しくて、私のことを愛してくれている。なのに、私の心はいつも空っぽで穴が空いたように何か底が抜け落ちているのだ。恐らく、どうしても思い出せない記憶のせいだ。私にはかつて大切な人がいたはずなのに、思い出せないのだ。姿形も思い出せない。それが男性なのか女性なのか。年上なのか年下なのか。それすらも思い出せない。思い出したいのに思い出せない。そのせいで負の感情だけが常に私の中に渦巻いていて、ひと時も安らぐことができない。日々満たされない心を抱えたまま生きている。
*
ローマの西、ラツィオ州の北側にある小さな町で私は恋人と暮らしている。家の近くにはリゾートビーチがあり、夏には国内旅行者でいっぱいになる。
季節は秋。今日の最低気温は18度でまだそこまで寒くはない。朝5時ごろに恋人のいるベッドから抜け出して、日課の愛猫の散歩をしにリゾートビーチへ足を運んだ。愛猫は猫の癖に泳ぎが大好きで、水温が低い時は泳がずに波打ち際をいつも散歩していた。18度といっても海は風があって寒いのでジャケットを羽織り、首にはストールを巻いていて、下はクロップドパンツで靴はビーチサンダルというヘンテコな格好で歩いている。
9月の中旬頃まではこんな早朝から砂浜をマラソンしている人がいたけれど、流石に9月の終わり頃からはそんな人もいなくなった。たまに私と同じように散歩している人を見るくらいだ。
愛猫のシーノくんはまだちっちゃくて、ふわふわでとっても可愛い子だ。でもびっくりする程力強く、首輪にかけたリードをグイグイ引っ張るように私の少し先を行く。
ふと、ずっと向こうに人影が見えた。真っ黒い人影だ。それが段々こちらへ近づいてきて、それが金色の巻毛に黒いスーツに身を包んだ男の子であることに気づいた。
彼は私に用があるように私の方をまっすぐ見て近づいてくる。砂浜の上を革靴で歩き、靴の中まで砂が入っているというのに気にする素振りも見せない。
「こんにちは」
3メートル程先で男の子は穏やかな笑みで挨拶をしてくれた。ザザァという打浜辺に打ち寄せる波の音で少し拾いづらかったけれど、よく通る声でなんとか聞き取れた。
「こんにちは」
「ナマエさん、ですよね?」
「そうですけど……」
全く知らない男の子に声をかけられてさらに名前を知られているという事実に戸惑った。
「ようやく見つけた。探すのが大変だった──正確にはあなたの記憶を消した人を探すのに手間取った、かな。彼を見つけて拷問したら直ぐにあなたの居場所をはいたよ。たった1回死と同じ苦しみを味合わせただけで、すぐに参ってね……ああ、あなたは記憶を無くしていることには気づいていますよね?」
何がなんだかわからなかった。この人は私の知り合いを拷問したと言っているけど、私に知り合いはいない。私には恋人と愛猫しかいない。もしかしたら、その人は私が忘れている大事な人かもしれないけど、そんなことよりも、身の危険を感じて愛猫を引き寄せて抱き上げた。4本の小さな手足から濡れた砂がジャケットに付着する感覚がするけど、目線は彼から外さない。
「意味がわからないんですけど……」
「まずは記憶を取り戻すことから始めないと駄目なようですね。彼を殺せば早いんだろうけど、彼はまだ死ぬべき人ではない……ああ。申し遅れました。僕はジョルノといいます」
「ジョルノ……」
ジョルノという名前に何か引っかかった。ジョルノ、ジョルノ。ブォン・ジョルノのジョルノだからかな。
「半年くらい前かな。僕は組織のボスとして正体を明かしました」
「組織?組織ってギャングの?」
この国において、ギャングというものは地域と密接に繋がっていた。大手企業や政府高官は彼らと癒着し、殆どの町のお店では組織の援助を受けたり、逆に上納金を納めたりしている。浮浪者さえも金銭目的に彼らと協力していた。
「なるほど。組織の記憶も無いと。これは面倒だな……では、この写真をお見せしましょう」
ジョルノは胸元から2枚の写真を取り出した。1枚は黒巾を被った銀髪の男、もう1枚は──
「あなたと彼らの関係は調査済みです。この頭巾の男がリゾットという暗殺チームのリーダー、もうひとりのスーツの……」
「あ……あ……」
名前を言わずともその写真で思い出した。まるで灰色の世界に色がついていくように、靄がかかっていた記憶がはっきりとしてきた。
そうだ。私は彼らのチームにいて、私は彼らの仲間だった。ずっと探していた、追い求めていた記憶が手に入ったのに、残念なことに気がついた。
「この感情、一生消えないよ……」
愛猫をぎゅうっと抱きしめた。
悲しくて寂しくて苦しいという負の感情だけを抱えて生きてきたのに、記憶を取り戻せばその感情が消えると思ったのに。
彼らは確実に死んだ。もう戻らない。一生戻らないのだ。私は一生負の感情を抱えて生きていくしかない。もう今後この心の穴が埋まることはない。底抜けのままだ。
「やはり本体が弱っていると、記憶の戻りも早いようだな。確かあなたが暗殺チームを離反したのは4月3日か……では、このリゾット・ネエロが死んだのはご存知ありませんね?」
目の前のヤツが生きている時点でそんな気はしていた。リーダーはやっぱり亡くなってしまったんだ。一体誰がやったのだろう。あんなに強かったリーダーを一体誰が。私の意思に反して無理やり私の記憶を消し去り、チームから私を追い出した、誰よりも冷酷で誰よりも優しい心を持つ人を、一体誰が。
激しい怒りが体を駆け巡り、頭の血管が拡張して痛みを覚える。今にも血管が切れそう。
「思い出したよ、ジョルノ・ジョバァーナ。私の殺しリストの上位にいる男」
「穏やかじゃあないですね。ですが、まずは話を聞いてほしい。僕はあなたにチャンスをあげにきたんです」
「チャンス……?」
「そう、チャンス。あなたが裏切ったのは暗殺チームで、僕の統率するパッショーネではない。僕としてはあなたが僕に忠誠を誓えば、あなたの仲間がやらかしたことには眼を瞑り、あなたを僕の部下として迎え入れようと思う。ですが、あなたのチームが僕たちを襲ってきた時点であなたは裏切り者のチームにいた。だから、簡単には信頼できない。忠誠を誓う権利を獲得する為に、あなたにはまず、今から僕の下す任務についてほしい」
「あんたが今、ボスなんだ……」
確かジョルノ・ジョバァーナは護衛チームの新入りだった。それが今更ボスの正体である訳がない。トリッシュ・ウナの存在が説明できなくなる。つまり、前のボスは──
「そうです。前のボスは僕が倒しました。表向きは僕が最初から組織のボスになっているんですよ。これを知っているのは僕の側近と──」
「誰が知っているとかそんなのどうでもいい。あんたを今殺す。仇を取る……私の心の穴は埋まらないけど……私には仇を取ること以外の考えはないよ」
「……あなたには今、恋人がいるようですね。その男にその穴埋めてもらうことは可能なんじゃあないですか?」
「何を言っているの……?私の愛した人も大事な仲間達もあんた達は殺したんだよ!シーノくん、行って!」
愛猫のリードを離し、砂浜に下ろしてお尻を叩いて逃げるように促した。恋人のところへ戻ってくれれば嬉しい。
「ああ、それは彼らが襲ってきたからです。殺そうとしてくる相手を殺すのは当然では?彼らは逆に殺されてもいいという覚悟があって襲ってきた訳ですよね?それで、ここからが重要な話です。いいですか?よく聞いてください。死は永遠だと思いますか?僕はそうは思わない。死んだら永遠の輪から外れる。それ以上はない。だが、永遠であるこの世界で生きているあなたの中では、彼らの人格的生命は生きている。そう、あなたの中で生きているんですよ──言っている意味がわかりますか?全滅した他の仲間はあなたの中で生きているんだ。確かに存在しているでしょう。あなたはそれを手放すんですか?あなたがいなくなれば、彼らは今度こそ本当に死ぬ」
ジョルノの言っていることは抽象的でよくわかんないし、めちゃくちゃなことを言っている。
私が知っているのは、彼らは亡くなったけど、確かに存在していて私の心を埋めてくれたこと。そして、その存在の抹消によって私の心に大きな穴を開けて去っていった。
「意味わかんない!そんなのはどうでもいい!あの人達はもう死んだの!戻らないの!」
「それでいいのかな。確か──ああ、例えばの話ですけど──イルーゾォといったかな。彼には、いや、彼にも結構苦労させられたのですが、嫌な暗殺能力でしたね。僕だって、容姿や能力はよく覚えてますよ。ですが、もう誰も彼がどんな人間なのか、何を目標として生きていたのか、何が趣味で、どんな音楽が好きだったのかも知らない。知りようがないんだ。ただ僕たちに殺された組織の裏切り者ってだけだ。でも、彼が本当はどんな人物だったのかってあなただけが知っていることじゃあないですか?」
確かに知っている。恐らく私だけが知っているかもしれない。全員の顔も名前も趣味も趣向も。それにどんな人たちかと聞かれたらすぐに答えることができる。
しょうがねぇなぁが口癖の面倒見のいい人、私の体をいつも触ってくる高慢ちきな人、本当は強いのに泣き虫な男の子、私を母体として見てた変態、すぐキレるけど付き合いのいい人、冷酷のように見えて誰もよりも優しい心を持つ人、そして──私を大切に扱ってくれた私の愛した人。
でも、そんなことは最早どうでもいい。記憶とかそういうのがあって何の役に立つの?その記憶のせいで苦しむだけだ。
「そんなの……そんなの知らない!重要なのはあんたたちが彼らを私から奪ったことなんだよ!ねえ、私の気が済まないの!仇をとりたいの!だって、あんたは私のリストの上位にいるんだもの……!私の殺しリストにいる人間は絶対殺す!『Ninna nanーー』」
スタンドを発現させて歌い出した。でも、もう結果はどうなるか知っていた。ジョルノがふらつくよりも前に、ジョルノからまるで分身が出てきたように黄金色のスタンドが現れた。彼のスタンドは一瞬にして私のスタンドを捉えて、首を絞めていく。
「っ……」
喉がきゅうっと鳴ってしまっていく。息がしにくい。胸が塞がっていく感覚がする。
「……できれば、あなたを重要な任務にいかせたかった。凄く重要で大変な任務にね。何せ相手はあの麻薬チーム。僕も恐れるほどの超危険人物がいるんだ。あなたのように死んでもいい駒を使いたかった。だから、説得の為に僕がわざわざ来たんだ。でも、あなたには無理な話だったみたいだ。あなたのことをよく知っている人物からあなたがどんな人か聞き出せていたら、僕の部下に殺させたのに。あなたのことをよく知る人がもう誰ひとりいないとはね。全く、無駄な時間だった。無駄無駄……無駄な労力を使ったな」
意識が薄れていく。喉に穴が空く感覚がした。呼吸が完全にできなくなった。腕も上がらない。時期に脳の機能も停止して、完全に死ぬだろう。死を前にして真っ先に思い浮かぶのはあの人の顔で、それから先に死んでいった仲間の顔と私が残していってしまう大事な宝物。恋人のことなんて少しも考えなかった。
もうすぐ彼らのところへ行けるのなら、ずっと抱えてきた感情はもう要らなくなるね。あーあ。最後にジョルノだけでも消したかったな。ごめんね、皆。仇、取れなかったよ。
「さようなら、暗殺チーム」