syura
カムイ様は誰からも好かれていた。誰もが皆カムイ様を慕っている。高貴な身分とそれに反して偉ぶることもなく積極的に対話をしようとする姿勢に皆が好意を持ち夢中になった。かく言う私もカムイ様のことが以前は好きだった。
私の好きな人、アシュラさんはカムイ様を慕い最近では頻繁にカムイ様の部屋に呼ばれていた。部屋で何をしているかはわからないけど、なんとなくわかってしまった。カムイ様とアシュラさんは……。
この事に気づいてから私はカムイ様が好きじゃなくなってしまった。認めたくはないけれど嫌いになってしまったかもしれない。だってアシュラさんは私の方が先に仲良くなったのに、横取りするなんてカムイ様は最低だ。
*
「ねぇ。私のこと好き?」
「好きだぜ。見るだけでイっちまいそうなくらいにな」
ベッドの中後ろから抱きしめてくれるゼロの腕をなんとなくさすっていた。とても温かい。ゼロは私の問いに答えると後頭部にキスをしてくれた。
ゼロは意地悪だけど、基本私には優しくて甘い。どうやら闇で生きてきた私には少なからず好感が持てるらしい。
昔から私は物事が上手くいかないと自暴自棄になる傾向があった。今も変わらず自暴自棄になっていて、ゼロに抱かれる数時間前にはラズワルドに抱かれていた。ゼロはこのことを知っているがラズワルドは知らない。ゼロはそんな私がそこそこ好きで、ラズワルドは私のことが本気で好きみたい。
そして私が好きなのはアシュラさんだ。これもゼロだけが知っている事実だ。
*
「よう。今大丈夫か?」
「アシュラさん……」
夕暮れ時、自分の天幕近くに干した洗濯物を取り込んでいるとアシュラさんに声を掛けられた。突然でびっくりした。ちゃんと会うのは数日振りだ。とても嬉しいけれど、緊張して腕や足が震えた。
「大丈夫ですよ。時間、あります」
「急にすまんな。あんたに伝えたいことがあって。ここよりちょっと人気がないとこがいいな。森の方まで付いてきてくれるか?」
「ええ」
頷いて、急いでいるアシュラさんの後を付いていった。
私に伝えたいことって何だろうか。アシュラさんの焦ったような様子からどう考えても最悪なことしか考えつかなかった。例えば、カムイ様と結婚するとか、カムイ様を身篭らせてしまったとか。
二人で無言のまま歩き続け森の入口から数刻程歩いた所で止まった。
「伝えたいことってなんでしょうか?」
「あ、ああ。実はコウガの再建のことなんだが……あんたにも手伝って欲しいんだ」
「それは以前にも手伝うと約束しましたよね?」
確かにアシュラさんと一緒にコウガを再建すると約束をしたはずだった。今となっては手伝う気なんてなくなってしまったけれど。
「いや、あんたには妻として手伝って欲しいんだ」
「え?」
「分かりやすく言う。俺と結婚してくれ」
アシュラさんはどこからともなく箱をとりだして開けた。中身は指輪だった。
何の脈絡もないままの突然の告白に驚き、とてつもなく嬉しかった。一瞬の幸せを感じて、直ぐに最悪の気分になった。
私には受けとれない。私はもう……。
「アシュラさん」
「な、なんだ?だめか?」
「はい。もう遅いです……遅いんですよ」
「何が遅いんだ?」
「私はアシュラさんと結婚できません」
アシュラさんはショックを受けたような表情をし、項垂れた。彼のそんな姿なんて見たくなかった。
「そうか。残念だ」
「すみません」
「もっと早く言えば結婚してくれたのか?」
「ええ」
「何日も悩んでカムイ様に相談するんじゃなかったな……」
「カムイ様に相談していたんですか?」
「ああ。指輪も一緒に選んで貰ったんだ」
「カムイ様……」
私はなんて馬鹿だったんだろう。カムイ様のこと酷く思ってたなんて。
「これからも友人として頼む」
アシュラさんは手を差し出し、私はそれを受け握手した。
「コウガ建国も喜んで手伝います」
「ありがとな。じゃあ戻るか」
「あ、私しばらくここにいます。ゼロに蒔きを拾ってくるように言われてたの思い出して……」
「女人に頼むべきことじゃないだろう。手伝うか?」
「大丈夫です!ほんのちょっと持ってこいて言われただけなんで!」
「そうか。聞いちゃ悪いかもしれねぇが結婚できない理由って、ゼロか?」
「ち、違います」
直ぐに否定するとアシュラさんは怪しげに私を見た。
「ゼロと仲よさそうに見えたんだがな。じゃあ気をつけてな」
アシュラさんは後ろを向いてしまい行ってしまった。
行ってしまった途端堪えていた涙が溢れでてきた。ひとしきり泣いてから軍に戻って直ぐゼロに抱かれた。
この日から軍が解散するまで、私は色んな人と寝た。そして結局誰とも結婚することなくゼロにくっ付いていた。