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将来貴族に見初められて結婚するんだとうるさい幼馴染は、クレアに媚を売り、クレーベに色目を使っていた。そのくせ人の気持ちも知らずに野営地やアジトで寝る時は俺とフォルスの間で寝たいといって聞かなかった。フォルスは昔からあいつに甘くてお姫様扱いをしていた。おまえのせいであんなわがままになったんだ、といえばおまえも案外なまえに甘いよ、と指摘された。そんなつもりはないのに何言ってんだこいつ。
ソフィア城奪還の為の戦いの渦中、クレーベが危ない、と彼女は飛び出してクレーベを狙う敵を撃退しようとした。常に彼女に目を配っていた俺は槍兵が彼女を狙っていることに気がついた。急いで槍兵を狙い射ったが致命傷にはいたらず、彼女へ特攻する勢いは止まらない。俺は走り彼女を突き飛ばした。生憎俺は避ける余裕がなく敵の一撃を肩当てで受けようとした。が、真っ直ぐに突き出されたそれは鎖帷子を貫き腹に刺さった。槍は抜かれたが、そのまま地面に仰向けに倒れた。やべぇ、これ死ぬわ。意識が朦朧とする。痛みを感じない。
誰かが俺の腹を圧迫する。なまえの泣き叫ぶ声が耳元で聞こえる。止めてくれ。おまえが泣くのは辛いわ。そう声に出す余裕もない。
シルクが来た。シルクが杖を使う。これなら助かるかもしれない。よかった。そして意識が飛んだ。
*
腹の痛みで目がさめるとそこはまだ戦場で戦いは終わった後みたいだった。俺は木陰に寝かされ、布切れで傷口をまかれていた。見覚えのある布切れ。まさか。
「パイソン!大丈夫?」
シルクの手を引いて、なまえがやって来た。服がビリビリに破れ、上も下も際どい。なんて格好をしてんだ。
「助けてくれてありがとう。でもこんな無茶はもうしないで。凄く悲しいから」
柄にもなくなまえはしおらしくいった。俺はただ頷いて、早くなまえに何かを羽織らせる方法を考えた。
「シルク、早く」
「わかりました」
なまえは地面に膝をつき、俺の手を取るとシルクを見た。シルクは真面目な面持ちで、立ったまま俺たちを見下ろした。何がしたいんだ。
「その健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も……」
「お、おおおい」
「しっ!喋っちゃ駄目」
これは結婚の時に言う文句だろ。もしかして俺は死ぬのか。なまえは死ぬから結婚してくれるのか。
「なまえさん、あなたは妻として生涯パイソンさんを愛し、忠実を尽くすことを誓いますか?」
「はい」
なまえは微笑んで俺を見るとシルクに視線を戻した。
「パイソンさん、あなたは夫として生涯なまえさんを愛し、忠実を尽くすことを誓いますか?」
俺は首を横に振る他はなかった。なまえはそれを見て怒りむくれた。
「私じゃ駄目なの?」
「同情で死にゆく男と結婚するのか?」
「あなたは死なないし、同情じゃない」
「じゃあ、段階踏まなきゃ駄目でしょ」
「私パイソンのことずっと好きだったもん!」
「えぇ?おまえ、貴族と結婚するっていつも言ってたよな?」
「あれは適当にふらふらしてるあなたをちゃんとした職についてまともに働いて欲しくて、頑張ってね、の意で言ってたの!」
「そんなのわかるかよ」
「わからなくて結構!今日のことがあったから、あなたがいつ死ぬかわからないから、一刻も早く結婚したいの」
涙ぐんでいう彼女に俺はそれ以上責め立てることはできなかった。
「ねぇ、あなたは私のこと好き?」
「それを最初に聞くべきだったね」
なまえは不安そうな顔をした。ずっと近くにいたくせに俺がなまえを好きなことに気がつかずこんな強行にでるとは。
「待たせたな。シルク、続きを言ってくれ」
なまえは満面の笑みで俺を見ると、黙って俺の手を強く握り、俺はその手を強く握り返した。そして俺達は大地母神ミラに祝福された。