python


 
 
幼馴染のなまえは人懐っこくどんな相手にでも物怖じせずに話しかける。相手は嫌味な貴族や強面の傭兵等、誰であってもだ。そんな中でもなまえのお気に入りなのが、彼女を慕って俺の自警団に入ってきた一匹狼のディーンだ。ディーンは修道女の修行をしていたなまえと共にあのセリカ王女の軍にいた奴らしいが、たまたま俺の自警団が出兵した先で再会し、なまえがそのまま自警団に引き入れた訳だ。ディーンは見た目通り無愛想でなまえ以外と話しているのを見たことがない。なまえは飯を食う時はそそくさとディーンの隣に行き、鍛錬中は常に近くに行き剣技の真似事までしていた。

「なまえって、ディーンとよくいるよね」

白い月が西側に傾く刻、野営地できょろきょろとディーンを探しているであろうなまえを呼び止め話しかけた。

「うん。なんか、一緒にいると落ち着くのよね。何故かしら」

「……静かだからじゃないか?」

「ああ、成る程。だからあなたといても落ち着くのね。フォルスも大事な幼馴染だけど、本読むときとか一緒にいるのは最悪。学者の息子のくせに本を鍛錬具にするから。それに私に厳しいのよね」

じゃあ、俺の隣にいろよ。なんて言えるわけもなくただつまらなそうに同意の返事をした。彼女は唸るような声をあげると、今のとか好きよ、と言ってディーンの方へ行ってしまう。つまらなそうな返事が好きなのか。

「俺はおまえのそういうとこ嫌い」

ぼそりと言えば地獄耳の彼女は振り返りこっちに戻って来て、何よと言う。

「そうやって俺以外の男んとこ行くとこ」

「やだ。嫉妬してるの?」

冗談っぽく彼女が笑って俺の腕を叩いた。俺は笑わず無表情のままいれば彼女は笑うのをやめ、唖然と口を半開きにして黙った。

「なによその反応?」

「いや、パイソンがそんな嫉妬なんて……」

「これでもおまえのことに関しては余裕ないから」

「嘘でしょ?」

なまえは全く信じてない様子だが、動揺しているのか瞳が揺れている。俺がなまえにこんな言動をとるのは初めてな上、今まで幼馴染として接して来たから当然の反応かもしれない。

「あーそういうの傷つくわ」

「今のは嘘でしょ?」

「傷ついた」

「ごめんなさい!でも……」

「どこ行こうとおまえの自由だ。好きにしてどうぞ」

ディーンのところへ行ってこいと言わんばかりに肩をすくめて両手を外側へ広げて見せた、

「そ、そうね。せっかくディーンといい関係が築けてるとこなの……ああ!でもあなたも大事なの!嫌われたくない!」

「あーなんかきついわ。おまえが困ってるとこ見るの嫌だわ。そんなことで俺は嫌わないから、なかったことにしてディーンのところへどうぞ」

「なかったことにできるわけないでしょ!わたし、今迷ってるの!」

彼女が顔を真っ赤にして取り乱す様子を見て、俺はやっと彼女の気持ちを正確に理解した。それでも諦めきれない程俺は彼女が好きだ。ずっと昔から。

「ディーンが好きなんだ」

「うん……多分」

「あ、そう。人殺して金品奪うようなやつと一緒にいればいい」

自分でも最低なことを言っていると思うがそれでも言うのを止めれなかった。
彼女はむっと唇を真一文字に結び、眉根を寄せた。

「わたしも人を殺してるわ」

「でも金品は奪ってない」

「彼は雇われの身だったのよ?仕方ないでしょ?」

「あいつ戦闘狂っぽいけどね。それで何でよりにもよってディーンなんだ?幼馴染として、アルムくらいなら許せたが」

アルムの血統がわかった上での冗談だ。だが、彼女には通じず怒りに顔を歪めた。

「許せた?冗談でしょう。あなたに許可をもらう必要なんてないわ」

「じゃあ、ディーンとしっぽりやってな」

「なっ!あなたという人は……」

彼女は手を振り上げようとした。しかし、それは男の手によって掴まれた。ディーンだ。片手に本を抱えている。

「なまえ、止めろ」

「な、なんで?」

「もう俺に構うな」

ディーンはなまえの手を離すと冷たく言い放った。なまえは今にも泣きそうな顔をしている。助けてやりたいが、なまえがディーンに振られそうであるから、今は成り行きを見守りたい。俺は無表情を決め込んでいるが、腹の底では喜んでいる。自分でも最低だと思うわ。

「嫌よ!構うわ!」

「全部聞こえていた。おまえが貸してくれた本について聞きたいことがあって来たが、悪いがこれはもう返す」

「……受け取れないわ。それはあなたにあげたものなの」

「いつか全て読めるようになりたいと思っていたが、俺には無理そうだ」

「わたしが教えるわ」

「いらん。もう二度と話しかけるな」

ディーンはなまえに本を押し付けた。なまえは渋々というより、混乱している様子でディーンを見つめたまま無意識に手だけ動かして本を受け取ったように見えた。

「どう、して……?」

「俺の目指すところにおまえは必要ない」

ディーンは鋭い瞳をなまえに向けると踵を返した。なまえはディーンの後ろ姿を見つめ、ディーンが消えると泣き崩れた。あーあ。取り返しのつかないことしちまった。
だが、これで良かったんじゃないの。だって、ディーンには意味のない殺しが似合っている。なまえに触れて牙が抜けるなんて、本人も望んじゃいないだろ。まあ、ディーンのことはよく知らないけど。

「悪い。俺もおまえのことが大事なのにこんな目に合わせて」

膝を折り、縮こまって泣いているなまえをしゃがんで抱き寄せれば、なまえは抵抗せずに俺の胸に顔を押し付けた。よしよしと頭を撫でるとなまえは大きくしゃくりあげた。
大事な幼馴染の恋、邪魔しちまった。だが、喜ぶべき状況なだけに全然反省していないし、後悔もしていない。今考えるべきことは、自警団の再編と、俺となまえのこれからだ。

「ディーンのこと、これで諦められたか?」

なまえに無言で胸を強く押されたが、俺はそれ以上の力でなまえを強く抱きしめた。

ALICE+