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目が覚めたら寮のベッドの上だった。先程まで見ていた光景が現実だと思い、飛び起きてから夢だと気づいた。それでも、胸は熱いし、肩には痛みがあった。
いい夢なのか、悪い夢なのかはわからないけれど、ディミトリくんが凄く格好よくて優くて、好きになっちゃいそう。
肩の痛みは肩こりか寝違えだと思い、念の為に姿見で肩を確認すると、両肩にはくっきりと手の指の形のような山なりの赤い痕があった。
「まさか、ね」
そんな訳がないと、またベッドに潜り込み、目を閉じるとすぐに寝てしまった。多分、まだ夢の中だったんだ。
*
週末の朝は寝坊して、遅くに起きた。何か夢を見ていた気がするけど、思い出せずに温室で金鹿の学級で育てているお花にお水をあげていると、なんだか肩が痛くて夢の内容を少し思い出した。そういえば、両肩を強く掴まれてキスをして……。
思い出せば、出すほど肩は痛いし、ディミトリくんのことを想って胸がいっぱいになる。
とりあえず、マヌエラ先生に痛み止めを貰おうと、園芸用品を片付けいると、ドゥドゥーくんが来た。
「ドゥドゥーくん、こんにちは」
ドゥドゥーくんに笑顔で挨拶すれば、ドゥドゥーくんもほんのちょっとだけ口元を上げて「ああ」と返してくれた。
ドゥドゥーくんとは、週末の昼という温室当番のタイミングが一緒でよく話す仲だった。といっても、殆ど私が話してばかりだけど。
「この育てたお花ちゃんもいつかローレンツくんが女の子にあげる為に摘み取ると思うと、寂しくなるなぁ」
金鹿の花壇全てに赤い種を植えた結果、薔薇の蕾ができた。薔薇好きのローレンツくんのことだから、蕾が開く頃には摘み取って、部屋に飾ったり女の子に贈ったりするはずだ。誰も反対する人はいないだろうけど、せっかく皆で育てているのだからもっと別のことに使いたい。
「次の収穫の後に野菜の種を植えるといい。野菜なら、皆で食べれる」
ドゥドゥーくんがいつも通り、冷静に教えてくれた。
「うん。根菜の種でも植えるよ。流石のローレンツくんも人参を部屋に飾ったり、女の子に贈らないだろうからね」
「そうだな」
ドゥドゥーくんも納得しているけれど、ドゥドゥーくんはローレンツくんとは面識がなく、私の話すローレンツくんのことしか知らない。ちなみに彼の中でのローレンツくんは色欲に溺れた差別主義者になっているけど、実際はちょっとだけ花嫁探しに奔放しているだけの平民に優しい立派な人だ。私の説明が悪かったと思ってるけど、訂正するタイミングを見失ったからそのままにしている。ローレンツくん、ごめん。
「じゃあ、私、用事あるからまたね」
ドゥドゥーくんに手を振って、温室を出て、ズキズキする肩を庇いながら医務室に向かった。
*
「あら、これは打撲ね。でも、両肩に打撲なんておかしいわねぇ」
医務室のベッドに腰掛ける私の両肩を見てくれたマヌエラ先生は首を捻った。
「私も思い当たることがなくて困ってます……」
「とりあえず、回復魔法と痛み止めでなんとかなるといいのだけど」
マヌエラ先生は私に回復魔法をかけてくれた。眩い光に包まれて、なんとなく体が癒えていく感覚がする。
「あとは痛み止めを飲むだけね。ちょっと待っててくれるかしら?」
「はい!ありがとうございます」
マヌエラ先生は戸棚を探しに行っている間に、肩を見せるために脱いでいたシャツを羽織ろうと片袖に腕を通したところで、医務室の中に誰かが入ってくる足音がした。
「マヌエラ先生!」
ディミトリくんの声だ。あまり聞いたことがないはずなのに、直ぐに彼の声だとわかった。衝立の内側で、慌ててもう一方の腕をシャツの袖に通したところで、ディミトリくんが衝立の内側まで入ってきてしまった。ばっとシャツの前を合わせて肌を隠して、体を折るようにベッドの上で縮こまった。
「あら!今女の子が着替えてるとこよー!」
「す、すみません!」
気配と足音で衝立の外へ彼が出て行くのがわかった。
一度も目の端に彼の姿を捉えることはできなかったけれど、彼のことが本当に好きになってしまったように心臓が激しく脈打つし、顔が熱くなった。
「全く!あなたが確かめもせず衝立の内側まで来るなんて……!」
マヌエラ先生はぷんすか怒りながら、衝立の外に出て行った。
私は震える指でシャツのボタンを一つずつ閉めて格好を整えた。
「それで?今日で二度目の訪問だけど、今度はお茶会のお誘いかしら?」
「いえ、今回も怪我とかではなく、肩を怪我した女生徒がいないか確認を……」
あっと思った。ディミトリくんが肩を怪我した生徒を探しているということは、もしかして、あれは夢ではなかったのかもしれない。
「あら。もしかして、うちの可愛い生徒を虐めたのはあなたなの?」
マヌエラ先生の話し方はいつもより怒りを含んでいる語調で、私の怪我がディミトリくんのせいだと思っている様子だ。
「やはり、金鹿の生徒なんですね!」
ディミトリくんは珍しく興奮したような口調で、そのせいでディミトリくんは私のことを探していると期待してしまう。私も、ディミトリくんに会いたいと思っていたからそれが嬉しくて堪らない。
「名前も知らない女生徒の肩を打ったってことかしら?」
「いえ……掴んだというか、そもそもあれが本当だったのかもよくわからず……」
「ふーん。なんだか、訳ありみたいねぇ……いずれにせよ、うちの大事な生徒に手を出したとして、あたくしからベレト先生にお話させていただきますわ」
「マヌエラ先生!」
私は話を遮るように声を上げた。話が変な方向へ行ってディミトリくんが責められてしまうのは、違う気がした。夢が本当だったとしたら、ディミトリくんはわざとではなかったし、私を助けようとしてくれた。だから、なんとか彼を助けてあげたい。
「何かしら〜?」
マヌエラ先生は衝立越しに反応してくれた。
「私の怪我、木登りして落ちたからなんです!だから、ディミトリくんは関係ないんです!」
「貴族のあなたが木登り?本当なの?」
「そうです!」
「わかったわ。あたくしの勘違いで責めてしまってごめんなさいね」
「いえ、そんな……どうやら、俺の方こそ勘違いみたいでした。失礼しました」
どんどん遠のいてく足音に、彼が去ってしまったことを悟った。彼を守りたい一心で嘘をついた結果、彼までその嘘を信じてしまったようだった。
でも、これでよかったのかもしれない。だって、あれは夢だったのかもしれないのだから。彼が探しているのは別の女の子かもしれないし。もしかしたら、彼が女の子の肩を掴んでキスをしているところをどこかで見て、それが夢に出てきただけかもしれない。
とすると、彼の言葉におかしな点が出てくるけれど、もうあれは夢だったと思うしかない。彼が勘違いだと言って去ったのだから。
「痛み止め持ってきたわよ〜。あら、どうしたの?」
「何がですか?」
「今にも泣きそうな顔してるじゃない。まだ痛むのかしら?」
「はい……ちょっと、痛くて……痛み止め、多めにください」
きゅうっと痛む左胸を押さえて、俯いた。この肩の痛みが無くなれば、この胸の苦しみも無くなるなるかもしれない。