ladro d'auto


 
「で、結局そいつはその女に騙されて車を盗まれたってわけだ。それからもう数ヶ月経ってる、っつーのに未だに『貸しただけだ』って言ってんだぜ?」

「ふふ……あはははは!その人面白い」

ギアッチョのマヌケ話を外国産の新車を運転しながら話してやると、ナマエは大ウケだった。
ナマエは昨夜出会ったばかりの女で、まあ身体の具合は悪くはなかったから試しで付き合ってもいいと思い、珍しく家まで送っていくところだった。

「あ、ビーチが見たいわ。それかここで休憩したいかも」

海岸沿いにあるリゾート地を通りがかると、ナマエは熱っぽい眼でオレを見つめながら、オレの膝に手を伸ばして摩ってきた。昨夜の情事を思い出し、たしかに休憩も悪くねえと思った。
通りに車を止め、目隠しにサンシェードをフロントガラスに被せようと運転席から外に出た瞬間、ナマエがオレの運転席に飛び移り、事もあろうかアクセルを踏み込んだ。

「オイ!」

開け放たれた窓枠に手を掛けたが、遅かった。車は猛スピードで通りを突っ切って見えなくなった。
最悪なことに財布が車ん中で、帰る手段がねえ。女の運転手を狙ってヒッチハイクでもしようと思ったが、ナマエの顔がチラついてやりたくなくなった。
あのナマエって女は何なんだ?オレを騙そうとする女は大抵ゴムに穴を開けたり、ピル飲んでねえのに飲んでるフリをするヤツばかりだった。目当てがオレじゃあねえってあり得るのか?
受け入れがたい現実だが、実際に起こっちまったことは仕方ねえと割り切り、「これが最善策だ」と自分に言い聞かせ、携帯を懐から取り出し、この状況を唯一理解してくれるだろう仲間にかけた。

「もしもしぃッ!?」

「ギアッチョ、タクシーでもレンタカーでもいいから迎えに来てくれねェか?他の仲間には内密にな」

「ああァ〜?車はどうした?」

「女に貸した」

「お、おう……それってどんな女だ?」

「ナマエっつーよく笑う女」

「……今から迎えに行くぜ」

ギアッチョの沈んだ声に色々察した。
ギアッチョに場所を伝えて、高台から海を眺めていると、県外からの観光客らしき女のグループに声を掛けられた。
一緒に泳がないかとか、モールに行かないかと誘われ、財布を落としたことを伝えれば、金を差し出してきたが、女に施しを受けるのはオレの主義に反して断った。
そうこうしているうちに、ギアッチョがシルバーのダセェレンタカーでオレを迎えに来てくれたが、運転席からオレを見るなり額に青筋を浮かべながら窓を開けた。

「おめーに仲間意識を持ったオレが馬鹿だったぜッ!!!」

ギアッチョがそう言い捨てて通り過ぎて行くのを見て、オレも仲間意識を持ったことを後悔した。

「なに今のー?」

「さあな。誰か10万リラ貸してくれねェか?明日、それに花を添えて返す」

秒で財布ごと差し出す女達を見て、益々ナマエという女の存在が理解できなったが、とにかくどんな手段を使ってでも、ナマエをぜってェ見つけ出してやることを心に固く誓った。

 
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