edelgard



なまえは楚々とした美人で花のように可憐で弱々しく、触れただけで萼ごと散ってしまうような儚さが体格や顔から感じられる、そんな女の子だった。

"学友"の仲では私が唯一気を置ける子なのだけれど、私の望む世界では彼女のような力のない子は淘汰されていくことは明白だった。このまま"友人"として彼女と一緒にいればいる程後の別れが辛くなるというのに、彼女とは距離を置くことができなくなっていた。

駄目だとわかっているのに彼女の持つ不思議な"力"によって私は彼女の許へ吸い寄せられ、ふとしたときに彼女の細い腕の中にこの身を投げ出したくなることがある。

今日も忙しい合間を縫って彼女の部屋に行き、ベルガモットティーになまえの作った焼き菓子と花の砂糖漬けをいただいた。

「あのね、この砂糖漬けはエーデルフラワーっていうの。エーデル、フラワー。エーデルにピッタリだと思わない?」

なまえは糸のように瞳を細めて笑った。険のない純朴そのものの笑顔に自分の胸が温かくなるのがわかる。

「貴女は私が花に見えるの?」

「そうよ。エーデルは花のようにとっても可愛らしいじゃない?」

「そうかしら?花は貴女の方だと思うのだけれど」

「ありがとう。嬉しい」

なまえは優しげで儚い笑みを浮かべると、焼き菓子に砂糖漬けの花の花弁を一片乗せて口に運ぶ。

私も同じような手順で焼き菓子と砂糖漬けの花を手に取っていただいた。
少し甘さ控えめに焼いた焼き菓子に砂糖のたっぷり乗った花の甘みと香りがスパイスとなって口の中が幸せになる。焼き菓子と砂糖漬けの花の組み合わせは今まで食べたお菓子の中で一番美味しい。

「はあ。エーデルと食べる焼き菓子は格別ね」

頬に手をやり、うっとりと幸せの溜息をつくなまえの姿を見て、私まで幸せを感じてしまう。

「ええ。私も貴女と食べる焼き菓子だけはいつも格別に美味しいと思うの」

「そうなの?私とエーデルは想いが通じ合ってるのね!」

「そうね」

なまえと微笑みを交わし合った。

なまえの言う通り、この刻だけはなまえと私は想いが通じ合っているし、心が触れ合っている。

そして、なまえと交わす微笑みの中には確かに愛が存在しているはず。私の勘違いでなければ、なまえの想いは私と同じ。熱を帯びたなまえの瞳を見ればわかる。

そんな瞳で見られたら、私は彼女を捨て置くことはできないし、彼女が私のやることに反対したら──絶対無いとは思うけれど──考えを改めてしまうかもしれない。そのくらい私は彼女のことを愛している。だから、だからこそ、今断ち切らなくちゃ──

「ねえ、エーデル」

テーブルに置いた手をなまえに上から重ねられた。今日は手袋をしていなかった。なまえから熱を直に感じて手が震えてしまう。気持ちを抑えようにも抑えきれる自信がなくなっていく。

「なに?」

「エーデルに聞きたいことがあるの。何か悩んでることはない?」

「ないわ」

なまえの問いに、一瞬でなまえが私の秘事に気付いてることがわかったけれど、なんとか声が震えないように力強く言い切った。

「そう……ねえ、たまには私の部屋に来て遅くまでお話ししましょうよ」

そんな誘惑に乗ってしまったら、私はもう後戻りできなくなってしまう。

「貴女と話していたら、楽しくて一睡もできないわ」

「できなくったっていいじゃない。ねえ、今夜待ってるわ」

なまえは花が香気を吐くような低く柔らかな声で囁いた。その声はまるで呪いのように夜まで私の耳にまとわりついて離れなかった。

そして、私は今なまえの部屋の前にいる。

一方的に約束された予定とは違い、夜半になまえの部屋の扉を開けると、なまえは起きていて、窓台の上に座っていた。

窓台に立てた片膝を両手で抱きながら、肩で波打つ髪を揺らして私を振り返るなまえの姿はとても美しく見惚れてしまう。白銀の光を浴びたなまえの肌は白く輝き、血色のいい鮮やかな唇の色がより肌の白さを際立たせている。

目の前に浮かび上がる白銀の誘惑に負けて、私は彼女の広げる腕の中へと泣きながら飛び込んだ。
私達は荒地では生きていかないわ。

 
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