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森で焚き火用の薪を拾っていると、背後から誰かに襟後ろを掴まれ、背中に何かを入れられたような感覚が走った。虫が苦手なのと不意打ちなのが相まって一瞬だけ甲高い叫び声がでてしまった。

「やっぱりあんたか」

犯人はパイソンみたいで、あの気だるそうな声が聞こえた。修道女らしく声を上げないように我慢し、落ち着いた素振りをしつつ、中に入った異物を虫じゃありませんようにと祈りながら服の背後側を徐々に手を下にずらしながら引っ張った。踝丈のローブの裾から出てきたのはただの枯葉だった。

「何をするのですか?」

「ああ、ごめんね。ちょっと確かめたいことがあって」

「これは必要なことでしたの?」

「まぁね」

「お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「うーん、ちょっと言いにくいんだけど。あんたさ、修道女でしょ?」

「ご覧の通りですが」

「修道女ならさぁ、控えていただきたいんだよね。婚前の営みってやつ」

「なっ!」

予想にしてもいないことを指摘され言い返す言葉もでなかった。

「うちのフォルスが見張りの時に、女性の叫び声が聞こえるって呼ぶもんだから一緒に行ってみればあんたと似た声が聞こえてきたんだ。ああ、大丈夫。声だけで何してるかわかったから見てはいない。やりたきゃ声抑えてほしいのよ」

姿を見られていないのは安心したけれど、サーッと血の気が引きっぱなしだ。皆の前では聖女のように振舞っていたのに、本当は淫らで飢えた獣のようだと知れたらとんだ大恥だ。ここは私じゃないことにしよう。

「わ、私がやったという証拠がおありで?」

「は?だから声が酷似してるんだって」

「姿も見ていないのに私と決めつけるのは早計じゃありませんか」

「はぁ。もしエフィならアルムって叫ぶだろうし、シルクはわかんねぇが、シルクとは声が全然違うだろ?」

パイソンは目を泳がせながら言った。男性の名前を叫んでいたのも聞かれてしまったみたい。ああ、恥ずかしい。でも、あとひと押し。挙動が不審なあたりを見ると、私である自信がない証拠。しらを切ればシルクがやったことに出来そう。同じ修道女として心が痛むけれど自分の醜聞が知られるよりはまし。

「シルクには私と同じことを試しましたか?」

「試してないっつーか試す必要がないんだよね……あーもうあんた面倒いわ。木の上で一人でするくらいなら、俺が相手してやるよ」

それだけ言うとパイソンは目も合わせずに野営地の方へ早歩きで行ってしまった。私はどんな顔して野営地に戻ればいいかわからないほど羞恥心でいっぱいで、夕暮れに仲間が探しに来るまで森から出れなくなっていた。
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