wolf -roshe side-
狼騎士団にはオレルアンの優秀な馬を使った騎馬隊を中心に構成されているが、歩兵部隊も5部隊揃えていた。その内の1部隊には男所帯には似つかわしくない1人の女の子が最近加入した。というのも、一時期郊外の町に駐屯していた際に荒廃した教会を再興する為にお金が欲しいと彼女から入隊の要望が来たらしい。最初それを聞いた時、なんて健気な女の子なんだと一方的に好感を抱いていたが、実際会って話して直ぐに彼女の正体に幻滅することとなった。
ある日害賊討伐で負った怪我をシスターに治してもらおうと、補給隊にいた彼女の元へ行った。
「……ということで、私は町を出てからもう一月も行軍して、戦いにも参加してるのにあの方に気づかれてないの。恋って儚いわよね、マカロンくん」
「ロシェです。あの、早く手当を……」
例のシスターのなまえさんは長々と僕の仲間のウルフへの恋心を延々と語って碌に治療をしてくれなかった。僕の腕からは血が流れ続け、酷く痛む。
「あら。ごめんなさいね。『勇敢な戦士に天使の調べを』……はあ。めんどくさ。『ライブ!』」
色々言いたいことはあるけれど、眩い光と共に傷は塞がり、元の健康な状態へと戻ったので黙っておこう。
「ありがとうございました」
なまえさんと関わるのはよそうと思い、適当にお礼を言って隊へ戻ろうと早歩きすると、後ろからなまえさんが追ってきた。
「ロシェくん、待って!」
「うっ」
怪我をした部分をなまえさんに掴まれ、鋭い痛みが走った。治ってなかったのか。
「ヤブシスターですか、あなたは」
「ごめんなさい。治した筈なんだけど……恋に現を抜かして信仰が疎かになったのかしら。まあ、そんなことは置いといて、ウルフ様のこと教えてくださる?」
「本当にヤブシスターじゃないですか」
信仰が揺らいだままでいいのかシスター。教会を再興する為に行軍してるのだろう。
ああ。目眩がしてきた。フラついて、膝から落ちかけたところを誰かが後ろから肩を支えてくれた。
「大丈夫か?」
「あ……」
視界の端に映る片目を覆う長い紫の前髪ーーウルフだ。仲間の登場になんとなく力が湧いてきてウルフを振り向いた。
「ありがとう。ウルフ。君も怪我かな?」
「ああ。片足をやられた」
ウルフの袴下の裾が破れ、出血している。僕のより酷い傷だ。
きゃっと後ろから短い悲鳴が上がり、嫌な予感がした。
「だ、大丈夫ですか?」
「うわっ」
なまえさんに傍に突き飛ばされ、危うく転びかけた。本当に勘弁して欲しい。
なまえさんはウルフの前まで行くとウルフの足の怪我を見てまた悲鳴を上げた。
「まあ、酷い怪我!待ってくださいね。『神よ、我に力を貸したまえ。勇敢なる戦士に天使の調べを。リカバー!』」
なまえさんは仰々しく口上を述べると、杖を天にかざした。すると、僕の時とは比べものにならない程の光がウルフの全身を包み込んだ。
そこでやっと、彼女に足りないのは信仰心でないことに気づいた。
「悪いな。助かった」
ウルフは怪我をした方の足で地面を力強く踏みつけ、問題ないことを確認し、短くなまえさんに礼を言うと、なまえさんは頬を赤らめ縮こまった。僕に対する態度とは明らかな差があるけれど、恋する女の子って皆こうなのだろうか。
「あの、他にも怪我とかは……?」
彼女は心配そうな顔でウルフに迫った。
「いや、腕のかすり傷まで治っている。ああ。俺の馬も怪我をしているから来てくれるか?胴と脚をやられている」
「ええ。勿論です!」
「あ、なまえさん、その前に僕の腕をしっかり治してくれます?」
「ウルフ様の愛馬のお名前伺ってもよろしいですか?」
なまえさんは僕を無視して、夢中でウルフに話しかけていた。ウルフもウルフで愛馬が心配なのか、怪我の状態を彼女に事細かに伝えるのに一生懸命で僕の声なんて聞いてくれなかった。取り残された僕は仕方なく、補給庫にある備品の布で痛む腕を巻きながら、ウルフに彼女のことを警告すべきか悩んだ。
彼女はウルフのタイプではない。いや、そもそもウルフはどんな子が好きかはわからないけど、女性に興味はないはず。だから、何も言わない方がいいのかな。
後日、そんな僕の悩みはウルフと彼女が2人で遠乗りをしたという情報を聞いてさらに深まることとなった。