del'incontro ep3



同日午後6時過ぎ。地図を頼りにサン・リバリオ通りでタクシーを降りて、メローネさんのいる総合病院に向かった。
病院の壁は象牙色でまるで美術館のようなルネサンス様式に近い形をとった造りになっている。駐車場のある中庭のベンチにメローネさんが座っていて、背中を大きく丸めてパソコンに何か打ち込んでいる。
フードを深く被り、メローネさんの目の前で立ち止まった。

「メローネさん、あの、新入りのナマエっス。何してるんスか?」

「あっあっ!黙ってくれ!今任務中なんだ」

メローネさんは光沢のある革手袋をはめた片手を私の方にスッと伸ばして、黙れと合図してきた。
ホルマジオさんには逃げられ、その次は黙れか。リーダーの言う通り、皆私のことを認めない雰囲気だし、そもそも認めようとする姿勢すら見せない。
メローネさんの隣にぺたんと座り込みパソコンの画面を覗き込むと、何やら誰かとメッセージのやり取りをしている。
画面を暫く見ていると、ターゲットを見つけたや、殺せという文字が眼に止まる。

「これってスタンドと会話してるんスか?スタンドを遠隔操作できるんスか?」

黙れと言われたけれど、つい気になって聞いてしまった。

「ああ。と、どうやら3人とも殺したようだな。"息子(ジュニア)"よ、よくやったぞ〜!さて、任務は終わったから帰るか」

「え?もうっスか?あの、メローネさん……」

「メローネでいい。シニョールとかそういうのはいらない。ギアッチョがそろそろ来る頃だ。直帰だよな?」

「えっと、わからないっス……」

そういえば、アジトに戻ってこいとは言われていない。帰っていいのかな。

「何も言われてないなら、帰るといい。どうせ報酬の話は明日になる。とりあえず、外に出るぞ」

メローネが立ち上がるので私も立ち上がると、直立不動で暫く私を見つめてきた。なんだろうと首を傾げていると、徐に腰からお尻にかけてのラインを探るように触られた。

「ちょっと!何スか?」

勝手に体を触られた怒りより、驚きの方が強くて聞いた。スタンド攻撃の前段階とも取れる程、脈絡のない行動だったから警戒してしまう。

「なんだかイマイチだな……年齢は?」

「お酒は飲める歳っスけど、なんなんスか……?」

体を触ってきた割には私に興味のなさそうな態度をしていて、戸惑う。やはりスタンド攻撃の一環にみえる。

「今度生年月日がわかるものを持ってきてくれ。誤魔化されると面倒だからな。ちょうどいい"母体"がない時におまえを使わせてくれ。リゾットは殺していいと言ったのはありがたい」

「はい?殺していいって……私を殺すんスか?」

「おまえを殺す意志は今のところないが"息子(ジュニア)"がそうしたいと思ったらそうなる……おっと、ギアッチョからだ」

メローネが電話に出ている間、このメローネの言っている意味をよく理解しようとした。けど、無理だった。とりあえず、私に攻撃してきたホルマジオさんも攻撃の意思がありそうなメローネも要注意だ。
それから電話を切ったメローネが外に出ると言うので中庭を抜けて、路上駐車だらけの道に出た。
メローネは先を歩きながら電話でリーダーに任務が完了したことを伝えていて、私はそれを聞きながらついて行った。不格好な十字路に着くと、そこでしばらく待った。数分後に両サイドに止まっている車やバイクの間を猛スピードで駆け抜けてくる赤いオープンカーが一度目の前を通り過ぎてからバックしてきた。

「おい、メローネェ!早く乗れ!」

運転席にはアイスブルーの癖の強い髪に赤い眼鏡を掛けた男の人がいて、近くにいるのに大声で叫ぶ。この人がギアッチョさんかな。

「乗るぞ」

「乗るぞってこれふたり用なんですけど……」

この車が来た時点で、私への虐めだと思っていた。ふたり用だからひとりで帰れ、と言われるものだと思っていたのに、乗るぞ、と言われて戸惑った。
メローネは車のドアを開け、助手席のシートを後ろの方へ下げると、手招きした。

「助手席の下に座れ」

「え?」

「いいから早く」

言われるままに窮屈な助手席の下──床に膝を抱えるようにして座ると、メローネが私の両サイドに脚を伸ばして助手席に座る。体が常にメローネの脚に当たって凄く狭いし、頭にメローネの股間が当たらないように意識しなくちゃなのがキツい。というか、これってーー

「違法じゃあ……?」

「ギャングのオメーが法律とか関係ねーだろーが」

メローネの言う通りギャングだから色々違反しまくってるけど、今回の場合オープンカーだと外から丸見えで警察に咎められる可能性があって面倒なだけだ。ただここで反論すると面倒なことになりそうなので、警察に捕まっても知らないということで文句は言わないことにする。

「家はどの辺だ?」

「えーと、ぼかして言うと、プレビシート広場の辺りっス。近くに噴水があるとこっス」

「だとよ。ギアッチョ、早く出せ」

「あいよッ」

車が急発進して十字路の角を曲がり、通りを走り抜けていく。風でフードを取れかけるのを両手の指で引っ張った。

「その女使えたのか?」

ギアッチョさんが運転しながらも顔はこちらに向けてメローネに聞く。前見て欲しい。

「いや、こいつが来る頃には任務は終わっていたからよくわからない。だが、リーダーが殺してもいいと言ったからいずれ母体として使わせてもらう」

「おい、能力者を母体にって大丈夫なのか?」

「さあな。体格が今ひとつだが、実験を兼ねて使ってみたい」

不穏な会話にこれからの自分の身が心配になった。3日ともたずにリーダーかその仲間に殺される気がしてきた。やっぱり、車から降ろしてもらおう。

「あの、ギアッチョさん、この辺で──」

「ああァ?ギアッチョさんだと?気味の悪い呼び方すんな気持ち悪りぃ!運転ミスるとこだったじゃあねぇかよォ!」

「ヒィ!ごめんなさい!」

ギアッチョは眼を吊り上げ、額に青筋を浮かべて大声で怒鳴ってくるのでビビった。また喋ると怒られそうなので黙って大人しくした。

「なあよォ、おまえみたいのが何でオレたちのチームに異動なんだよ〜っ?」

話しかけられてどきりとしたけど、ギアッチョが前を見ながら運転していることを確認して一安心した。

「えっと、お払い箱になったというか、罰というか……」

「てめぇが使えねェからじゃあねぇかァ〜?」

「そんな身も蓋もない事言わないで欲しいっス」

「『身も蓋もない』……ってよォ〜──」

「おい、勘弁してくれ」

はあ、とメローネが大きく息をついた。メローネの反応とギアッチョの急にゆったりした口調に嫌な予感がした。

「蓋もないってのはよくわかる。スゲーよくわかる。蓋が無くて中が見えてんだろうなって想像がつく……だがよぉ……『身もない』って部分はどういうことだああ〜っ!?身がなかったら何もねぇじゃねぇかよーッ!そもそも身に蓋なんかしねーぞーッ!ナメやがってこの言葉ァ超イラつくぜぇ〜ッ!!チクショーッ!」

「きゃあああ!」

自分でもびっくりするくらい高い悲鳴がでた。
ギアッチョがアクセルを強く踏んだせいでスピードが上がり、更にハンドルも握らずにレジスターを殴り始めている。両手で掴めそうなところに手を伸ばして体を支えたものの、メローネの硬い膝に頭が当たって痛い。さっきまで押さえていたフードが風に飛ばされて、髪が後ろへ引っ張られるようになびいた。

「どういう事だ!どういう事だよッ!クソッ!身もないってどういう事だッ!」

「『身がない』は中身とか本体じゃなくて、容器のことじゃないんスかぁ〜!?だから容器も蓋も無くて、何も包まれてなくて丸裸のことっスよ〜!」

このままどこかに突っ込んで死ぬかもという事実に焦って、処理能力の低下した脳でなんとか必死にそれっぽいことを考え抜いて言ってみた。正直まともに学校に行ってなかったから自信が無い。

「なるほどな。納得したぜェ〜。くそっ。わかりにくい言葉作りやがって」

急に冷静になって、ギアッチョはハンドルを握り、運転を再開して車のスピードを落とした。ほっと胸を撫で下ろし、フードを目深に被りなおした。

「なんだおまえ。使える奴だったのか。だが、次から言葉に気を付けろよ」

メローネに肩をぽんと叩かれ、お説教を食らったけど、身をもってギアッチョの前では慣用句やことわざは使えないと学習した。
それから数分してプレビシート広場の手前まで着くと、ギアッチョに車から放り出され、「歩いて行けェ」とまた怒鳴られた。でも、なんだかんだ送ってくれた優しさには感謝した。
そこから徒歩で家に帰った。家はお世話になった幹部が手配してくれたものだった。
部屋に入りすぐに腕の手当てをした。血はとっくに止まっていたけど、みみず腫れのような痕が残っていた。
疲労でベッドの上に倒れ込み、ぼーっとした。ひとりになっても全く落ち着かなかった。地元から遠く離れ、新しい仲間には仲間と認められずに殺してもいい人間として認識されている。地元のチームでは皆から良くしてもらっていただけにそことの落差には戸惑う。
辛いことなど今まで幾度もあったけれど、仲間が殺された後で精神が参っているのもあった。また涙が出てきて、ベッドで枕を抱いて丸まった。

「『エル・セブン』、歌って」

私のスタンドは話せない。けど、歌うことが出来た。寂しい時はいつもこうしていた。エル・セブンは私の近くで昨日と同じ歌を歌い始めた。

『ーーninna nanna ninna nanna ーーe la vita non è la *****ーーe la ***** non è la vitaーー』

とっても優しくて女性のような綺麗な歌声だ。耳に心地よく響き、体が段々重くなりベッドに沈んでいく感覚がする。鉛のように深く深く水中に落ちて行き、海月のように柔らかい水の中をふわふわ漂うような気持ちの良さを感じた。



*



翌日、家電にリーダーからの指示が来た。今日はギアッチョとプロシュートさん、ペッシさんの3人と任務に行けという。今日も遅い時間から任務で、待ち合わせの午後6時前に指定の場所に向うと、路駐されている指定の黒のSUV車の運転席を覗いた。そこにはプロシュートさんがいて、早く助手席に乗れと言われた。先日プロシュートさんにお見苦しいものを見せたばかりなので、恥ずかしく思いながら車の右側の扉を開けて助手席に乗った。

「ちわっス」

「よう。ナビ頼むぜ」

地図をポイッと捨てるように投げられ、慌てて掴んだ。

「ネアポリスはまだわかんないスよ。ペッシさんとかギアッチョに聞いた方がいいっスよ」

「ペッシさんって、あんなマンモーニにさんなんて付けるな」

「マンモーニ?」

「あいつはすぐ泣く甘っちょろい野郎だからな。オメーのがしっかりして見えるぐれェだよ。ほら、ここ。次のブロックから目的地まで赤い線を引いた。そこから線を辿れ」

プロシュートさんが私の方に身を乗り出して、地図の赤い線を指さした。また昨日と同じ香水が香り、鼻をくすぐった。うう。昨日のことを思い出して恥ずかしくなる。

「で、でも難しいっス」

「でも、じゃあねーよ。やれって言われたらやんなくちゃあいけねぇもんだろーがよ。オレや他の仲間達ならそうするぜ」

仲間ならそうすると言われたら、もう文句は言えない。私はその仲間として認められたいから。

「やるっスよ!」

眼を皿のようにして地図と睨めっこした。それから暫くして、ギアッチョとペッシさんがやって来た。

「ギアッチョ、昨日はありがとっス」

私の真後ろに座るギアッチョさんを振り返った。昨日は正直死ぬかと思う程酷い目にあったけど、途中まで送ってくれたのは嬉しかった。

「ああァ?車で送ったことか?ったく、まだ信用できるかわかんねぇコイツを連れていくなんてよぉ。自殺行為だぜェ」

昨日ギアッチョは家の近くまで送ってくれたのに、やっぱり私を疑っているらしい。
でも、これからだ。これから認められるように頑張るしかない。

「ギアッチョ、私頑張るから信じて欲しいっス。あ、ペッシとは今日、初めて話すっスね。よろしくっス」

「う、うッス」

「なんだァ?ペッシ、緊張してんのか?」

プロシュートさんは座席の背もたれの上に肘をつき、後ろを振り返った。私も後ろを向いていた為、フードを被ってるといえど、プロシュートさんと顔が近くなって慌てて前を向いた。昨日の件でまだ羞恥心があるし、プロシュートさんは顔が綺麗過ぎて意識してしまう。

「だ、だって、オレ女の子とあんまり話したことなくってよォ」

「女慣れさせる為に、この前ナンパの仕方を教えてやった上に話させてやったばっかじゃあねーか。ええ?ペッシよォ」

「ナンパっていったって、兄貴が立ってたら女の子から話しかけて来たんじゃあねぇかよォ。その後だって、兄貴がオレをひとりにして帰ったせいで、女の子がトイレに行ったきり帰ってこなかったんだよォ!やっぱり兄貴みたいにかっこよくなくっちゃあ、まともに話せねぇよォ」

「ハンッ!問題なのはその自信のなさだぜ、ペッシ」

プロシュートさんの言葉を聞いて、確かにと思った。なかなか的を得ている。そういうところを見抜いて指摘できるあたりがペッシから兄貴と呼ばれる所以かもしれない。

「そろそろ車出すからよ、てめーら静かにしろよ。特にギアッチョは突然キレるんじゃあねーぞ」

「だったらまともな運転頼むぜ」

「言ってろ」

プロシュートさんはフンッと鼻を鳴らすと、エンジンを吹かして車を発進させた。不穏な会話に車が事故らないか心配になりつつも、上着のフードを浅くかぶり直し、今どの通りにいるのか車の外の景色を確認しながら地図を見た。



*



午後7時頃ネアポリス県ポルティチ郊外の目的地になんとかたどり着き、細い道に車を停めた。郊外といえど道幅が狭く、1本道を出れば住宅が密集している。その為外灯がそれなりに灯っていて辺りは明るい。

「一応着いたな。ナビ、御苦労さん」

プロシュートさんにぽんと頭の上に手を置かれ、完全にバンビーナ扱いされていると感じたけれど、この人にはそうされても嬉しいと思えてしまう何かがあった。もしかしたら、この人だけは私に優しいからかもしれない。
車を降りてそこから徒歩で郊外らしい広大な土地を持つお屋敷の前まで着いた。それから、ギアッチョがお屋敷周りの高垣に表面がギザギザした氷の階段を作ってくれたので、滑らないように上って敷地へ侵入した。

「凍らせるスタンドなんて強くて便利っスね!」

ギアッチョの横に走って寄って行き、声を掛けた。氷使いということは凍死させる以外にも相手を凍らせて動きを封じたり、氷の壁で防御できたりと能力の幅が広そう。日常でも飲み物を冷やしたり、アイスリンクを作れたりと色々できそう。素直に羨ましい。

「おめーはメローネの超劣化版スタンドらしいな」

「……そうみたいっスね」

メローネのスタンドは遠隔操作が可能ということを昨日知って、正直落ち込んだ。遠くでもスタンドを操作できるなんて強過ぎる。無敵か。
外灯の灯った中庭を抜け、玄関の前まで着くとギアッチョが屋敷を凍らせ始めた。玄関扉を避けて、壁から上下左右に波状に氷が広がっていく。屋敷とギアッチョから冷気を感じてぶるりと震えた。

「凍死させるんスか?」

「窓や裏口を氷で塞ぐ為だ。外に逃げられたら面倒なだけだからな」

「屋敷ごと凍らせるのは駄目なんスか?」

「中にあるパソコンが駄目になっちまったらよ〜、おめー責任取ってくれんのか〜?」

「ヒィ!ごめんなさい!私の思慮不足だったス!」

そういえば、ターゲットのノートパソコンと生体認証の回収という後者の表現が凄く怖い任務を任されている。本来なら利き手の人差し指1本か利き手ごとの回収で言いんだろうけど、リーダーが両眼と両手を御所望なのでそうするしかない。

「おい、ペッシ。玄関側に誰かいるか確認しろ」

プロシュートさんがペッシに声を掛けると、ペッシはどこからともなく釣竿を取り出し、ピンク色の糸を持つ釣針を玄関の内側へ飛ばした。面白いスタンドだし、釣糸を投げただけで誰かいるかわかるなんて隠密にぴったりの能力だ。それなのにいつも自信なさげなのが不思議。攻撃には向かないのかな。

「今は誰もいないみたいですぜ」

「そうか。『ザ・グレイトフル・デッド』!」

今度はプロシュートさんがスタンドを出した。半身の欠けた目玉だらけの見た目の怖いスタンドだ。薄らと煙が立ち込め、何故かペッシが焦り始めた。何の能力なんだろう。

「あ、兄貴ィ!出すの早過ぎだって!ギアッチョ、オレに氷くれよぉ」

「ペッシ、てめーは男だろ?ちったァ、我慢しろ。ギアッチョ、先にナマエを冷気で守ってやれ」

冷気で守る?よくわからないけれど、プロシュートさんが気を遣ってくれているようなのは正直に嬉しい。

「ああ?なんでこの女を守んなくちゃあいけねぇんだよ。リーダーは殺してもいいって言ってんだぜ?」

「現場指揮権はオレにあんだよ。さっさとやれ」

「クソがッ!おい、女ァ!冷気と氷を持たせてやるから有り難く手出せェ!」

ギアッチョが手をあげると服の表面が凍ったようで固くなり、おまけに猫型のような氷の彫像を手の平の上に作ってもらえた。いびつだけど、耳や長い尻尾が可愛くてこんな素敵な物を貰えて嬉しい。

「可愛い……ギアッチョ、ありがとう」

「うるせェ!オラ!ペッシも氷を食らいやがれ!」

ギアッチョが何故かキレながらペッシの手の平に大きな氷の塊を作った。

「よし、中に入るか。ギアッチョ、開けろ」

「オレばっかだな!」

ギアッチョが文句を言いつつスタンド能力で玄関の鍵穴に合わせた氷を作り出して玄関扉を開けてくれた。お陰で静かに侵入することができた。
冷気を纏っているせいか彫像がなかなか溶けなくて、手が冷えてきた。彫像を何に使うのだろうと腕に抱きかかえ直した。

「この氷の彫像ってなんの為っスか?」

「プロシュートのスタンド能力のとばっちりうけねぇ為だよ。老けたと思ったら耳から彫像食いちぎって体冷やしておけよ」

「老ける?老化のスタンドってことっスか?」

プロシュートさんに聞けば、「ああ」と答えてくれた。なるほど、さっきから周辺を漂う煙は老化の煙なんだ。プロシュートさんの見た目にそぐわない能力だな、と素直に感じた。

「ギアッチョはひとりで1階を頼む。オレとペッシとナマエで2階だ。この屋敷にいる奴は全員殺せ」

プロシュートさんの命令通りにプロシュートさんについて行き、折り返し階段を上った。ギアッチョさんから離れると、凍っていた服が少しずつ溶け始めるのを感じた。

「老けるスピードとかってどんな感じっスか?」

階段を上りきり、真っ直ぐ廊下を進むプロシュートさんに聞いてみた。

「体温が高いヤツ程早く老化する。老けたと思ったらしっかりそれを食え」

プロシュートさんは私の腕の中にある少し溶けかけている猫ちゃんの彫像を指した。
こんなに可愛く作られたら食べたくない。ある意味ギアッチョからの嫌がらせなのかと疑ってしまう。

「ターゲットはオレ達の侵入に気付いている筈だ。全部の部屋を見ていくぜ。おい、ペッシ。中に人がいるか確認していけ」

「わかったよ、兄貴ィ。ちょっと、これ持っててくれよ」

「あ、私が持つっス」

ペッシがひとつ目の部屋を確認している間は氷を代わりに持ってあげた。ひとつ目の部屋はどうやら人がいないらしい。

「次の部屋だな」

「あっ、ターゲットの持ち物がわかれば、追跡でターゲットの居場所わかるっスよ」

「そういや、自動追跡型だったか?やってみろ」

プロシュートさんが私に任せてくれるようなので、昨日ホルマジオさんとメローネに邪険にされた分力を発揮して頑張りたいと思う。

「この部屋の中にターゲットの私物かないか見るっスね」

金色のドアノブを捻り、扉を開けた。中は本だらけの部屋で、壁板一面に置かれた本棚は天井まで届きそう程高く、沢山の本が詰まっている。

「本は私物に入るっス。早速追跡させるっスね。『エル・セブン』!」

本棚から適当に選んだ本を取り出し、エル・セブンを出した。エル・セブンが本を持つと、複製を開始した。一瞬で複製出来ないのもこのスタンドの難点だった。
エル・セブンに複製されたレプリカは宙を飛び、廊下に飛び出した。

「追いかけるっス!」

レプリカのエル・セブンは遠隔操作できないので、見失わないように追いかけた。勝手にターゲットを殺してくれるけど、どこで死んだのかわからなくなるのも難点だった。

「おい!待て!」

「見失う訳にはいかないんス!」

プロシュートさんの制止をきいたら見失ってしまうので、止まらずに走って追いかけた。
レプリカは廊下を真っ直ぐ駆け抜け、何部屋も先の扉を潜り抜けた。
私も続いて扉に手を掛けようとすると、また後ろから「待て!」とプロシュートさんに怒鳴られた。プロシュートさんも走ってきているようだ。

「ターゲットはもう間もなく死ぬんで、開けて中を確認するっス!」

待っているのも馬鹿らしいと思い、扉を開けた。中にいた人物とその両手に握られていた物を認めた瞬間、体が右横に吹っ飛び耳の痛くなるような銃声が鳴り響いた。
腕から猫の氷の彫像が落ちて割れ、体は床に突っ伏し、その上を私より大きな体が覆った。そして、部屋の中から短い悲鳴が上がる。

「プロシュート、さん……?」

全てが一瞬のうちに起こり、困惑した。私の上に覆いかぶさったプロシュートさんは片手で立ち上がると部屋の中を一瞥して、それから床に伏せたままの私を見下ろして手を差し出してくれた。

「ターゲットは死んだようだな。怪我はねェか?」

そういうプロシュートさんの左腕からは血が流れていて、床には弾丸が転がっていた。
自分のしでかしたことに気づき、プロシュートさんの手を取らずに床に手をついて起き上がった。

「ご、ごめんなさいっス!あああッ!どうしよう!私のせいでプロシュートさんが怪我を……!」

「ああ。全くだ。オレの命令を聞かなかったせいだな。オメーが発砲されてたら、危うくオメーをブッ飛ばすところだったぜ」

「とりあえず止血を!」

私が発砲されたら私をブッ飛ばすという意味がわからなかったけど、とにかくプロシュートさんを手当てしたく、止血布にしようと上着を脱ごうとすれば、「やめろ」と止められた。プロシュートさんはいつも首に巻いているネッカチーフを解こうと撃たれていない方の片手の指を掛けた。

「兄貴ィ!大丈夫ですかイ!?」

ペッシが走り寄ってくると、プロシュートさんの腕の怪我を見てヒィッと悲鳴を上げた。

「ギアッチョを呼んでくるよォ!」

ペッシはくるりと回って廊下を走り去ってしまった。

「私が取るっス」

プロシュートさんがネッカチーフを上手く取れないようで、私がプロシュートさんの首に手を伸ばしてネッカチーフを解いた。
腕の傷は幸い浅いようだ。それでも血が止めどなく出続けるので止血しないと大変だ。

「きつくするっスよ」

プロシュートさんの怪我した腕をネッカチーフできつく縛った。黒のネッカチーフからは濡れたように色が変色している箇所が見える。

「器用なもんだな」

「いえ……助けてくれてありがとっス……言うことを聞かずに飛び出してごめんなさい!」

頭を下げて謝った。下手したらプロシュートさんは胸に弾丸を受けたかもしれない。そんな状況なのに身を挺して守ってくれたことに感謝してもしきれない。感謝と共にある疑念が沸いた。なんで"間の悪い時期"に来たらしい私なんかを守ってくれたんだろう。

「次からオレの命令は聞け。守らなかったら、ただじゃあおかねェぞ」

「はいっス!あの、どうして撃たれるってわかったんスか?」

あの扉を開けるまではわからなかった筈だ。なのに私を守れたのは老化能力とは別に予知能力があるのかもと思った。

「勘だ」

「勘……?」

予想外の回答にポカンとした。勘?勘がいいってことなのかな。他の人が言えば呆れたところだけれど、プロシュートさんが言うと妙な説得力があり、納得してしまった。

「ああ、勘だ。ターゲットは殺せた。あとはパソコンと生体認証回収だな」

「はいっス」

ギアッチョがやってきてプロシュートさんの患部を冷やして応急措置を施すと、亡くなったターゲットの両方の眼玉を抉り取って凍らせた。次は両手を部分的に凍らせると、手首から先の両手を折り取った。ギアッチョは一連の作業を流れるようにこなし、正直命令といえど気分が悪くなるような行為で気持ち悪くなった。私は私で机の上にあったノートパソコンを手に持ち、部屋を出た。これで必要な物は手に入った。あとはアジトに戻ってリーダーに提出するだけだ。
お屋敷を出て車に乗って後部座席置いておいたクーラーボックスに両手と両眼を仕舞うのを確認すると、帰りはギアッチョが車を出した。私はギアッチョの隣で地図を確認しながら帰りの道を教えてあげた。
アジトの近くに着くと、車は盗難車だったらしく、途中で乗り捨てて処分した。車を降りた時、プロシュートさんの様子が気になった。あまり痛そうにしていないけど、腕の傷が化膿してしまわないか心配だ。

「プロシュートさん、本当に病院いかなくて良かったんスか?」

「擦り傷だ。いらねーよ」

「治すスタンド使いっていないんスか?」

「チームにはいねーが、組織の抱えている闇医者はいるぜ。ヤバそうなら後で傷を診てもらう。余計な心配すんな」

ぽんと頭に手を置かれた。相当痛いはずなのに、なんともない振りをするプロシュートさんがかっこよくて、バンビーナ扱いされていることなんか気にならず、感服した。ペッシが兄貴と呼んで慕う理由もわかる気がする。
私もこの人みたいに誰かを守れるようなかっこいい人になりたい。いつかこのチームに新入りが出来たら私が守ってあげる──と、ここまで妄想して、そもそも私がまだチームの一員として認められていないことに気がついて落ち込んだ。

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