claude




昼休み後の始業のベルが鳴り、金鹿の学級にて信仰の講義を始めた。本来なら担任のベレト先生が教鞭を取るところ、信仰に馴染みがない為私が代わりに生徒を指導し、ベレト先生には補佐をしてもらっている。
お昼の後ということもあり、講義の最中、少し頭がぼーっとしてきた。

「えーと、つまり、主へのお祈りはーーあら、なんて言おうとしたのかしら」

何を言おうとしていたか全くわからなくなってしまった。
生徒達は講義羊皮紙にメモする手を止め顔をあげてざわざわし始めた。静かにさせなくちゃ。

「皆、静かにして……えーと、ベレト先生、生徒達をしじゅかにへれて……」

呂律が回らず、なんとなく、顔に熱が上り体が火照ってきた。まだ夏といえど、もうすぐ角弓の節だし、こんなに暑く感じるなんておかしい。
はっとお昼の後のお茶会のことが頭の片隅に浮かんだ。




*




時は昼。太陽が中天に差し掛かり、じりじりと暑い日差しの中、中庭へ赴いた。約束通りクロードはそこにいて、2組のティーカップとポットと、焼き菓子が用意されていた。そのうち、クロードの方のカップには既に紅茶が入っている。

「クロード、お茶会の招待ありがとね」

「おう、なまえ先生。よく来てくれたな」

にっこりと笑い私を迎えてくれるクロードとは実は2週程前から秘密裏に付き合っている。教師と生徒の関係である以上、こうやって堂々と中庭でお茶会なんて、と思うかもしれないけれど、ベレト先生が男女御構い無しに生徒とお茶会をしているので、私もこうして堂々と出来ている。
クロードの目の前に座り、用意された茶器を見た。ティーカップもソーサーもポットも白一色で焼き菓子のお皿さえも白い。

「白一色ね」

「こういうの選ぶの苦手なんでね。ああ、もういい頃合いだ」

クロードは手元に置かれていた砂時計を見て、ポットからティーカップへと紅茶を注いでくれた。ふわりと果実のような甘い香りが漂い気分があがる。

「甘くていい匂いね。でも、ベリーティーではないわよね?」

「今日のは特別だ。さ、飲んでくれ」

「いただくわ」

クロードに勧められるまま、カップに口をつけた。それと同時にクロードは何故か砂時計をひっくり返す。
紅茶は何か自然ではないような甘みと、その中に癖のあるスパイシーな味を感じた。

「これ、初めて飲むわ」

「美味しくないか?」

「美味しいけど、ちょっと自然じゃない味がして……」

「うーん。匂いには気をつけたんだが、味は駄目だったか……失敗だな。欲張って、入れ過ぎたか……」

クロードが頭に手をやり考え込む仕草をする。その言動から、嫌な予感がした。

「もしかして、毒盛ったの?」

「まさか。最愛の人に毒なんか盛らないさ。ただちょっと、気分の高揚する薬を入れただけだ」

「気分の高揚?変なものじゃないでしょうね?」

気分の高揚と聞いて、真っ先に思ったのが幻覚だ。以前、クロードが実験だといって食べたキノコで1日中幻覚を見ていた事件を思い出した。

「いやいや。そんな変なものじゃないって。俺には効き目ばっちりだったが、うっかり一人の時に飲んじまって虚しくなったな」

「どういう意味?」

「いや、そこは聞かないで欲しいな。もう少ししたら、変化が出るはずで……今はどうだ?」

「別になんともないわよ」

「俺の場合は直ぐに効果は出たんだが。んー、昼休憩までに終わるといいんだが」

クロードはちらちらと砂時計に目をやった。どうやら、砂時計で効果の時間を計っているように見える。

「気分が良くなるなら、講義の時にちょうどいいわ。良い薬なんでしょう?ありがとね」

「講義の時はまずいんだがな」

クロードは私から視線を外し、ぽりぽりと頬をかく。

「どういうこと?」

「次の講義、信仰だっけか?大事をとって休んでくれないか?」

「何言ってるの。信仰のしの字も知らないベレト先生を助けなくちゃ、生徒達が困るでしょ?」

「未だに効果が出ていないなら大丈夫か……?男にしか効かない成分なのかもな。まあ、やばそうなら俺が助けるからいいか」

「そんなにまずい薬を私に盛ったの?」

「あー、いや。全然そんなことないさ。むしろ、俺達の関係をより深める為に作った薬だからな。安心してくれ」

「まあ、クロードがそう言うなら……」

クロードのことは信頼しているから、大丈夫なんでしょう。ふと、平皿に盛られている焼き菓子に目が行った。クロードとのお茶会の為に、昼食は殆ど食べていないから、食べておきたい。

「お茶菓子には何も入ってないのよね?」

「あ、そっちにも少し……」

前言撤回。クロードのことは警戒しなくちゃいけないわ。



*



お昼休みにクロードに薬を盛られたことを思い出した。何が気分が高揚するなのよ。頭はぼーっとするし、呂律は回らない。動悸はするし、なんだかあそこがムズムズする。嫌だ。私、もしかして発情してる……?

「あっ」

手に持っていた本を落としたところ、それをベレト先生が拾ってくれた。本を受け取ろうとベレト先生に近づく足取りが覚束なく、ふらふらと先生にぶつかっしまった。視界が揺れ、倒れかけたところをベレト先生に肩を抱かれた。

「ベレトしぇんしぇ……?」

ベレト先生は何か言いながら目の前で手を振る。

「しぇんしぇーの手、おっきい……」

なんとなくベレト先生の手を掴めば、どうにもならないウズウズした感覚がさらに増してきた。

「あー、ベレト先生、なまえ先生は俺に運ばせてくれ。この症状に心当たりがあって、マヌエラ先生の所に連れて行って、報告したいんで」

ああ。クロードの声が聞こえる。私の大好きなクロードの声。とても愛しい人。何故こんなところにいるのかしら。

「あ、くおーど。どーひらの?ふふふ。また、私の体にベタベタさわーー」

「あー!ちょっと、なまえ先生は日差しにやられたようだ!早く運ばないとー!」

ふわりと体が宙に浮き、心地よい感覚に陥った。ただ、私の体の奥は熱を持ちっぱなしで気持ちが悪い。早く解放されたい。


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